「なぁ・・・知ってるか?グエン・バン・ヒューは超セレブって噂があるんだが・・・」
 「はぁ?なんですか、それ??」
 イゼルローン要塞の中央司令室の近くの休憩室でコーヒーを飲みながらアッテンボローがユリアンに切り出す。
 だが、ユリアンは話が見えなくて、素っ頓狂な声を出してしまった。


 グエン・バン・ヒューは自由惑星同盟軍の少将で、アッテンボローとは階級が一緒である。
 そして、彼と同じく、イゼルローン駐留艦隊分艦隊の指揮官であった。
 かなり好戦的な男で、戦闘以外の場所でも大口を叩いている。
 しかもかなりの酒豪で、薔薇の騎士<ローゼンリッター>連隊の連中としょっちゅう飲み歩いているらしい。
 おまけに独特の訛りのある言葉で話す。
 その口調と訛りで、あまり品があるようには見えないので、粗野な男だと思われているのだ。
 あんなのが、なんで少将になれたのか?なんて事まで言われている男だが、底抜けに明るい性格の持ち主だった。
 とにかく、毎夜のように薔薇の騎士<ローゼンリッター>連隊の連中とは派手にドンチャン騒ぎを起こしていたから、『歩く小言』と揶
揄される良識派のムライなどは、「軍はお祭りではないのだが・・・」と、彼と薔薇の騎士<ローゼンリッター>連隊の酒席の行動にはおかんむりの様子だった。
 セレブな雰囲気は全くないので、何でそんな噂が立つのか不思議であった。


 「超セレブって本当なんですか?」
 「うーん。あくまで噂だ。とにかく、凄い金持ちなんじゃないかって話でさ」
 グエンにまつわる噂は色々あったが、“金持ち”というのは今まで聞いた事がなかった。
 ユリアンは、私服姿を何回か見かけた事があるが、いつも決まってプロのフライングボールのチームのシャツを着ていて、お世辞にもセ
ンスが良いとは言えず、とても、セレブという感じには見えない。
 「それがな、あくまで噂なんだが、あいつと一緒に飲んでいる薔薇の騎士<ローゼンリッター>連隊の連中の話じゃ、飲み代はいつもあいつが払うんだとさ
。あの底なしの酒豪の奴等に奢るんだぜ?こりゃ、かなり金持ちなんじゃないかって話になっててさ。まぁ、俺は奢ってもらった事が無いから何とも言えないけど」
 奢ってもらった事がないので、少々拗ねた様子のアッテンボロー。
 「・・・でも、奢ると言っても、毎回って訳じゃないでしょう?それにあくまで“噂”なんでしょう?」
 ユリアンは目を丸くした。
 「まぁな・・・。でも、何だか、俺達とは違ったオーラを出してんだよなぁ、あいつ。上手く言えないけど・・・」
 「・・・そうなんですか?」
 ユリアンは、グエン・バン・ヒューとは殆ど喋った事がが無い。
 交わした会話は挨拶程度なのだ。
 ユリアンが首を傾げた時、アッテンボローはヤンに呼び出された。
 「あ~急になんだろう??」
 呼ばれたアッテンボローは首を傾げたが、ユリアンに「・・・じゃぁな」と手をヒラヒラ振りながら慌てて中央司令室に向けて駆け出して行
った。


 数時間後のイゼルローン要塞の中央司令室はひどく騒がしかった。
 「何があったんですか、提督?」
 休憩を終えて、中央司令室に向かったユリアンはいつもと違う雰囲気に首を傾げる。
 声をかけられたヤンはベレーを外してクルクル回して、「うーん、ちょっとね・・・」と、やや言葉を濁して苦笑いを受かべた。
 代わってフレデリカが、「それがね、艦の模様替えをした提督がいてね。色を塗り替えてしまったの・・・」と苦笑混じりに言った。
 「・・・え、模様替え?塗り替えって・・・勝手に出来るんですか?」
 「勝手に・・・でもないの。ちゃんと許可は出ているのよ。でも、それが・・・ちょっとね」
 「うん・・・それがとんでもない事になってて・・・」と、頭を掻くヤン。
 「でも、その許可を出したのはお前さんなんだぞ!」と、ドン!とデスクを叩くキャゼルヌ。
 かなり怒っている様子だった。
 「・・・まぁ、まぁ・・・。あれの費用は軍が出したって訳じゃないんでしょう?」とアッテンボロー。
 「そんなの出せるか!大体、うちは極貧なんだぞ。ちまちまと、やりくりするのは大変なんだ。だから、書類をもらった時、『個人的に
だったらいいぞ』とは言ったが・・・」
 「なんだぁ・・・キャゼルヌ少将だって許可してたんじゃないですか・・・」
 アッテンボローに言われて、「う・・・」と言葉に詰まるキャゼルヌ。
 しかし、言わなきゃいけない事は言わなければ!!と、ヤンに詰め寄る。
 「大体、あいつが出した書類に軽々しくサインなんかするからだ!!どうするんだ、他の連中もやりだしたらキリがないぞ!」
 「あ~・・・まったくどうしてこんな事に・・・」とヤンはぼやく。
 「俺は絶対にあんな事はやらないね。あんな事をやるのは空戦隊だけかと思っていたんだが・・・いや、センスはそれ以下だな。とにかく、
あれは凄すぎてあいた口が塞がらないってヤツだ・・・」
 アッテンボローが呆れるぐらいなのだから、相当に大変な事になっているのだろうとユリアンは推察した。
 「それで、どういう風に変わったんですか?」 
 「ドッグに行ってみれば分かるよ。・・・えらい大騒ぎになっているから」
 アッテンボローは大きく息を吐いた。
 「俺もお祭り好きだが、ヤツには負けたね・・・」


