宇宙暦796年10月下旬。


 アムリッツァ会戦終結後、俺は自由惑星同盟軍の『第14補給基地』の司令官となった。
 『司令官』と言えば聞こえはいいのだが、この新しい赴任先は首都星のハイネセンから遠く離れたとんでもない辺境だった。
 何しろ、イゼルローン要塞よりも遠いのだ。
 早い話が、敗戦の責任を取らされて、体よく左遷させられた・・・という訳だ。


 「あら・・・でもすぐに戻れるわよ」


 今回の異動で、多少落ち込んでいる俺を気遣ってくれたのか、俺の荷物をダンボールに箱詰めしながら妻はそう言って微笑んだ。
 この微笑みに俺はドキリとする。
 俺の気持ちを汲んでいるのかどうか分からないが、妻は手を休めて俺に向き合った。


 「ええ・・・っとね。私が思うに・・・きっとね、ヤンさんは楽をしたがって、早々にあなたを呼び戻すと思うのよ」


 彼女はいつものように予言めいた事を、ちっとも慌てた様子を見せずに言う。
 「・・・早々にだと?そんなに上手く行くと思うのか?」
 俺は苦笑を浮かべたが、彼女はいやに自信たっぷりだ。


 「あら。絶対になると思うわよ」


 極上の微笑みを浮かべて言いきった。

 その自信はどこから来るのやら・・・。

 ・・・そして。
 大抵、彼女が笑顔で太鼓判を押す時は、本当にその通りになるのだ・・・これが不思議な事に。

 預言者・・・この言葉がシックリくる。

 絶対に、前世は呪い師か、預言者だったに違いない・・・いや、現世でも預言者か?



 宇宙暦797年1月。

 

 異動の辞令が出て、俺のイゼルローン要塞への再赴任が決まった。


 「要塞事務官」としての赴任。
 要塞事務官ってのは、早い話が、イゼルローン要塞の“市長”に相当する立場である。
 これで、ヤンは後方事務に悩む事無く、前線で指揮をする事が出来る。
 つまり、事務の事は俺に任せて・・・本当にヤンは“楽”が出来るのだ。


 こうして俺は、自分の家族ともども要塞へ・・・。


 イゼルローン要塞の官舎での夕食時に、俺は妻に切り出した。


 今日の夕食は、自家製の焼き立てのパンに、ビーフシチュー。
 ハーブの効いたフライドチキン。
 そして、数種類の野菜を使ったフレッシュサラダ。


 「・・・いつも思うんだが。オルタンス・・・お前はまるで預言者だな。まさかこうも早くここに戻れるとはな」


 「あら、私は預言者じゃないですよ。あなたは本当に大袈裟ねぇ。だって、本当にそうなると思ったのよ。・・・そうそう、あなた。『真昼の月』っていうのを知っています?」
 急に話を変えられて俺は面食らう。
 「何だ、それは・・・」
 「ほら、月って昼間は見えないでしょう?本当はいつもそこにあるのに見えないの。・・・それは、太陽の陰になっているから」
 「あぁ・・・そうだな」
 そう答えながらも、俺には妻の意図がまるで分からなかった。
 何故、今、そんな話をするのか?


 「あのねぇ・・・古い詩にあるんですよ。『真昼の月はいつも見ている。小さな幸せも絶望も。太陽の影に隠されても、お前がつらい時でも見つめてる』と言うのだけれど、ねえ、あなた・・・ご存知かしら?」


 そんな詩は聞いた事が無い。
 大体・・・意味が分からない。
 「・・・それ、有名な詩なのか?それが一体どういう・・・」
 「有名かどうかは知りませんけど、地球時代の古い古い詩なのですって。だから・・・そう、私は真昼の月なのよ。ふふふ・・・あなたに見えない事もちゃんと見ている訳ね。私には、全部・・・お見通しなのよ。・・・だから予言でもなんでもないの。そして、あなたは私には隠し事は出来ないのね」

 ・・・にこやかに微笑みながら、何だか意味深な事を言う。
 この笑顔の裏側に“何か”を感じた俺は、急に不安を覚えた。


 「・・・お見通しって・・・。大体、俺がいつ、何を隠したって?」


 「まぁ!何を・・・って、そんな事をお聞きになる時点であなたの負けね。あなたは、常に完璧にしているおつもりなのかも知れませんけど、ふふふ・・・意外なところで詰めが甘かったりするのよ」
 
