※この小説は原作終了後の世界を描いております。その為、役職等が変更になっている場合がございます。ご了承願います。




 ふと目が覚めたケスラーは、隣に寝ているはずの妻のマリーカの姿が見えない事に気が付いて一瞬ドキリとした。
 慌ててベッドサイドの小さな置時計を掴む。
 時刻は午前5時を少し回ったところ。
 普段起きる時間よりも1時間も早く、窓の外もまだ真っ暗だ。
 良く耳を澄ますと、階下のキッチンの方から何やら音がしているようだった。
 
 「おや、朝から格闘しているのかな・・・」


 キッチン戦士と化したマリーカの姿を想像し、微かな笑みを浮かべるケスラー。
 妻が起き出してキッチンで奮闘していると言うのに、ぬくぬくと寝てなんかいられなかった。
 ケスラーは軽い伸びとともに起き出して、2階にあるシャワー・ルームに飛び込んで熱い湯を浴びた後で、キッチリと軍服を着込んで階下のキッチンを覗き込んだ。


 そこには彼の予想通り、白いレース付きのピンクのエプロンで完全武装した、たくましい(?)キッチン戦士となったマリーカが、“食材”という敵を相手に奮闘中であった。
 右手にレードル、左手に小皿を持ち、鍋の中のスープをかき回しながら、その味見に余念が無い。
 何度も頷きながら、色々なスパイスを入れ、時々、首を傾げて何やら考え込んでいる。
 納得いく味付けにしようと没頭するあまり、ケスラーがこっそりと覗いている事に気付く気配が無い。


 「・・・おはよう、マリーカ」


 ケスラーに声を掛けられて、初めて彼の存在に気が付いたマリーカはビックリして飛び上がった。
 彼女は引きつりながらも、ケスラーに微笑みかけた。


 「あ・・・ウルリッヒ様、おはようございます!」
 「・・・朝から元気だね」
 「・・・ふふ」
頷きながら元気に微笑むマリ-カ。
 その仕草が何とも可愛く、ケスラーは思わず目を細めた。


 「・・・ずっと見ていたんだが、本当に精が出るね・・・」
 「・・・やだ!ずっと覗いていらしたの~!?もう、エッチなんだから!」
 「あ・・・人を覗き魔みたいに・・・」
 ケスラーが苦笑すると、つられてマリーカもクスクスと楽しそうに笑った。


 「・・・ふふふ。あの・・・今日は腕によりをかけてみたんです!・・・テーブルの上を見て下さいね!」


 何故か得意げな表情のマリーカに、多少の不信感を抱きながらも、ケスラーはテーブルの上に視線を移す。
 ポットにたっぷり入ったミルク、薄切りして軽くトーストしたライ・ブロートとレーズン入りのフレッシュバター、数種類のチーズ、カットしたフルーツ盛り合わせ、香味ドレッシングの効いたチシャのサラダに、パセリとオニオン入りのふわふわのオムレツ。
 いつもの朝食と大して変わらない料理が並んでいる。
 そして、湯気の立つ鍋には先程のマリーカの苦心作のスープが・・・。
 だが、見慣れぬエメラルド・グリ-ンの布に包まれたモノが食卓のほぼ中央に鎮座していた・・・。
 
 「マリ-カ・・・これは・・・」
 
 ケスラーがおずおずとその物体を指さすと、マリ-カは最上級の笑みを彼に向けた。
 「ふふ・・・実は今日はお弁当も作ってみたんです。・・・ほら、ウルリッヒ様、昨日、ミッターマイヤー閣下の事を羨ましいっておっしゃっていたでしょう?・・・だから、早起きして作ってみました!」
 「・・・お弁当・・・」
 思わず呟くケスラー。
 彼は、マリーカの爽やかな笑顔に圧倒されながら、昨日の事を思い出していた・・・。


 昨夜、いつもより早い時間に帰宅出来たケスラー。
 家でゆっくり出来る時間を持てた事を快く思いながら、お気に入りのレコードをかけ、夕食後、マリーカを相手にゆっくりとワインを傾けていた・・・。


 マリーカはお酒が全く駄目なので、彼女自身はオレンジジュースを飲んでいたが、ザウアー・クラウトや、茹でたフランクフルター・ブルスト等のつまみをテーブルに並べて、彼女も楽しそうにしていた。


