(この小説は便宜上、帝国マルクを円換算しております。また、原作終了後の世界を描いていますので、階級や役職が違う場合がございます。ご了承下さいませ)
「閣下・・・来週の土曜日の午後は空いていらっしゃいますか?」
突然、ビュンシェ中将に声を掛けられて、軍務尚書であるメックリンガー元帥は、本日最後の決済書類に流暢な筆致でサインを書き終えてから、怪訝そうに部下に視線を移した。
「実は・・・これが当たりまして・・・」
目の前に差し出されたのは1枚の招待状だった。
『開運!何でも鑑定隊・出張!名画鑑定大会 特別ご招待』
「これは・・・」
メックリンガーは訝しげに部下を見やる。
「・・・あの・・・最近、人気がある立体テレビ<ソリ・ヴィジョン>の番組で、『開運!何でも鑑定隊』というのがあるんです。これはその番組の公開収録なんです。・・・あの、閣下はこの番組をご存じないですか?」
「・・・知っていますよ。骨董や絵画・・・時には玩具等のキャラクター物とか、マニアには人気の番組ですね。私も、いつもとはいかないが、時間がある時は・・・たまに見ていますよ」
「そうですか。それならご存知でしょうが、この番組の名物コーナーが出張鑑定なんです。視聴率が高いのですが、番組の観覧が出来るのはこの出張鑑定のコーナーだけだそうで、観覧希望の倍率が非常に高いそうです。小官もまさか当たるとは思わずに応募したのですが、運が良かったようでして。・・・しかも、今回の鑑定は名画大会ですし、これ1枚で2人まで入れますから、絵画がお好きな閣下もご一緒にどうかと思いまして・・・」
「名画鑑定・・・それは面白そうですね」
メックリンガーが興味を持ってくれた様子にホッとしながらビュンシェは更に話を進める。
「名画鑑定では、時々、ビックリするような珍品なんかも出て盛り上がりますし、世紀の大発見!なんていうのもありますし、ナマでは滅多に見られないものですから・・・」
「・・・それで時間は何時からです?」
「集合は、13:00<ヒトサンマルマル>で、指定の場所に集合して整列後、招待状にある整理番号順に入るそうですから混乱する事は無いと思います。このカードによると・・・263番、264番だそうです」
「場所は?」
「あ・・・失礼しました。ホテル・バタビア3階のフリージアの間で撮影だそうです。ただし、集合は隣のアカシアの間になっているようです。収録は14:00<ヒトヨンマルマル>からで、約1時間半だそうです。放送では10分程度ですが、鑑定に時間がかかるそうで・・・」
「・・・時間は大丈夫ですよ。ちょうど良かった・・・その日は空いていますからね。是非、一緒に行きましょう。これは今から楽しみですね。誘ってくれてどうもありがとう、中将」
メックリンガーは、自分は良い部下を持ったと、心ときめきのウキウキ状態であった・・・。
実は彼は毎週必ずこの番組を録画していたし、彼自身もこの名画鑑定にはメールやハガキで応募して・・・玉砕していたのだ。
当日、2人は私服でホテルへと向かったが、完全にラフな格好のビュンシェと違い、メックリンガーはこれから格式高いパーティにでも行けそうなカッチリした格好で、それはそれは対照的であった。
「閣下・・・また随分ご立派な・・・」
ラフな格好の自分を恥じ入ったビュンシェだったが、他の観覧者は彼と似たような格好なので、本来なら恥じ入る必要などは全くない。
むしろ浮いているのはメックリンガーの方だったのである。
彼は周りを見て苦笑していた。
「ここはそれなりに格式の高いホテルですから、ちゃんとした格好・・・と気を使ったのですが、どう見ても他の方々の恰好もラフですね・・・」
「・・・・・・・・・」
ビュンシェはどう答えて良いか迷ってしまった。
名画鑑定大会は、高名な画家が無名時代に友人に贈った未発表物の絵画、借金のカタに手に入れた巨匠の絵画が真っ赤なニセモノだったり・・・と、絵画に造詣が深いメックリンガーにとっては実に楽しい時が流れていた。
編集してしてしまえば、10分足らずのコーナーだが、鑑定には時間がかかるし、なにぶんにも、鑑定を依頼する出演者が素人なので、段取りを忘れてしまってNGを連発したり。
普段は、スクリーン越しにしか接していない番組の裏側が覗けて、メックリンガーもビュンシェも収録を楽しんでいた。
