少年時代にヤンが受けた教育は通信教育だけだった。


 これは、幼少の頃から父親の交易船に乗って、1年の大半を宇宙暮らしをしていた事が原因だった。
 同年代の友達が1人もいないので、学校に行きたいと思った事はある。
 だが、ヤン自身は、通信教育を苦痛に感じた事はなかったし、父親に「学校に行きたい」と言った事もなかった。
 それに、父のヤン・タイロン自身も通信教育だけで学業を修めていたので、息子を学校に通わせるという考えが全くなかったのだ。


 だが、1度だけフェザーンの学校に通った事がある。
 それは、ほんの3ヶ月の間だけであったが・・・。


 父親のタイロンは交易商人で、小さいながらも会社を持っていた。
 商売は下手ではなかったので、気質的にはフェザーン人に近かったのかもしれない。


 息子であるヤンを自分の交易船に乗せ、手広い商売で宇宙を行き来していた。
 だが、タイロン達は今までフェザーンに降り立った事は1度もない。
 ハイネセンやテルヌーゼン等の自由惑星同盟側の星に品物を運ぶ・・・そんな交易パターンだったのである。
フェザーン外周には行った事があるが、今までフェザーンには行った事がなかったのだ。


 ところが、ヤンが12歳の頃、どうしてもフェザーンに直接行って、その目で確かめなければならない商品があった。
 実は、タイロンはその商売にはあまり乗り気ではなかった。
 何しろ、交渉に数ヶ月を要するというので、その間、他の仕事をキャンセルしなくてはいけない。。
 だが、今持ちかけられた話の儲けは確実で実入りが大きい。
 両天秤にかけて吟味した結果・・・。
 タイロンはフェザーン行きを決意する。
 どうしても時間がかかりそうだったので、タイロンは息子のヤンも連れてフェザーンの土を踏んだのだ。


 タイロンがあらゆる伝を使ってくれたお陰で、ヤンはフェザーンの私立学校に転入する事になった。
 通信教育ばかりで、息子に同年代の友人がいなかった事を、タイロンなりに多少は危惧していたのかもしれない。
 その学校で出会ったのが、『悪たれボリス』こと、ボリス・コーネフであった。
 ヤンはボリス達よりも年上だったが、ヤンが彼のクラスに転入したのは理由があった。
 ヤンの受けている教育が通信制であった為、レベル的に全日制の教育を受けているクラスでは不利だったからだ。
 そして、ヤンがフェザーンで過ごした3月の間、ボリスが繰り広げるの数々の悪戯は、大人達が舌を巻くほど大成功していた。
 ・・・ヤンが参謀然として、周到な作戦を練っていたからである・・・。




 「さぁ、皆さん、立派なフェザーン人となる為には、色々な事を若いうちに吸収する事が肝心になってきます。いいですか。同盟の公用語を覚えておくのもその為です。将来きっと皆さんの役に立つでしょう。ですから今日は、『The World 』という言葉をタイトルに組み入れて、将来どうしたいか、作文を書いてみて下さい」


 女性教師の指示で、全員、ワードプロセッサーを起動させる。


「ちぇ・・・こういうのって本当に面倒くさいなぁ・・・。なぁ、お前書ける?」
 「うん・・・まぁ・・・」


 隣の席のボリスの問いかけられて、ヤンは頭を掻きながら曖昧に返事をする。
 作文はどちらかというと苦手だ。
 しかも、出来上がった物を、皆の前で発表させられるらしい。
 通信教育ではこんな事をしなくてもいいのに、学校ってのは結構面倒なんだな・・・と、ヤンは逃げ出したい心境だった。


 ボリスはふて腐れていたが、時間が迫って来たので、キーボードを操作して、慌ててタイトル欄に、『About the business of the good in the world』と打ち込んだ。
 彼の頭の中にはフェザーン商人として出世するヴィジョンが既に出来上がっている。
 だから、面倒だと言いながらもつらつらと書き出した。


 自分の親もそのまた親も独立商人だ。
 他の親戚が雇われ商人なのに対して、我が道を切り開き、人を使う立場の商人に出世している親の事はそれなりに尊敬していたのだ。
 商売だの、利益だのの話をいつも聞かされているボリスには、この手の内容に関してなら楽であった。
 面倒なのは、この作文を同盟公用語で書く事だけだったのだ。