 『最近、ミッターマイヤー元帥は弁当持参で出勤している』
 
 そんな話を聞き込んで来たのは、現在、宇宙艦隊司令長官のミュラー元帥で、彼にその話をしたのは、副司令官のバイエルライン上級大将らしい。
 バイエルラインは、元ミッターマイヤーの部下だった男だ。
 彼が主席元帥のまま国務尚書に就任したのを受け、ミッターマイヤーの率いていた艦隊の全権を引き継いだのがバイエルラインであった。
 ただし、階級はミュラーの方が上なので、彼は副司令官に留まっている。

 とにかく、バイエルラインはミッターマイヤーに近しい分、噂の出所は確かであろう。


 ミッターマイヤー夫妻には実子はなかったが、彼の親友だったロイエンタール元帥の生後間もない遺児を引き取り、フェリックスと名付けた。
 そのフェリックスも既に3歳。
 保育園に通う年齢で、エヴァンゼリン夫人は息子の為に、毎日、手作りのお弁当を持たせている。
 夫人手作りの弁当・・・それが羨ましかった夫のミッターマイヤーは妻に頼み込み、彼女は最近では、夫にもお弁当を作っていると言うのだ。


 「・・・愛妻弁当か。・・・羨ましい話だな」


 ほろ酔い気分のケスラーが何気なく発したこの言葉を聞いたマリーカは、それなら自分も・・・と、翌朝、早起きしてお弁当を作った・・・という訳である。
 
 「・・・なぁ、マリーカ。これの中身は何かな?」
 「ヒ・ミ・ツ・です!今言ってしまったら、お弁当箱を開けた時、面白くないでしょう、ウルリッヒ様」
 マリーカは、笑顔で片目を瞑って見せる。
 「面白い・・・のかい?」
 「・・・ウルリッヒ様のお好きな物を入れてありますから、お昼を楽しみにしていて下さいね」
 「そ、そうか・・・」
 ケスラーは多少げっそりしたが、マリーカの屈託ない嬉しそうな笑顔の前には、弁当はいらないなどとはとても言えなかった。
 それに仕事で忙しい身なので、執務室で簡単に食べる事が出来たら、外に行くよりも時間短縮になって逆に業務がはかどるかもしれない・・・と、前向きに考えたのだった。


 7時半に、部下のローゼンマイヤー少佐が迎えに来て、ケスラーは官舎を後にした。
 お弁当は白い手提げの紙袋に入れられ、愛用のアタッシュ・ケースとともに後部座席に・・・。
 「・・・何が入っているんだろうな・・・」
 ケスラーの呟きに向かい側に座っていた少佐が反応し、「あの・・・どうかなさいましたか、閣下」と声を掛ける。
 だが、ケスラーは慌ててかぶりを振り、「いや・・・何でもない」と言うと、腕を組んだままゆっくりと目を閉じた。
 
 8時少し前にオフィスに到着したケスラーは一旦執務室に行き、荷物をキャビネットへ入れて会議室へ。
 部下達からの報告や、今日の予定確認と進み、早朝会議は滞りなく終了。
 ケスラーは、副官のヴェルナー大佐とともに執務室に戻って来た。


 ・・・デスクの上には、いつもの如く、彼の決済を待つばかりの大量の書類の山・・・。


 「ヴェルナー、今日の昼食の件だが・・・」
 執務室には、ハンス・ヴェルナー大佐の席もあり、彼はここでケスラーを補佐しているのだ。
 「はい・・・?」
 「・・・ん、今日の昼食は、外にも行かないし、テイクアウトもしない。その代わり、11:30<ヒトヒトサンマル>から12:00<ヒトニマルマル>まで、俺はここに籠る。だから、その間はヴィジホンも取り次がないでくれ・・・」
 「はぁ・・・緊急時は如何致しますか?」
 「・・・緊急時か・・・その場合は繋いでくれ。あ・・・でも携帯の方にな。でも、なるべくなら取り次がないでくれるとありがたい」
 「・・・はい」


 ケスラーにしては歯切れが悪く、曖昧な言い方にヴェルナーは多少納得しかねたが、ケスラーの妙にそわそわした様子に、もしかしたら、今日はお弁当なのかな・・・と考えた。


 11時半のほんの少し前、ケスラーは大急ぎでヴェルナー大佐を執務室から追い出した。
 彼がローゼンマイヤー少佐と昼食に向かうのを見届けると、ドアを完全ロックする。
 ついでに、ヴィジホンの回線もカットした。
 「緊急時には携帯があるからな・・・」と独り言を呟き、慎重にコーヒーを沸かし、キャビネットからそっと紙袋を引き出す。
 頬が緩むのを覚えながら、包みを解いてデスクの上に広げた。