「さて・・・次の方は、はるばるオーディンからお越しになった、クラウス・マティアス・グラーヴさんです」
紹介されて現れたのは・・・頭髪が殆どない、恰幅の良い初老の男だった。
「さて、ヘル・グラーヴのお宝は・・・こちらです!!」
アシスタントの華やかな装いの女性によって、艶やかなな紫のシルクサテンの布が取り払われる。
そこに現れたのは・・・。
キチンと額装されてはいたが、明らかに子供の絵と分かる物で、画用紙に描かれたクレヨン画だった。
「これは・・・クレヨン画ですね。有名な画家の方の絵なのでしょうか?それにしては、私にはお子さんの描いた絵に見えますが。・・・さて、ヘル・グラーヴ。これはどういった絵なのですか?」
大きくて真っ赤な蝶ネクタイをした司会者が尋ねると、グラーヴ氏は緊張の為か、汗を拭き拭き答えた。
「え・・・と、これは『鬼ごっご』をしている絵です。お察しのとおり、これは子供が描いた絵です。実は私はオーディンで幼稚園の保父をしておるのですが、この間、園を改築する事になりました。そして倉庫等を色々と整理していたら、この絵が出て来たという訳なんです」
「じゃぁ、これは、園の子が描いた物なんですか?」
「はい・・・。額を外して画用紙の裏の名前を確認して頂ければ・・・」
その日の2人の高名な鑑定士が白い手袋をはめ、慎重に額から外して名前を確認して目を大きく見開いた。
「こ・・・これは素晴らしい・・・!!」
「珍品中の珍品ですな。ファンなら垂涎の絵です!!」
普段は厳しい事しか言わない鑑定士の2人が手放しに褒めたので、一気に会場中がざわつく。
絵画専門の鑑定士などはいつもの上品さは無く、声が完全にひっくり返っていた。
「それで・・・誰の絵なんでしょう?ヘル・グラーヴ?」
司会者が勿体ぶって尋ねる。
「エルネスト・メックリンガー元帥閣下の描かれた絵です!」
それを聞いた瞬間、メックリンガーは椅子から転げ落ちそうになり、ビュンシェもあんぐりと口を開けた。
小声でそっと囁く・・・。
「閣下・・・描かれたんですか、あの絵を?」
「・・・あ、冬休みの宿題・・・」
メックリンガーの埋もれていた記憶が甦り、そう呟くと、慌てて口を押さえた。
・・・覚えがあったのだ、絵に。
幼稚園に入って初めての冬休みの宿題で描いた絵で、年明け早々のコンクールで賞を取って確か美術館に飾られた事までは記憶にある。
だが・・・その後、その絵がどうなったのか分からなかった。
まさか、幼稚園にそのまま残っていたとは・・・。
(お、おい!!ちょっと、待ってくれ・・・!鑑定って!?あ・・・あれに値段が付けられるのか!?・・・うわぁ・・・もう、お願いだからやめてくれ~!!!)
メックリンガーは、目の前で繰り広げられようとしている光景に目眩を覚えた。
ずっと握り締めている手がじっとリと汗ばむ。
早くこの場から逃げ出したかった。
「それじゃぁ、ご本人の評価額はどれぐらいに?」
「そうですねぇ・・・高名な閣下の絵ですが、何分子供の時の絵ですし、保存状態もイイとは言えないし、クレヨン画ですからねぇ。えっと10万円ぐらいでお願いします・・・」
「分かりました、それじゃぁ、鑑定士の先生方、10万円でお願いします。・・・そして、気になる鑑定の結果は!ジャカジャ~ン!!おお~!!50万円です!何と5倍に値上がりしました!それじゃぁ、ちょっと鑑定士の先生にお話を伺ってみましょう!」
司会者が急に真面目な顔をしたので、ややざわついていた会場も固唾を飲んで、鑑定士の言葉を待っていた。
「いやぁ、これは大変に素晴らしい物ですよ。メックリンガー元帥閣下の絵は、帝国アカデミーで賞を取ってからは評価はうなぎ上りになっていますが、昔の絵はあまり残っていません。ましてや、これは画用紙にクレヨン画ですからね。珍品中の珍品ですよっ!!そういう意味では非常に貴重と言っていいでしょう。どうか、これからも大切になさって下さい。これは、これからも価値が上がるでしょうし、この値段はオークションに出した時の最低の値段ですね。この値段なら、将来の価値を考えて安い値段だと思います。いやぁ、私が買いたいぐらいですからねぇ」
「いやぁ、素晴らしい物を見させて頂きました。こういうものが出てくるからこの出張鑑定は楽しいのですよ。目の保養になりましたな。・・・どうか、これからも大事になさって下さい」