 ユリアンは、ドッグでその光景を見た時、一瞬、これが同盟軍の戦艦なのか!?と、我が目を疑ってしまった。
 しかし、係留されたその戦艦は間違いなく同盟軍の戦艦。
 元々地味な色合いの同盟軍の他の艦艇が更に地味に見えるほど、グエンの艦は異様であった。
 うわ・・・何だ、この派手派手な虎模様は・・・??
 それにしても、このカラーリングって一体どういう意味があるんだろう・・・。
 ユリアンは必死に考えてみたが、考えれば考えるほどサッパリ分からなかった。


 「よう、ユリアン!」
 「あ・・・ポプラン少佐!コーネフ少佐!」
 「見てみろよ。全く凄いよな・・・俺達の場合は識別用にカラーリングを許可してもらったんだけど・・・」
 そう言って、戦艦『マウリア』を見上げるポプラン。
 「・・・自腹でやったらしい」
 ボソッと呟いたコーネフに、ポプランが食ってかかる。
 「・・・自腹ぁ??誰に聞いたんだよ、そ~んな事」
 「誰って・・・工廠課の連中だけど。艦の整備と改装をやっているのは全部あそこだろう?塗装費を自分で出したんだってさ」
 「げ・・・自分で~?奇特な・・・。大体、これだけ塗るのに、どれだけかかると思ってんだよ・・・」
 「あ・・・バース少佐ですよ、技術部工廠課の・・・」
 ユリアンがポプランを突っつくと、ポプランは、弾丸の如く駆け出した。


 「おい!!なんだよ、あの派手なカラーリングは!!」
 「何って・・・」
 そう言ったまま、押し黙るバース少佐。
 「何黙ってんだよ?」
 「・・・仕方ないですよ。ヤン提督のサインが入った正式な許可証を持っているし、本当に自腹だったんですから」


 皆が騒ぎ立てるので、模様替えを許可したヤンも、事態の収拾の為に、とうとうグエン・バン・ヒューをドッグへと呼び出した。
 今更塗り直しをさせる訳にもいかないが、責任者である手前、模様替えの意味を知っておく必要があった。

 「あのカラーリングの意味は?」
 「あ・・・ほんま、えらい事になってもうてすんまへん。あ~小官は、フライングボールのプロチームのハイネセン・タイガースの大ファン
なんですわ」
 「・・・なるほどね。だから虎模様にしたんだね。・・・それで、本当に自腹でやったのかい?」
 能天気な答えに、さすがのヤンも頭痛を覚えていた。
 「あ、キャゼルヌ少将が、自分で出すんならかまへんと言わはりましたんで、こら、ちゃっちゃとやらなあかん!って・・・。ほやから、ほ
んまに自分でスパっと出さしてもらいましてん。あ・・・心配せんといて下さい。塗装の費用はうさん臭い金やのうて、ちゃ~んと自分の金ですさかい」
 ヤンが金の出所を問いただすと、グエン・バン・ヒューの一族はハイネセンの辺境部の出身だが、彼の実家は、羊肉の卸としてはハイネ
セン最大の『鬼印・電撃ラム商会』だそうで、彼自身、会社の株の35%を保有しているのだという。
 何故、軍人になったのかを聞くと、「あ・・・それが、うちは代々、女性が跡を継ぐきまりになってるんですわ。けったいな家訓やと思わん
といて下さい。せやから、今はおかんが会長で、ねーちゃんのアグネスが社長なんですわ。それに小官は次男やし、親から進路を自由に選べ言われて、自分の意思で士官学校に入りましてん!軍人になりたかったんのんは・・・男のロマン言うか。・・・昔からの憧れなんですわ!」との事だった