 包みの中には2つのケースが入っていた。
 淡いピンクのケースの蓋にはコアラのプリント・・・。


 「う・・・随分可愛い弁当箱だな・・・」


 誰も見ていないのに、汗をかいてしまい、手でそっと拭うケスラー。

 中には、ケスラーの大好物の「サンドウィッチェス・ミット・アイヤークレーム」が入っていたが、何と、ブロートの形がハート型であった・・・。


 誰もいないのに益々赤面してしまったケスラーは、コホンと咳払いをし、慌ててもう1つの水色のケースも開けてみる。
 こちらの蓋はパンダ柄だ。
 真っ先に目に飛び込んで来たのは、真っ赤なブルストで作られたタコとカニだった。


 「これは・・・」


 ケスラーはやや眩暈を覚えていた。
 このタコとカニの形は、子供が好きな定番メニューであり、ケスラーもかつて子供だった時に、親にねだって弁当箱に入れてもらった事があった。
 他にはチューリップ型にカットされたゆで卵、真っ赤なミニ・トマト、そして、これまた、ハート型のハンバーグがケースに収まっていた・・・。
 そして、究極は、お弁当と一緒に入っていたマリーカの手書きのカードであった・・・。
 
 『心を込めて作りました。どうぞ、お弁当を楽しんで下さいね。あなたのマリーカより』


 淡いピンクのハート型のカード。
 しかも、画像とメロディー機能が付いていた。
 彼女の映像・・・を期待し、ドキドキしながらカードに付いていた、ピンクの小さなハート型ボタンを押した途端・・・。
 最近、少女の間で大人気のアイドル・グループのホログラフィと、彼等が歌う赤面モノのラブ・ソングが大音量で流れ出した。
 ケスラーは大慌てでスイッチを切り、溜め息をつくと、「参ったな・・・」と呟いて天を仰いだ。
 
 「・・・あぁ、誰もいなくて良かった・・・」


 そして、彼女の手書きのメロディ・カード付きの「愛のお弁当」は5日間続いたのだった・・・。
 


 最初の3日間はケスラーも耐えた。
 だが、4日目以降には、すっかり閉口してっしまった。
 部下や同僚達と外に食べに行けないので不自由この上ない。
 それに、この弁当の内容を同僚や部下達や知られたら・・・。
 特にゴシップネタを嗅ぎつけるあの男に知られたら・・・と思うと、恥ずかしさも手伝って、何故か苛立つケスラー。


 5日目は我慢の限界に達し、夕食後、とうとうマリ-カに、「もうお弁当はいいよ」とさりげなく進言してみた。


 「・・・あら、美味しくなかったのかしら・・・」


 心配そうなマリーカだったが、最近とみに忙しく、少々心にゆとりがなかったケスラーは、ついはずみで、「・・・ちょっとみっともなくて。あんなモノは恥ずかしいんだ」と口走ってしまったのである。
 「みっともなくて・・・恥ずかしい・・・?」
 マリーカの目が大きく見開かれた。
 ケスラーがそんな事を言うなんて思ってもみなかったので、悲しくなった彼女の身体は小刻みに震え、声も震えていた。


 「あ・・・いや・・・その・・・」


 失言に気付くケスラー。
 だが、時既に遅し・・・であった。


 「美味しくないなら、ちゃんとそう言って下されば良いのに・・・。いくらなんでも・・・ひどいわ・・・!」


 ケスラーはカードの気恥ずかしさを指摘したつもりだったが、マリーカは愛を込めて作ったお弁当全体を否定されたと思い込み、かなりのショックをうけたようだった。
 彼女は味には自信があったのだ。
 すっかり不機嫌モードのマリーカ。
 目にはうっすら涙が滲んでいる。


 「私・・・今日はゲスト・ルームで寝ます!!」 


 マリーカのいきなりの大宣言!
 食後のワインを気持ち良く飲んでいたケスラーの酔いはその瞬間に空の彼方にまで吹っ飛んでいた。


 「あ、おい、マリーカ!誤解だ・・・」
 「聞く耳持ちません!お休みなさい!!」


 ピシャリとそれだけ言うと、唖然とするケスラーを居間に残したまま、さっさと2階に駆け上がり、ゲスト・ルームに飛び込むと、ガチャッと大きな音を立てて鍵を掛けてしまった。


 「お~い、マリーカ・・・」


 ドアの外から声を掛けるが返事は一切なし。
 冷徹な憲兵総監の彼も、これには全く太刀打ち出来ず、ポリポリと頭を掻くしかなかった。
 そして、翌朝、マリーカは起きて来なかった・・・。