2人の鑑定士は先ほどから、褒め言葉しか言わない。
グラーヴ氏は薔薇色の表情を浮かべて、絵をシッカリと胸に抱いた。
「う・・・うちの幼稚園の宝にします!!」
「おい・・・ビュンシェ・・・帰りたくなって来た・・・」
小声で囁くメックリンガー。
どんな小さな穴であっても・・・穴があったら入りたい心境になっていた。
「閣下・・・我慢をなさって下さい。・・・まだ収録の半分ですし、ここで帰ったら逆に目立ってしまいます」
その通りであった。
「・・・それに、不幸中に幸いですが、後ろの客席は殆ど写りません。写るのは前の方だけで、前に座っているのは関係者の家族などです。他の客は盛り上げる為に拍手したり笑ったりが仕事のような物で・・・」
「う・・・分かった・・・」
メックリンガーは弱々しく笑った。
このショックがあとを引き、後半の鑑定は殆ど目には入らなかった・・・。
そして、後日、予想もしていない事が起る。
放送の為に収録した映像を編集していたスタッフの1人が、上手側の後方客席に小さく映るメックリンガーの姿を見つけたのである。
さぁ、それからは大変・・・。
メックリンガーは放送日に間に合わせようとしたテレビ局のスタッフから取材を申し込まれ、幼稚園の時に描いた『鬼ごっこ』の絵の解説をさせられ、笑顔で当時の事を語る羽目になった。
(な、何故・・・こんな目に・・・T-T・・・)
メックリンガーの心の中は(T-T)涙の洪水で満たされ・・・顔で笑って心で泣いて・・・というヤツである。
そして、放送終了後、国務尚書のミッターマイヤーをはじめとする他の同僚達にからかわれ、更には、皇太后のヒルダや幼帝アレク<プリンツ・アレク>からも、からかわれたのは言うまでもない・・・。
Das Ende
100のお題より、「鬼ごっこ」です。
「鬼ごっこ」は、最初、ライ&キルとか、戦闘そのものを書くか・・・とか色々考えたのですが、メックリンガーにしてみました!!
私が書くのですから、思いっきりお笑いです。
このギャグを土師さんの声で読む・・・うーん、シュ-ルだわ。
あの声で・・・あの声で・・・キャハハハハ^^@
因みに原作終了後の世界ですので、メックリンガーは元帥で軍務尚書になっているオリジナルの設定です。
ビュンシェは局の回し者・・・って事は無いでしょうが、踏んだり蹴ったりのメックさんでございました・・・。
ベースになっているのは『開運!何でも鑑○団』ですが、都内の某ホテルで行われた『コイン・切手大会』の収録には行った事があります。
あと、『石鑑定』も行ったなぁ・・・。
客席の後ろだと、コインや切手なんか、殆ど見えないのでただ単に拍手をしているだけでした・・・。(放送を見て、あぁ、こういうのだったのね・・・)って納得したもんです。
さて・・・。
番組観覧は、はがきをテレビ局に出して当たってから行く場合と、番組観覧を斡旋している会社に人材登録をして、好きな番組を観に行く・・・というパターンがあります。
私の場合は後者のパターンで観覧に行く事が多いです。
因みに交通費は自分持ちで、番組にもよりますが、謝礼として500円から1500円ぐらいが後日指定口座に振り込まれます。
会社によっては、その日の内に現金払いなんてところもあります。
鑑定団のようにホテルで収録などと言うものから、テレビ局、テレビ局以外のスタジオ、様々なところで収録は行われますが、今までで一番きつかったのは、お昼にTBSに集合して12時間後に収録が終った「ザ・イロモネア」の第一回収録でしょうか。
因みに私はテレビにバッチリ映っていたので、放映後、色々な人にからかわれました・・・。
他にも、みのもんたさんの番組に行った時も、テレビには映らないと言われている席にいたのに、「そこの青い服を着たお姉さんどう?」って、いきなりみのさんが客席に振って。
青い服は私だけ。
その瞬間にカメラは向く、照明と音声さんも向く・・・。
私は引きつった笑顔を向けて、「お・・・美味しいです~!」と言いながら試食しているのね、ピスタチオのケーキを。
私は怖くてオンエアを見ませんでしたが、親戚の人が見たらしくて・・・電話かかって来た・・・。
ものすっごいアップで映ってたんだって・・・ひえ~T-T・・・。
しかし、メックさんのクレヨン画・・・実際にあったら見てみたいです。