ハイネセンでは、公共の電車、バス・・・ありとあらゆる交通手段には、派手な広告が書かれている。

 特に電車内の広告の派手さは、帝国から来た人間には衝撃が大きかった。
 そして、時には、内部にとどまらず、電車の外側も派手な広告塔になる。
 普段は赤や黄色のラインが1本だけ入ったメタリックシルバーのシンプルな電車も、企業の広告だらけになると途端に派手になり、異様な雰囲気を醸し出す事もある。
 人気の高いアイドル歌手が主演する映画などは、キャンペーン用に映画のチラシをそのまま車体にプリントして走らせたり。

 季節毎に広告も変わる。

 春は花屋の宣伝、秋はビール会社、秋は・・・といった具合である。
 とにかく、電車の外部も内部も・・・いつも、広告だらけであった。
 ドアというドア、窓、天井から吊るされた広告やはめ込み式の物、座席、つり革にまで広告がびっしりなのだ。
 ここにいる人間はこれらの広告に目眩を起こさないのか・・・と思うが、市民達は誰も文句を言わない。
 混んでいると気が付きにくいが床にまで広告がある。


 帝国から来た人間は、空いている時間に乗るとつい目が行ってしまうらしく、帝国軍の兵士の中には広告を見ているうちに電車から降り忘れた・・・などという者までいたのである。


 電車の広告で更に驚くのはドアの真上にある電光掲示板である。
 これは2つあって、ドアが開く方にあるのが路線案内で、反対側にあるのが広告やニュースであった。
 路線案内の方は、「NEXT」の文字が点滅し、次の停車駅が書かれている。
 これで、乗客は次にどこに行くのかという事と、どちら側のドアが開くか、次の駅には何線があるのかを把握する事が出来る。
 更に、『電車内では携帯電話を切りましょう』とか、『お年寄りに席を譲りましょう』、『マナーを守って乗りましょう』だのと言ったマナーに関する言葉も、繰り返し点滅する。
 時には、お得な割引切符の宣伝なんかもしてしまう。
 そして、路線案内と反対の電光掲示板には、事件などを報じる『ニュース』、『今日の運勢』や『天気予報』、『株式市況』に『沿線での催し物の案内』など、あらゆる事柄が表示される。
 この電光掲示板では、立体テレビ<ソリヴィジョン>で良く目にする商品のCMも流れたりするのだ。
 このCMだが、視覚で訴えるものが多い。
 いや、CMだけではなく、その他の情報画面も、派手な色遣いで、目立つものが多い。
 けれど、無音でもない。
 ちゃんと、音声も流している。
 車内は音がうるさいから、音はいらないのでは・・・であるが、目が不自由な人には音声情報は欠かせないものだった。
 これは目の不自由な人と耳の不自由な人への配慮という事であったが、帝国の人間には“過剰広告”と思えたのである。


 秩序を重んじて整然とした感じのある帝国では、一般人が利用する路線バスの広告は、バス会社の物だけで、それも、後部の窓だけに限られていた。
 とにかく、帝国軍人達は、この派手さに慣れるにはかなりの時間を要したのであった・・・。



 とある日の夕方過ぎ・・・。


 美味しいワインやカクテルが気軽に飲める穴場の酒場をロイエンタールの副官のレッケンドルフがオフィス近くで見つけたらしい。
 その報告にさすがのロイエンタールも興味を持った。

 それで彼は、「これからレッケンドルフと飲みに行くのだが、これがかなりいい店らしい。休暇中悪いが、暇があったら卿も一緒にどうだ?それから、私服で行くから卿も私服で来る事」というメールを、自らベルゲングリューンに送った。
 1日休暇を取っていたベルゲングリューンであったが、用事は日中で片が付き、夜は特に予定もなかった。
 敬愛する上官の誘いであったので、ベルゲングリューンはすぐさまOKの返信を入れた。
 そして、出先から目的地へ行く為に、ふとした気まぐれで、滅多に乗らない電車に乗ってみたのだった。


 駅でプリベイドカードを取り出して、自動改札のカードリーダーにかざす。
 ハイネセンでは、コンビニエンスストアも含めて、ありとあらゆる商店でこのカードが使える。
 チャージさえしておけば、買い物はおろか、電車やバスにまで乗れて、小銭が必要ではない。
 帝国に存在していないこのカード・・・。

 合理的であまりにも便利だったので、赴任した将兵達は全員、このカードのお世話になっていた。
 ほんの1分足らずで銀行口座からカードへのチャージを済ませて、目的の電車に乗り込むベルゲングリューン。


 しかし、乗って早々に、乗った事を後悔しかけた。
 甲高い声の車掌のアナウンスは耳鳴りしそうだったし、目まぐるしく変わる電光掲示板に目がチカチカしそうで、ベルゲングリューンは大きな息を吐いた。
 オーディンにはなかったが、フェザーンにも、電車と地下鉄はある。
 だが、ここまで無秩序に広告は流さないし、とても静かなものだ。
 電光掲示板には血液型占いや、星占いなどの情報が流れている。
 電車の中で、こんな占いが必要だとも思えないのだが、周りをさり気なく見ると、皆の視線は占いを追っており、ベルゲングリューンは不思議な気分に陥った。


 夕方のラッシュアワーにはまだ早い時間であったが、電車内はかなりの込み具合で座る事は出来なかった。
 仕方なく車両の中ほどで吊革につかまる彼の隣には、友人同士らしい2人の女学生が立っていた。
 2人ともおさげ髪であり、1人は白いリボンで、もう1人は青いリボンだった。
 どちらの陣営の女学生にも、この髪型は共通・・・という事を認識するベルゲングリューン。
 彼が吊革を握る手を強めた瞬間に白いリボンの女学生が電光掲示板の占いを見て突然声を上げた。