 「無理やり起こすのもなぁ・・・」


 全ては自分の失言のせいである。
 ケスラーは、自分でも不味い事を言ってしまったという自覚があるので、マリーカに何も言えず、気不味い思いで、溜め息を付きながらキッチンへ行く。


 ・・・ガチャリと冷蔵庫を開けてみる。
 ミルクと卵が2つ。
 少し堅くなったチ-ズと、昨日の夕食の残りの「トスカニッシャー・ブロート・ザラート」がボウルに少しあるだけだった。


 「おい・・・たったのこれだけか?」


 ケスラーは深い溜め息を付いて、小さな鍋でミルクを温めながら、2つの卵で目玉焼きを作り、残り物のサラダを口にした。
 シン・・・と静まり返った食堂で、結婚以来のさみしい朝食を済ませての出勤となった。




 「閣下・・・どうかなさったんですか?」


 書類の束を手に、ケスラーのデスクの前で、思いつめたような硬い表情のヴェルナー大佐が立っている。
 「・・・ん?どうかしたのか、ヴェルナー?」
 早朝会議の後で、ケスラーとともに執務室に戻った副官のヴェルナー大佐は、言うか言うまいかかなり悩んだ末に、漸く切り出した。
 「どうかした・・・ではありません。今日の閣下は凄くコワイです。会議の間も、皆を凄い目で睨んでいらしたじゃないですか。ロ-ゼンマイヤー少佐なんか、閣下を迎えに行ってここに戻って来た直後に腹痛起こして倒れて、先ほど、救急車で軍病院に運ばれたんですよ」
 「・・・え、ローゼンマイヤーが?」
 「あれ、ご存じなかったんですか?つい、30分も前の話です。医者の話では、ストレスによる急性胃腸炎だそうで、暫く安静にしないと不味いそうです」
 「会議の時・・・そんなに睨んでいた覚えはないが・・・」
 「いいえ、睨んでいらっしゃいました。・・・それは、それは、物凄い形相で」
 「・・・自分では気付かなかったが、そんなに凄かったのか?」
 「ブレンターノ上級大将閣下が、書類片手に震えておいででした・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」


 ケスラーは憲兵総監であり、妥協を許さない厳しい仕事振りで有名だ。
 だから、きつい表情を浮かべる事も多かったが、今日はいつも以上に怖さが全身から滲み出ていたらしい。
 会議室内に、ピリピリした異様な緊張感と言うか、冷え冷えした空気が漂い、まるでカプチュランカで、ブリザードが、ゴーゴーという音を立てながら吹き荒れているようだったのだ・・・。
 会議室に集まった部下達は、ケスラーから発せられる異様な「気」に圧倒されながら、容易に口が利けないほどだった。
 ケスラーと同じように、仕事に厳しい剛毅な憲兵副総監のブレンターノ上級大将ですら震えっぱなしであり、パウマン中将も首を竦めていたというのだ。
 「・・・そう言えば、今日の会議の報告の時、ブレンターノは少しどもっていたような気が・・・」
 「ええ、ブレンターノ上級大将閣下がどもられるなんて小官は初めて見ました。・・・軍の弁論大会で優勝した経歴がおありで、よどみない流暢なしゃべりが有名な閣下が・・・です。元帥閣下、本当に今日はどうなさったのですか?」
 心配そうな表情の副官に、ケスラーは覚悟を決め、この5日間の出来事を話したのである。
 
 「閣下・・・こう言っては何ですが、小官も似たような経験があるのですが・・・」
 「似たような・・・だと?」
 怪訝そうなケスラー。
 ヴェルナーは少々咳払いをした後で話し始めた。


 「・・・小官の場合も、新人の頃、恋人・・・あ、今の妻ですが、彼女の手作り弁当を持参していた事がありました。それで同僚達に思いっきりからかわれましてね。当時、彼女は良かれと思ってお弁当を作ってくれていたのですが、何しろ、ピンク色のハート型のケ-スに、サラダやハート型のオムレツ、ハート型にくり抜かれた人参のグラッセなどが入っておりましたので・・・。しかも、それが毎日続いたものですから、もう、穴があったら入りたいくらい恥ずかしかったのを今でもハッキリ覚えております・・・」
 「・・・ふむ・・・確かに俺の場合と似ているな・・・」
 「彼女の話だと、好きな男性にお弁当を作る場合、ハート型の料理を入れ、一緒に手書きのカードを添えると、2人の絆が強固になるという、古くからの言い伝えがあるそうです。少女向けの雑誌等にはその手の話題が豊富に載っているそうですよ。もしかしたら、奥様がお弁当を作られたのは、今回が初めてだったのではありませんか?」
 「・・・その通りだ。それにしても、弁当にそんな言い伝えがあるとは知らなかったな・・・。きっと、マリーカも雑誌の記事を読んだのに違いない。俺とした事が不味い事を言ったものだ・・・」