 またしても自信ありげな笑み・・・思わず、身を固くする。

 「お前・・・一体、俺の何を知っているんだ・・・?」
 「寝室の本棚の・・・辞書の裏側にバーボンがありましたけど?・・・今は私が預かってますけど」

 「あ・・・!」

 俺は思わず口を押さえた。
 それは、司令部で三次元チェスをやった時に、“ヤンがどれだけ負けるか”を賭けて、ヤン自身からせしめた貴重な酒だったのだ。
 1人でこっそり飲もうと思って・・・上手く隠したつもりだったのに。
 ・・・ううう。
 掃除の時にでも見つけたのか・・・全く、オルタンスは・・・千里眼だな。


 「・・・なぁ、それって・・・。もしかして没収か?」


 あれは、かなり高級な酒なのだ。
 賭けに負けて俺に奪い取られる時に、ヤンが「本当に渡さなきゃダメなのかな・・・参ったなぁ・・・」と渋ったほどの。


 「・・・これからも私に内緒で隠し事をなさるおつもりならね」
 「分かった。降参だ。・・・隠すのをやめる。だから没収だけは・・・な?」
 「はい、分かりました。でも、こっそり飲むのはやめて下さいね」
 にっこり微笑む妻に、俺は頭痛を覚えていた。


 あぁ、どうしていつもこうなるのだ・・・。
 俺は、オルタンスにだけは本当に頭が上がらない。


 出来れば、この才能だけは2人の娘に受け継がれませんように・・・。




 THE END




 預言者?のキャゼルヌ夫人です。
 100のお題からです。


 まぁ、早い話・・・夫婦の会話の一部分を切り取っての短編にしてみました。


 因みに、『真昼の月』は聖飢魔Ⅱの曲のタイトルにもありまして、引用した歌詞(微妙に違うけど)も入っています。
 補足しておくと、『よどんだ雲が遮る日も、お前が暗い時でも・・・』ってのがBメロの歌詞です。
 信者である私は、この曲を聴いていた時、オルタンスさんに使えるかな・・・って思ったんですよね。


 聖飢魔Ⅱの期間限定の復活ミサの全国ツアーですが、多分、10か所以上行く事になろうかと・・・アハハハハ。

 ただ、もし、この曲をやるとしたら・・・英語なんだろうか??

 今回のツアーは・・・多分、半分以上の曲は英語バージョンになるのではないかと予想されます・・・。


 さてさて・・・。
 キャゼルヌって、仕事面ではシッカリしているけど、家では奥さんに上手~くコントロールされているって言うか。
 原作でも、アップルパイの話とかが出てきますが、彼女は意外と策士です。
 まぁ、彼女の父はキャゼさんの元上官ですから、彼女自身、軍についての深い知識はありそうです。

 キャゼさんは心配していましたが、2人の娘は、オルタンスさんに似ると思うわぁ。


 オルタンスさんの玉川さん・・・絵と声がピッタリでしたね。

 銀の声優さんは何かしら主役(または準主役)を張った事のある人ばかり起用しているので、安心して見ていられました。

 玉川さんは「レディ・ジョージィ」でジョージィのライバルを演じてて凄く良かったです。

 因みにジョージィ役は、エヴァンゼリンの山本百合子さんです★


それから補足を。
 作中に登場させたイゼルローンへの再赴任の日付。


 これは原作の物を重視して書いております。
 OVAは若干時期がずれるようですが、まぁ、私は、基本は原作派なので。(アニメは声は好きなんだけど、内容的には時々、「?」となったりします。少なくとも第一期のアムリッツァぐらいまでは、ストーリー展開の部分などで、多少の忍耐が必要だった・・・と、付け加えさせて頂きます)


 それにしても、2人の娘の内、下の子は何故、最後まで名前が無かったのかしら?
 長女なんて、シャルロット・フィリスなんて、ミドルネームまであるのにね。

 そこで、二次小説を書くに当たって、私は下の子に、名前を付けてあげました。
 それは・・・ ルーシー・メイ です。

 気付く人は気付くかな??
 名作アニメの、「南の虹のルーシー」から頂きました。
 そう言えば、ルーシーのお父さんは、ルッツ提督役の堀さんでね。
 ルーシーのお姉さんは、クララって言うんだけど。
 お父さんが「クララ」って呼ぶ度に、ルッツの彼女のクララさんを思い出すという・・・馬鹿な私・・・。
 別の意味で萌えなんですが・・・何か?


 そう言えば、以前、キートンさんに、銀河英雄伝説の二次小説を書くなら、キャゼルヌ夫妻の話を書きたいって話した事がありました。

 「うん、あの夫婦はいいよね」ってキートンさんも言っていたし。

 その時は、これ・・・書いてなかったんです。


 やっと書けたな・・・って感じです。

 お粗末さまですが・・・ww