 一方ヤンの方も何を書いて良いか悩んでいたが、やっとの事でタイトル欄に『The investigator of the world history』と入力した。


 今まで宇宙のあちらこちらを回っていたが、将来歴史学者になるにはただ本を読むだけじゃなくて、実際にあれこれと歴史的な物をに触れて見聞を広めた方がいい。
 自分のしたい研究で生計を立てて、自由気ままに生きるのもいいなぁ・・・と漠然と思っていた。


 その為には大学に行って・・・学部は史学科。
 許しが出るかどうか分からないけれど、多分、親父なら分かってくれると思った。
 こういう勉強は通信教育では教えてくれない。
 ・・・せめて、大学ぐらいは通って、「学生生活」というものをやってみたかった。

 なりたい職業は、歴史学者・・・。


 父親のタイロンは自由気ままなタイプだったし、組織に縛られたりしないで自由に出来る仕事がいいな・・・と思っていたのだ。
 その為には、世界を広く見て回った方がいいはずだ・・・。
 自分の知る限りの歴史研究家には、そういう自由人っぽい人が多かったし、ヤンは本などを読んで、彼等に憧れを抱いていたのだ。

 
 こうして、この作文を書いた3日後、父親の仕事の終了で、ヤンは学校を転出してフェザーンを後にした。





 そして、それから数年後・・・。
 歴史学者になって自由に生きたいと望んでいたヤンは、彼の思惑とは別に軍人になっていた。
 自分が最もなりたくなかったであろう職業に就いてしまった。


 だが、自分の思いとは裏腹にヤンは、天才的な戦略家であり、その才能故に不本意な出世を遂げた。
 結果・・・組織から抜け出すのが困難な状況になっていた。

 一方ボリスは子供の頃から思い描いていた通りに順調に独立商人となり、やがてヤンと再会する。


 ヤンと再会した時に、ボリスは不意に子供の頃の作文の事を思い出して、ヤンに「懐かしい話」として切り出してみた。
 ヤンは半分忘れかけていたが、ボリスに「お前さん・・・確か世界史研究家って書いてたぞ」と言われて、漸く思い出した。


 「・・・あぁ、思い出した。作文を皆の前で読まなくてはいけなくて恥ずかしい思いをしたんだよな。結局歴史研究家にはなれなかったなぁ・・・。自分でもまさかこういう人生を送ろうとは思っていなかったよ。だけど、別の意味では見聞を広められたかもしれない・・・かな。ま、そう思わないとやっていられないんだけどね」
 
 ヤンは微かに笑って紅茶を啜った。


 (確かに人間ってのは、思うように事が運ぶのは稀なんだよな・・・)
 
 順調そうに見える自分自身にだって色々あった事を思い出したボリス。
 彼もまた遠い昔を懐かしむように、ユリアンの淹れてくれたシロン葉の芳香漂う紅茶に舌鼓を打った。




 THE END



 
 100のお題での作品です。


 「the world」・・・何を書こうか迷いました。
 このタイトルで書くのは難しかったです。

 英語なので、ヤンのいる世界を書いてみたかった。


 でも、最初にネタというか、案にしたのはヤンは登場するけど、全く別の話でした。
 しかもその話は途中で挫折して。


 それで帝国サイドの話にしようかな・・・とか、色々悩んだ末に、舞台をフェザーンにしてみました。


 ボリスとヤンは子供の頃に面識あるし、第一、ボリスはイワン・コーネフの従兄弟だって思い出して。
 うう・・・適当。


 でも、このタイトルでどうやって話を書けと??

 私・・・英語って凄く苦手なんだよねぇ・・・。
 高校生の頃に英検4級を受けて見事に落ちたしね。
 英検はそれ以降受けてない・・・それほど英語は苦手だって事で・・・。
 
 とにかく、どうするか悩んで悩んで・・・こんなものになりました・・・爆!

 駄作でスミマセンが・・・><;


それと白状しますと、私はヤンのファンですが、ヤンで二次小説・・・意外と難しいです。

 それは、ライ&キルでもそうなんですが。


 ここまでの作品を読んで、ライ&キルが出てないね・・・と思った人、鋭い!!


 あと、双璧も・・・書いてないや。

 ロイエンタールだけとか、ミッターマイヤーだけ・・・ってのはあるんだけど。


 これらは、他の方が書いているので、私は目立たない人を書こうと思っているからかもしれません。


 その内に書くかもしれませんが・・・ご容赦下さいませ。