 「それにしても・・・本当に派手だね」
 マウリアを見上げるヤン。
 「そうでっしゃろ?目立つんはほんまに気分がええですわ。もう、タイガースファンは、目立つのがむちゃ好きやし~!」
 確かにフランイングボールの試合を見ていても、タイガースファンだけは異常に目立っているのをヤンは思い出した。
 派手な虎模様の戦艦『マウリア』を前にして、何故か元気いっぱいのグエン・バン・ヒューを見て、ヤンは怒る気力も萎え果てていた。
 「まぁ、いいか。・・・やるべき事さえ、ちゃんとやってくれれば」
 「それはもう!帝国軍の連中なんか目じゃおまへん!この艦で豪快にパーッと蹴散らしますわ!」 
 ヤンは彼にはこれ以上言っても無駄だと思い、苦笑しながら頭をポリポリと掻くしなかった。


 THE END


 ギャグです、ギャグ。
 OVAで、グエン・バン・ヒューの旗艦の『マウリア』を見た時、どーしてこれだけが、派手なカラーリングなんだろうか??と思いま
した。
 グエン・バン・ヒューって、帝国軍のビッテンフェルトに近い性格と猛将振り。
 帝国軍の艦艇は、割と自由な色ですが(赤あり、白あり、黒あり・・・と。形も意外と自由っぽい)、同盟軍の戦艦のカラーリングはモスグ
リーンで無個性な物が多い。
 その中で、一際異彩を放っているのが、派手な虎模様の戦艦『マウリア』で。
因みにこれはアニメのみの設定で、原作ではマウリアに関する記述はないです。
 OVAでグエン・バン・ヒューは、ドーリア星域会戦で救国軍事会議側に付いた第11艦隊を中央突破して分断する役で登場しますが、そ
の時の艦色は通常のモスグリーンでした。
 でも、要塞対要塞戦では、派手な虎模様になっていて、イゼルローン要塞内で塗り替えた事にしようと・・・。(いや、どう考えても、要塞
内で塗り替えたとしか思えないです・・・)
 大体、グエン・バン・ヒューって、物語の中じゃ、大して目立つ人じゃないし、マイナーなのに、艦だけが目立ってる。
 この人、要塞対要塞戦で、撤退する帝国軍を執拗に追いかけちゃって、待ち伏せしていた救援隊のロイエンタール、ミッターマイヤーの
両艦隊に攻撃されて戦死しちゃう。
 この時、追撃して行った同盟の艦艇は5000隻ほどで、これをむざむざ沈まされたヤンにとっては超痛手・・・だもんで、ヤンに「退き際をわ
きまえず名将の条件が欠けている」と言われてしまい、かなり気の毒な人です。
 “やるべき事をちゃんとやらなかった”報いで、哀れ・・・自慢の艦と共に散ってしまった訳です。
 まぁ、それは置いといて、グエンはタイガースのファンって事にしました。(野球はなさそうなので、フライングボールのプロ・チーム
ですが)
 そして、関西弁(私は関西人じゃないので、かな~り怪しい・・・。もう、怪しさ200%の関西弁ですが、未来の関西弁なので多少変化してい
てもいいじゃないか!と開き直る事にします・・・)にしてしまいました・・・。
 グエンが関西弁で話をしたら面白い・・・というネタは、実は私ではなく、銀河英雄伝説のガレージキットを作っている「アルバクリエイツ
」の代表の大塚さんと直接お話した時に、「グエンが関西弁だったら面白いよね」って言われたのが頭に残っていまして。
 因みにかつて、「アルバクリエイツ」さんが銀河英雄伝説のガレージキットの戦艦カタログを出版された際、私がちょこっとエッセイみ
たいなのを書かせて頂きまして、その時にお話したネタでした。
 模型を全く作らない私に書かせて頂けた事は今もって謎・・・ですね、あのカタログ。(オマケに奥付を見たらば、田中先生の「らいとすた
っふ」よりも私の名前の方が先で恐縮しまくりだったし・・・)、
 そして、この関西弁を喋るグエンの設定に、更に『うる星やつら』もくっ付けて出来たのがこの作品。
 ラムちゃんの星の戦艦も虎模様だったし、お父さんは関西弁だったし。
 あ・・・でも、これ以上書くと粗が出るので・・・ネタの話はここまで。
 さて、ヤンに詰め寄るキャゼルヌを書いていて思ったのですが、これは、やっぱり同盟だから出来るんだよなぁ・・・って。
 帝国軍だったら、いくら士官学校の先輩であっても、ヤンの方が上官なら、こんな口はきけませんし、アッテンボローでもそうです・・・。
 でも、原作でも、皆、わりとフランクな感じで、まるで友達みたいな会話になったりしていて・・・それが帝国軍の将兵の会話と違って楽し
いのですが・・・ホント、対極ですね。
 ついでに言うと、バース少佐はオリキャラです。
 野球ファンなら気付いているでしょうが、1985年の阪神タイガース優勝時の外国人助っ人のランディ・バース氏から拝借させて頂きまし
た★