 マリーカは、妻とは言え、まだ少女と言ってもいい年齢なのだ。
 占いやまじない等には殆ど興味がないケスラーだったが、急に自分とマリーカの劇的な最初の出会いに思いを馳せると、何となく分かったような気がした。


 当時、皇妃ヒルダや、グリューネワルト大公妃救出の為に、ケスラーがブラスターを口にくわえて、柊館<シュティッヒパルム・シュロス>の壁に梯子をかけて上っている時、手を胸の前で合わせて、彼女が必死になって唱えていたのは、祖父から教わったと言う、「凶事よ、消えうせろ」という意味の、珍妙な呪文ではなかったか。


 『ホクスポクス・フィジプス』
 
 この呪文と同じように、彼女が初めて「夫」の為に作ったお弁当に、古くからの言い伝えを実行していたとしてもおかしくはない。
 ・・・世の女性は、昔から、「占い」やら、「おまじない」やらが大好きなのだ。
 ケスラーは会議の席上で、無言の圧力で部下に当り散らしていた大人気ない自分を恥じた。
 
 「・・・となると、マリーカには、ちゃんと謝った方が良いのだろうな・・・」
 
 可聴ギリギリの小ささで呟くケスラー。
 
 「そうですね。閣下は悪意があって、奥様に文句を言われた訳ではないのでしょう?そして、奥様の方も閣下をからかわれていた訳ではないでしょうし、良かれと思って取られていた行動とお見受け致します。ここは早めに閣下の方から奥様にキチンと謝られた方が良いかと思われます・・・」
 真剣なヴェルナーの言にケスラーは大きく息を吐いた。
 「・・・悪い。ちょっと顔を洗ってくる・・・」と言い残して執務室を後にした。


 「ふう~・・・。確かあの言い伝えは、『初めて彼氏にお弁当を作る場合』のまじないだったと思うんだが・・・。いやぁ、あの頃が懐かしくなったな。それにしても、若すぎる奥方を娶られた閣下も大変な事だ。全く・・・こういう喧嘩は犬も食わないって・・・ね」


 結婚して既に16年。
 4人の子持ちで、それなのにケスラーよりも3歳も若いヴェルナー大佐は、20歳以上も年若い妻を娶った上官の狼狽振りに肩を竦めながら、思わず吹き出してしまった・・・。


 

Das Ende 




 この作品は、とあるサイトの管理人さんのMさんから、ケスラーとマリーカの話を書いて欲しいと言われて書いたものだったりします。
 ケス&マリが犬も食わない喧嘩をして、不機嫌なケスラーに部下達が被害に遭って困り果てる・・・というテーマで。


 ブレンターノ、ヴェルナー、パウマンは原作にも登場しますが、ローゼンマイヤーはオリキャラです。


 本当は、この喧嘩に、ビッテンフェルト等の他の提督も巻き込みたかったのですが、ビッテンフェルトを出したら収拾が付かないし、ミュラーだと、別の話になってしまいそうなのでやめました。
 なので、被害を受けたのは部下達だけです。


 タイトルは、ドイツ語で「愛妻弁当」です。
 直訳すると、「妻の手作り弁当」なんですが、転じて、「愛妻弁当」って訳です。


 家に帰ったケスラーは、マリーカに謝って、ちゃんと仲直りして、またラブラブになるでしょう・・・とだけ言っておきます。
 2人の仲直りの方法は・・・読んだ方のご想像にお任せします!


 あ・・・因みに、ケスラーのお弁当に入っていたのは、単なる「卵サンド」で、グルメでも何でもありません。
 ドイツ語だと凄い料理みたいです。


 あ・・・夕食の残りにしたのは、「トスカーナ風ブロートサラダ」で、夏に食欲そそる一品とドイツ料理を紹介した本に書かれていました。


 この2つはケスラーの大好物らしい・・・って、勝手な設定です。

 因みに、仲直りをする2人の話はMさんが書いてくれましたが、もう、ケスラーから、ラブラブビーム!!って感じでした^^