「あ、ヤン提督。この本はどうされますか?」


 隙間が無いくらいに詰め込まれている、ヤン提督専用の本棚を僕は指差す。
 整理しても整理しても・・・毎月のように本は増え続けて・・・。
 中には雑誌類もあったから縦置きではどうにもならず、今では横倒しの状態で入れてあった。
 それでも入りきらない本もあって、本棚の横に乱雑に積み上げてあるのだ。
そして、それは今にも倒れそうな不安定さで、僕は早く片付けてしまいたかった。


 「うーん・・・どうしようか?」
 のんびりしたヤン提督は、焦った様子も見えずに僕に問いかける。
 「どうしようかって・・・僕に聞かれても困ります」
 ヤン提督は床の上に直に座り込んで考え込む。
 「さすがに向こうに本屋は無いだろうし・・・ここにあるの、やっぱり全部持って行こうかな。ユリアン。これ・・・全部運べるかな?」と笑
顔を浮かべた。
 「・・・え、この本棚の分全部ですか?それと入りきらない本もですか?」
 「うん」
 僕は呆然とする。
 「・・・あ、全部はダメ・・・かな、ユリアン」
 「はい・・・。申し訳ないですけど、この文書箱に入る分だけにして下さい。あちらに永住する訳じゃないのだし、必要な物だけにして下さ
い。それから、残りは全部トランクルームに預けますから」


 イゼルローン要塞への駐留に伴って、僕は提督と2人で、引越しの為に官舎内の荷物整理を始めた。
 個人的な大型の家具や、さし当たって不要な私物はハイネセン市内のトランクルームに預ける予定だ。
 問題なのは、ヤン提督個人の本棚の本だった。

 パンパンに詰め込まれていたのを全部出して無造作に床に置く。
 デジタル書籍が主流になってはいるものの、提督はデジタルは味気ないと言っては、わざわざ割高な紙の本を買い求めるのだ。
 本の重みのせいで、本棚の棚板が抜けた事もある。
 また棚板が抜けて本が傷んでも困る・・・と、提督は大切な本は本棚に入れずにベッド脇の床に直接積み上げていたりする。
 僕も提督と暮らし始めた最初のうちは小まめに本を整理していたものの、次から次へと増えていく本は本棚の収容機能を上回って入りき
らなくなった。
 本当の事を言うと僕は何とかしたかったのだけど、本だけはあまりいじると提督の機嫌が悪くなるから、僕もそこそこの整理しかしなく
なっていたツケが今・・・という感じだ。
 僕はいつも、「この本を何とかしたいなぁ・・・」と呟きながら、掃除の時にはたきをかけ、本の上の埃を払うぐらいで、そのままに放って
あったのだ。
 だから、この引越しを機にヤン提督自らで整理してもらって、持って行くのは最低限だけに留めて、残りはトランクルームに預けてほし
いのだけど。
 でも提督にはそれが簡単には出来ないらしい。


 「あ、そうそう・・・この本は絶対に持って行かないと。・・・もう、何度も読み返しているんだけれど、何度読み返してもこの歴史書は面白くて飽きがこないんだ」
 「・・・じゃぁ、箱に入れますね」
 僕が手渡された本を文書箱にしまい込む間も、何か懐かしい本を奥から見つけて目を輝かす提督。
 「あ・・・この本はここにあったのか。読み直したいと思っていたんだけど、どこに入れたのか分からなくなっていて・・・。これは凄く面白
いからユリアンも読んでみるといいよ。この作者の冒険歴史小説は本当に愉快でね」
 「・・・じゃぁ、それも持って行くんですか?」
 「あ、うん・・・そうだな。これは持って行かずにトランクルーム預けるか・・・」
 僕はトランクルーム用の箱に本を入れる。
 提督は次々と本を手に取り、それを片手に笑顔で何かしらその本の良さを説明してくれるのだけど、その度に僕は大きな息を吐いた。
 ・・・こんな感じだから、本の整理が全然整理がはかどらないのだ。


 「提督・・・本はこのダンボールに入るだけにして下さいね」
 僕は大きめの文書用の箱2つを示す。
 「え、たったのこれだけなのかい?ユリアン・・・ちょっと箱が小さ過ぎるんじゃないかなぁ・・・。少なくとも持って行きたい本の半分も入
らないよ。せめてあと2つ。4箱くらいにしてくれないかい?」
 「箱は小さくないですよ。一番大きな文書箱なんですから。でも、確かに持って行きたい本が多そうだから、箱をもう1つ増やします。
とにかく、要塞に永住する訳じゃないんですから、箱3つ分にして下さい。それに、持って行かない本は預けるだけで、何も処分する訳じゃないんですから」
 「・・・あ、うん。・・・分かったよ」
 提督は僕の顔色を伺い、僕が4つ目の箱を用意する気がないと分かると観念したのか、ゆっくりと頭を掻いた。

