トーマ・フォン・シュトックハウゼンと、ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークトは、士官学校時代は同期だった。
今でこそ、互いを激しく毛嫌いし、隙あらば相手を蹴落とそうとする感のある2人だったが、彼等は最初から仲が悪かった訳ではない。
士官学校時代の彼等の仲は比較的良かったし、家族ぐるみの付き合いもあったのだ。
ともに男爵家の三男であり、家柄が似ていた事も手伝って、いい意味での『ライバル』であった。
その当時を知る者が今の二人の状況を見たら、何故、関係に亀裂が?と鼻白むはずだ。
事あるごとに角突き合わす程の犬猿の仲となったのは、士官学校卒業間近のとある事件と、卒業後のとある事件がきっかけとなっていた・・・。
それは、彼等の間に、修復しようも無い深くて大きな溝を作ってしまったのだった。
シュトックハウゼンは双子であった。
幼い頃から軍に興味を持っていたトーマは、10歳の時に父親に相談した上で幼年学校へ入ったが、兄のエーリクは幼年学校へは行かず、普通の貴族の子弟が通う学校へと進学した。
そして、その貴族の通う学校に、ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークトがいたのである。
ゼークト男爵家は、代々、軍人を輩出する家系ではあったが、家風なのか、縁者の殆どは幼年学校よりも士官学校に進学する者が多かった。
その為、ハンスも小学校を卒業した後は、15歳までは、貴族の師弟の通う、ごく普通の学校に通っていたのだ。
家業の影響か、釣りなどが好きなエーリクは、比較的家も近く、家柄が同程度のハンスとはすぐに仲良くなり、一緒に遊ぶ事が多かった。
そして2人は、幼年学校の休暇の時に里帰りをする双子の弟・・・トーマとも一緒に遊んでいたのだ。
やがて、士官学校入学時にハンスとトーマは同級生となった。
成績も似たようなもので、互いに追いつ追われつであり、ライバルとして日々、切磋琢磨する友人となった。
士官学校卒業間近に、ハンスは、マルガレーテ・フォン・フェ-ベルという女性と知り合った。
シュトックハウゼンの父は男爵でもあったが、大きな水産会社を経営しており、その父親の部下の娘がマルガレーテだった。
フェーベル家には爵位はなかったが、帝国騎士<ライヒス・リッター>の称号は持っていた。
ただ、爵位が無いといっても、下級貴族ではなかった。
フェーベル家は、リッテンハイム候と親しくしているオルクネルド男爵家の親戚であった為、決して家柄は悪くは無かった。
マルガレーテは儚げな感じの美人であったので、実は、トーマもほのかに片思いをしていた女性であった。
ところがそんな事を知らないハンスは、エーリクを通して招かれたシュトックハウゼン家のパーティーで、マルガレーテをダンスに誘っただけではなく、根気良く声をかけて彼女のハートを掴んでしまったのだ。
結局、告白も出来ないまま、トーマはハンスに遅れをとってしまい、1人悔し涙を流したものだ。
弟がそんな悔しい思いをしている事に気付いていなかったエーリクは、自分の親友のハンスがマルガレーテのハートを掴んだのを心から喜んでいた。
「あの2人、本当にお似合いだな」
そんな事を言ったが、それを聞いたトーマはますます面白くなかった。
「・・・あの2人がお似合いだって?」
棘を含んだ弟の言葉にエーリクは顔を顰<しか>めた。
「おい・・・何だか棘があるじゃないか。もしかして、お前もマルガレーテが好きだったのか?」
トーマは首を振った。
「まさか・・・。爵位が無い女性には全く興味がないね」
トーマは、心にも無い事を言ってしまった。
そして薄く笑った。
「そうだ。いい事を考えた。・・・彼等が似合いかどうか占ってもらおうかな。ほら、伯父上に頼んで・・・。どう思う?」
こう切り出すと、エーリクはますます顔を顰<しか>めた。
「え・・・!トーマ、本気かなのか?母方の親戚の中でも一番の変わり者の伯父上に頼むなんて・・・」
「でも、伯父上は霊感があるだろう?占いだって得意じゃないか。・・・当たるって評判になっている」
「まぁ・・・霊感があるのは認めるけど・・・」
エーリクは肩を竦めた。
だが、2人を伯父に会わせる機会が訪れなかった。
それから2年半後・・・。
シュトックハウゼン家では、父親のリヒャルトの54歳の誕生祝いのパーティーが催された。