 急に大声を上げられたので、隣にいたベルゲングリューンは一瞬、身体をビクリとさせた。


 「わぁ、超ラッキー!私ってば明日の運勢もいいみたい。射手座のA型の女性のラッキーカラーは黄色なんだって!」
 「本当?じゃぁ、あのバッグにしたら?この間、一緒に買い物に行って買ったのがあるじゃない?」と、青いリボンの女学生。
 「あ、あのバッグか・・・。うん、そうね。じゃぁ、明日は黄色のバッグで学校に行こうっと!あ、ねえねえ、この際だから、ハンカチも黄色のにした方がいいかな?」
 「うん。いいんじゃない?じゃぁ、私はどうかな。うんとぉ~乙女座のO型女性は・・・と。わぁ、私も運勢はいいみたい。ラッキーカラーは水色。じゃぁ、明日はリボンは水色ね」
 「好きな色で良かったじゃない?・・・えっと、あなたのラッキーアイテムは髭ですって。前日にお髭の人と話すとなお運勢が良くなる・・・ですって!・・・あ!」
 「・・・お髭の人・・・発見ね!」
 青いリボンの女学生の視線は真っ直ぐにベルゲングリューンヘ。

 ラッキーアイテムにピッタリのお髭の人がいるのだから、彼女はにこやかな笑みをたたえていた。


 「あの・・・ステキなお髭ですね!なんのお仕事しているんですかぁ~?」
 能天気な女学生の問いに言葉に詰まる。
 「あ・・・いえ、仕事は今日は休みなんです。で・・・これから飲み行く途中で・・・」

 しどろもどろになってしまう。
 「あ、そうなんですかぁ。ふーん・・・」
 彼女の、遠慮もへったくれもない、値踏みをするかのような不躾な視線に面食らうベルゲングリューン。
 怒るよりも呆れて物が言えない状態だった。
 そして、ベルゲングリューンは、思わぬところで同盟の一般女性と口を利いている自分が不思議であった。
 「うふふ・・・話をしてくれてありがとう!これで明日の運が良くなるならもうけものよね!」
 彼女はベルゲングリューンに向かってVサインをして見せ、白いリボンの女学生の方も、「ホント、ホント!!私達・・・明日もきっと超ラッキーだよね~!」と楽しげに手を叩いた。
 お喋りに余念が無い2人は笑いあいながら次の駅で降りてゆき、ベルゲングリューンは溜め息を付いて、改めて車内の電光掲示板を見た。

 何の役にも立っていないように見えて、電車内の電光掲示板は、ハイネセンの市民達生活の一部にしっかりと溶け込んでいるらしい。


 そして、つい、天秤座のAB型男性の明日の運勢を読んでしまい、ラッキーカラーが「グレー」だと知って暫く考え込んだ。


 (なるほど、グレーか。それなら、明日の靴下は・・・グレーにしてみよう)


 今まで占いなど気にした事はないが、ラッキーカラーだと言われるとその気になるから不思議だ。

 こんな感情を今まで抱いた事はないので、自分でも本当に驚くベルゲングリューン。

 

 (そうだ・・・確か、閣下は蠍座のA型だったはずだ・・・)


 占いを読み進める内に明日のラッキーカラーが『ピンク』だというのを知った。


 そして、これを上官に伝えるべきか否か・・・根が生真面目なベルゲングリューンは、真剣に悩んたのだった・・・。





 Das Ende





 100のお題より、「電光掲示板」です。


 主人公は、ハンス・エドアルド・ベルゲングリューン。
 彼が主人公ですが、誰が主人公でも一緒か?
 イヤ・・・『お髭限定』ですからね。
 レッケンドルフとかだとダメですね。


 ハイネセンに来た事があるお髭さんで考えると、レンネンカンプでも良かったんだけど、彼には華が無いので却下です。←ゴメンよ、レンネン。


 ロイエンタールも出したいし・・・って事で、ここはベルゲンに頑張ってもらおうと・・・。(笑)
 ベルゲンの一連の行動から、血液型はAB型って事にしましたが・・・。
 私はね・・・ロイさんの死と同じくらいベルゲンの死もつらかった。

 キルヒアイスに続いて、ロイエンタールをも失う。

 敬愛する上官2人に死なれて、ラインハルトへの負の感情を吐露するシーン。
 上官の後を追って自殺しようとする彼を、必至に止めようとするビューローに向かって放たれたあのシーンは、何度聞いても泣けますって・・・。(T-T)


 あと、この小説の時期設定は夏頃って事で。
 ・・・って事は、そう。
 ハイネセン赴任直後って事ですね。


 しかし、部下の進言通りにピンクの何かを身に付けるロイエンタール・・・想像したくないです。(爆)


 それにしても、ベルゲングリューンが主人公って・・・やっぱり、マイナー全開です。

 「マルボロ」にしてもそう・・・せっかく、ロイエンタールを出したのに、レッケンドルフが出張っている為に、マイナー感が拭えない。

 でもね、それがいいのかもしれませんが。
 
 ベルゲングリューンの田中亮一さんと、同盟軍の技術大尉のエドをやっていた田中和実さんはご兄弟でしたが、2007年末に弟の和実さんが56歳で亡くなられました。
 毎日、「THE ワイド」でお声を聞いていた私は、物凄くショックでした。(この番組が終了してから3ヶ月後って・・・ううう) 
 

 どうか、お兄さんの亮一さんは・・・もっと長生きして下さい。
 亮一さんは、「デビルマン(不動明)」だから、本当に長生きしてほしいです・・・まだ60代だから大丈夫だろうけどね。