 床にじかに座り込んで本を吟味しながらダンボール箱に詰めて、やっと1つ目の箱に本を入れて丁寧にガムテープで封をする。
 上段と横に黒色の油性マジックで大きく「歴史書」と書き込んだ。


 それを見届けた僕は「提督・・・僕、ちょっと夕飯の買出しに行って来ます」と提督に声を掛けた。
 電気ポットとティーセット、それと必要最低限の食器と多少のカトラリー以外は殆ど梱包して、既にトランクルームに送っていた。
 だから、ここには冷蔵庫もない。
 出発までは出来合いの惣菜など、簡単な物で済ませるしかなかったのだ。


 「提督。何か食べたい物はありますか?」
 「うーん・・・任せるよ」
 「じゃぁ、ちょっと出て来ます」
 「あぁ、行っておいで」
 提督は本を整理しながら頷いた。


1時間後、僕は近所のスーパーで、揚げ立てのフライドチキン、コーンとマカロニ入りのポテトサラダ、お湯を注ぐだけで出来るミートボール入りの野菜スープ、パンとミルク、蜂蜜入りのヨーグルトなどを買い込んで戻って来た。
 その足でキッチンへ行き、電気ポットでお湯を沸かしてスープを作り、何とか食卓の体裁を整えて僕は提督を呼びに行った。


 すると、どうだろう。
 提督は床の上に大の字になって寝ていたのだ。
 本の整理は少しは進んでいるようだけど終わっている訳ではなく、まだ床に大量の本が散らばっている。
 「あぁ~・・・全然終わってないや。・・・こういうところは他の人に見せられないんだよなぁ・・・」
 何しろ世間一般では提督は英雄扱いされているから、この姿を見たら、幻滅を覚える人もいるだろうな。
 立体テレビ<ソリヴィジョン>などでイメージを聞かれると、大抵の人は、「素晴らしい英雄です。同盟の誇りです」とか「サングラス


 「提督・・・簡単ですが、夕食が出来上がりましたから起きて下さ・・・あ!」

 僕はビックリして言葉を失った。
 だって、提督の頭には、クチャクチャに丸めたられたガムテープがベッタリと張り付いていたのだから。
 「提督!!起きて下さい!!頭にガムテープが・・・」
 「ほえ・・・うん?」
 提督は僕の声にうっすらと目を開けた・・・声は完全に寝ぼけ声だ。
 「あ~ユリアン、朝かい?」
 「もう!朝じゃありませんよ。これから夕食です。それよりも・・・。提督・・・頭にガムテープがベッタリと張り付いてますけど・・・」
 「え、本当かい?」
 半分寝ぼけていた提督は、慌てて飛び起きて頭に手をやる。
 「あれれ・・・本当だ。いつの間に付いたんだろう?あ・・・これ、取れないぞ。・・・ユリアン、どうしよう?」
 情けない声の提督に僕は小さく息を吐いた。


 「無理に引っ張らないで、ゆっくりと外しましょう・・・。それにしても何でガムテープが頭なんかに・・・一体、なにがあったんですか?」



 せっかく暖かい食事を用意したのに冷め切ってしまい、僕はもう1度温め直す。
 そして食事の最中に、僕は改めて提督に聞いてみた。
 だって、普通は頭にガムテープは付かないのだから・・・そう、よほどの事がない限りは。
 まぁ、僕は大体の事を想像しているけど。
 「ところで提督。何でガムテープが髪の毛なんかにくっ付いたんですか?」
 「・・・えっと、その・・・。ガムテープをごみ箱にちゃんと捨てなかったからだな・・・うん」
 「ごみ箱に・・・本当にそれだけなんですか?」
 僕がじっと見ると、提督は頭をポリポリと掻いた。
 「ユリアンには隠し事が出来ないなぁ・・・。ほら、さっき本を箱にしまったんだけど、また読みたくなったのがあって開けちゃったんだ。
で、ガムテープはその時に剥がしたヤツで・・・。それで、その後、睡魔に襲われて・・・」


 (あ~やっぱり、予想していた通りだった・・・)


 「提督・・・本の箱詰めは僕がやります!持って行く本だけを選んで下さい!」
 「あ・・・でも・・・」
 「でも、じゃありません!本当に時間があまりないんです。ちゃんと真面目にやって下さらないと・・・提督だけイゼルローンに行けなくな
る・・・なんて事態になりかねませんよ」
 僕が放った言葉が効いたのか、ヤン提督は神妙な顔で頷いた。
 「うん、確かに。・・・分かったよ、ユリアン」