士官学校を卒業して軍務に就いていたトーマはオーディン内の勤務だったから、大きなプレゼントを手に父の元へと駆けつけた。
シュトックハウゼン家の長男のテオドールはやや病弱で、最近は入院加療中だったので、パーティーには出席しなかったが、エーリクに招待されたハンスも出席していた・・・。
彼はオーディンの隣の惑星のユグドラシルでの勤務だったが、休暇を取って駆けつけたのだ。
そして、ハンスは念願が叶ってマルガレーテと婚約までこぎつけていた。
あと半年もしたら2人はオーディン郊外で挙式をするという。
ハンスは21歳で、マルガレーテは20歳になったばかり。
結婚には少し早過ぎる気もするが、双方の親の了解もあるし、早婚の軍人は結構多い。
この2人の結婚式と披露宴にエーリクは招待され、スピーチも頼まれていた。
エ-リクは親友を心から祝福していたが、トーマは表面上は祝福したものの、「結婚なんて早過ぎるだろう」と言って、ますます面白くなさそうだった。
大体、同期であるのに、自分が式にも披露宴に招待されていない事に立腹していたのだった。
「おい、ゼークト!俺の伯父上は占いが得意でね、今日は特別に2人を占ってくれるそうだ」
トーマが声をかけると、ハンスは怪訝そうな顔をした。
士官学校を卒業するちょっと前から、トーマの態度は少し冷たくなっていた。
彼は殆どハンスに声を掛けないようになっていて、任官した今では勤務地も違っていたので更に疎遠になっていた。
だから、トーマの急な申し出にハンスは面食らったのだ。
「占い??そんなものには興味が無い。・・・卿も暇人だな」
「そう言うなよ。伯父上の占いは当たると評判になっていて、宮廷に招かれた事もあるのだぞ。かなり有名だしな。・・・女性は占いに興味があるかと思ってね」
そう言うと、マルガレーテは少し興味を持ったようだ。
「ねえ、占ってもらいましょうよ、ハンス。有名な方なのですって」と、ゼークトの上着を引っ張って微笑んだ。
女性が占いに目が無いのはいつの時代でも一緒だ。
彼女が興味を示したので、ハンスの態度も若干軟化する。
「うーん・・・じゃぁ、占ってもらうか・・・」
「そうさ。フロイラインは本当に運が良いよ。伯父上は最近、宮廷に伺候する事が多くなって、そう簡単に占ってもらえないようになっているんだ」
トーマが言うと、マルガレーテは「有名な上に、宮廷に伺候されているなんてステキね。私・・・占いは大好きなのよ」と嬉しそうに微笑んだ。
そばで見ていたエーリクが何かを言いかけたが、トーマはそれを上手く遮って、屋敷の2階の、伯父が泊まっている部屋まで2人を伴った。
カーテンを閉め切った薄暗い室内。
明かりは、髑髏の装飾を施した太い蝋燭が1本あるだけ。
「ふむ・・・それでは2人は婚約しておるのじゃな?」
胡散臭い言い回しで、ハンスとマルガレーテを眺める男。
首から、何やら怪しげな光る珠だのをジャラジャラと身に付けた、ツルツルの頭の小柄な男・・・それが、シュトックハウゼンの母方の伯父であった。
彼は水晶玉のような物を取り出して熱心に30分近くも見ていたが、急にマルガレーテを指差した。
「あぁ、これは何とした事か。申し上げるのも気の毒だが、おぬしには・・・死相が出ているぞよ・・・」
これには、同席していたトーマも内心驚いたが、ハンスはもっと驚いたのか、声を荒げた。
「死相とはどういう意味だ!?」
「・・・いや、なに・・・。この水晶玉は未来が映し出されるのだ。もう30分も見ていたのだが、このフロイラインには、間違いなく死の相が見えるのだ・・・。逃れようが無いぞよ・・・。まさに・・・さだめじゃ!!」
『さだめじゃ!!』の部分を急に喉を掘るように甲高い声で叫び、ビシッとマルガレーテを指差す。
怒りで真っ赤なになったゼークトは勢い良く椅子から立ち上がった。
「し・・・失礼な!!何が占いだ!死相だなんて失礼千万だ!!」
彼は怒鳴り散らして、青い顔で涙を浮かべて震えているマルガレーテの肩を優しく抱いた。
「トーマ・フォン・シュトックハウゼン!!・・・卿は本当に最低な男だな」
「おい・・・最低とはどういう意味だ?伯父上の占いは恐ろしく当たるのだぞ。死相が出ているというのであれば、注意をした方が良いのではないか?」
やんわり言ってみたが、怒り狂ったゼークトは、あまりの事に泣きじゃくるマルガレーテの手を引いて部屋を出ると、ドカドカと廊下を歩き、パーティー半ばで帰ってしまったのである。
「お前・・・ハンスを怒らせたんだって?」
その日の夜、エーリクに言われてトーマは押し黙った。
「別に怒らせるつもりはなかったんだ。俺だって正直言って驚いたんだ。伯父上と来たら、いきなり『死相』だとか言うし、終いには『さだめじゃ!!』って変な奇声を発するしで・・・全くどうしてこんな事に・・・」
トーマは肩を竦めた。
「・・・だからやめておけと言ったんだ。伯父上は母方の一族の中でも一番の変わり者なんだぞ・・・。確かに占いの腕は確かだし、宮廷にも伺候はされている。でもな・・・あぁいうお人だからな。ハンスは、トーマ・・・お前の顔なんか2度と見たくないって、カンカンになっていたし、マルガレーテも2度とうちに来ないってワンワン泣いて帰ったし・・・お前は、今日のパーティ-をぶち壊したんだ。だから、父上も怒っていらっしゃる」
エーリヒに散々言われて、トーマは、「う・・・そうか・・・。父上も怒って・・・」と呟いてうなだれた。
やはり、ゼークトにちゃんと謝った方が良いと思ったが、深夜近くにゼークトから届けられたメッセージを前に、歯軋りをして、謝るのを撤回した。
それはこんなメッセージであった。
『卿にピッタリな言葉を贈ってやろう。知っているか?叛乱軍の言葉で、“チェリー・ボーイ”という言葉があるそうだ。女にもてた事がなく、未だに恋人の1人も作れない気の毒過ぎる卿には実にピッタリな言葉ではないか』
それは・・・叛乱軍の言葉で書かれていたのである。
帝国公用語ではなく、わざわざ、叛乱軍の言葉で書いてくるあたりが腹立たしく、怒りがこみ上げてきた。
暗号の解読などの基礎知識として、同盟公用語を必須科目として習うのだが、シュトックハウゼンが、叛乱軍の言葉を少々苦手としているのを知っていて、わざとらしく送って寄越したのだ。
「くっそ~!!なんであいつに馬鹿にされなくてはならんのだ~!!」
拳をギュッと握り込で悔しげに叫ぶ弟の姿を見て、エーリクは、「あぁ・・・我が弟ながら、なんて情けない・・・」と小さく呟いた。
Das Ende
タイトルは・・・これまたふざけてます。
このシリーズのタイトルは、徹底的に遊ぶ事に決めているので、もう、何でもアリ!!って感じです。
士官学校卒業直前、卒業して任官し立ての10代の頃のシュトックハウゼン&ゼークト、そして、シュトックハウゼンの双子の兄のエーリク、ゼークトの妻となったマルガレーテの事を書いてみました。
特別出演、チェリーです。
誰だかお分かりですか??
『うる星やつら』に登場する「錯乱坊<チェリー>」と言えば、分かるかしら??
チェリーには妹がいるのですが、「ダメオヤジ」の奥さんみたいな顔の(・・・って言うか、チェリーの女版って言った方がいい)人で、深読みするとこの人がシュトックハウゼンの母親!!?
「うる星やつら」では彼女の娘が「サクラさん」なんですが、これ以上書くとボロがでるのでやめておきます。
実はチェリーの声も、シュトックハウゼンの声もをされている永井一郎さんです。
ホントの事を言うと、『宇宙戦艦ヤマト』の佐渡先生ヨロシク、浴びるほど酒を飲みながら占いをするってのも考えたんですが・・・さすがに採用を断念しました。←マニアック過ぎるので。
佐渡先生も永井一郎さんですものね・・・。(ヤマトの場合は徳川機関長もですが)
とにかく、声優好きならではの発想で出来た駄文です。
あ・・・伯父上の占いは当たってしまいます。
新婚5ヵ月後に・・・ゼークトの愛妻のマルガレーテさんは、風邪をこじらせて昇天してしまうのです・・・T-T
いやぁ・・・「MANZAI★BANZAI」の話と繋げる事が出来て、本当に良かったです・・・。
あと、ちょっとこだわったのは会話部分。
任官前と任官後では、多少口調に変化を付けてみました。
軍に染まれば染まるほど・・・文語調になっていくという。
因みにご長男は急逝されてしまうので、シュトックハウゼン水産の事業を継ぐのがお兄さんのエーリクさんになるのです。
でも、エーリクさんもご家族には恵まれず・・・。(お子さんはいますけどね)
そして、シュトックハウゼン男爵家のお父上はまだご存命で、色々な権力を持っているのはそのお父上です・・・。
誰が、シュトックハウゼン男爵家の家督を相続をするか・・・その辺りの話は別の物語になっております。←特に考えていないけどね・・・ww