 夕食の後、提督は食後の紅茶を決まり悪そうに啜っていた。
 そして、自分が悪かったの事への反省なのか、少し申し訳なさそうな顔で、「あのね、ユリアン、ブランデーはどこかな・・・少しだけでい
いから欲しいなぁ・・・なんて」とおっしゃった。
 「ブランデーですか?あぁ、そう言えば今日は紅茶へブランデーを垂らしてないんですね」
 「ユリアン・・・昨日さっさと梱包しちゃっただろう?」
 そう言われて、僕は慌てて頷いた。
 「・・・飲みたいんですよね?」
 「うん、まぁね」
 提督はヤンは空になったティーカップを片手に頷いた。


 僕は慌てて立ち上がって、キッチンの隅に幾つか積んであるダンボール箱から、『お酒』と書かれたものを探し出す。
 勢い良くガムテープを外して、中から提督が好きなブランデーを1本取り出した。
 「はい、提督。あ・・・と。開けるのはこれ1本だけにしておいて下さいね。あとは本当に梱包してしまいますから」
 「うん・・・そういう事なら大事に飲ませてもらうよ」


 提督は数瞬思案した後で、慎重に注いだカップの半分ぐらいのブランデーを、いつもより、ちびちびと飲んでいた。
 
 
 
THE END



 イゼルローン要塞への引越し準備は殆どユリアンがやっていて、ヤンは殆ど役に立たないって感じかな。
 ただ単に、ヤンとユリアンが書きたかっただけですが、ヤンって意外と書くのが難しかったりします。
 でも、何だか書いているうちに、提督とユリアンの声が聞こえたような気がしました。
 ヤン(富山さん)が降臨された・・・そんな感じかな。


 今思えば、私が声優に興味を持ったきっかけが、富山さんだったんですね。
 『宇宙戦艦ヤマト』の古代君が好きでね~・・・まぁ、一番好きなキャラはヤマトでは、デスラー総統なんですけどね。
 それまでは声優さんは、『テレビマンガの声の人』なんて思ってて、声優さんの事を深く考えたのが富山さんで。
 亡くなったのは凄くショックでしたが、銀のDVDやヤマトのDVDを大切にしていきたいです。


 富山さんが亡くなれた時、自分の肉親が亡くなったのと同じぐらいのショックで。
 仕事が手に付かない。
 物凄く顔色が悪い。
 それを見た上司に、「具合悪そうだから帰りなさい」って言われて、本当に帰って寝込んでしまいました。
 頭の中には「ヤン提督が死んじゃって、古代君が死んじゃって、タイガーマスクが死んじゃって、友蔵じいさんが死んじゃって、テリィ
(キャンディ・キャンディの)が死んじゃって、イッパツマンが死んじゃって・・・ううう。もう、ダメ~・・・」ってなってしまいました。
 その憔悴振りは家族をも心配させてしまいました・・・。


 けれど、声優さんって「声」が残るから幸せ。
 数年前、台湾で発売された「レディ・ジョージィ」のDVDを手に入れ、時たま見直すのですが、ここに出て来る声優さんが凄い。
 主人公のジョージィ役が山本百合子さん(エヴァ)で、ライバルのエリーズが玉川砂記子さん(キャゼルヌ夫人)なんですね。
 ジョージィの父親探しを手伝ってくれたバーンズ子爵が富山さん(ヤン)で、夫人が松島みのり(ウィンザー夫人)さんで、娘のキャサ

リン役が小山茉美(ジェシカ・エドワーズ)さんいう・・・。
 改めて見ると、すっごく面白かったです。
 因みにこの作品、キャンディ・キャンディのいがらしゆみこさんの作品で、27年前のアニメです。


 さて、100のお題でこのタイトルを見つけた時、何を書こうか相当悩んで。
 ヤンとユリアンとで物語を書いたのですが、その後、要塞対要塞戦の後日談を某サイトで募集してて、他の人のは、ミュラーの退院後の
話だったり、やっぱりミュラーが多かったのですが、私はケンプで書いたんです。
 勿論、ミュラーの退院関係は私も1作書いているのですが、ヤンとユリアンの話とは対極にある、物語です。
 前者が勝利後の引越しなら、後者は敗戦後の引越しです。
 ケンプ一家の引越しの話を、長男のグスタフ・イザークの視点で書いてあります。
 UPするかどうか迷ったのですが、2つを比べてもらうのもいいかと思って、「ガムテープ(ケンプ一家の場合)」もUPする事にしま
す。