ビッテンフェルトを含めた6人の内、昼担当のハルバーシュタット、グレーブナー、ディルクセンの3人はさほど問題にもならなかったのだが、ビッテンフェルト、オイゲン、ホフマイスターの3人は、非常に問題であった。
毎日、オフィスを出てから公衆トイレで、持参していた私服に着替えて店の前に集まり、使い捨てカイロや酒で暖を取りながら、店の前で徹夜を繰り返した。
ハイテンションでやたらと元気なのは・・・ビッテンフェルトただ1人。
道行く人が、あれは一体何の団体だ?と不振そうな冷たい視線を浴びせても、気にしない、気にしない・・・と、呪文のように心で唱えながら、グっと腹に力を入れてこらえるオイゲンとホフマイスター。
ただ、ホフマイスターは、元々、マイペースの性格で、周囲に溶け込むのが上手い。
今回のこの状況でも、オイゲンほどへたってはいなかった。
ところが、オイゲンの方は生真面目な性格が災いしてか、激ヤセしてしまい、常人とは思えないくらいの胃薬を使用していた。
道行く人々の白い目・・・それは、彼等の私服が問題だらけだったのだ。
ビッテンフェルトがネットで注文し、超特急で届いた私服・・・。
夜担当の、自分を含めた3人に用意したのは、黒地の胸にデカデカとブリュンヒルトの画像がプリントされたトレーナー。
それから、目に痛い蛍光色のオレンジ色のウィンドブレーカー。
胸面は無地だったが、背中に、白地に黒い縁取りされた『Ich liebe Brunhild!!<ブリュンヒルト大好き!!>』という大きな文字がデカデカと入っている。
素材にラメが入っている為、非常に目立つ派手派手しさだった。
この揃いの衣装は、ビッテンフェルトが自腹を切って用意したモノなので、事が終った後の「奢り」だけを胸に、泣く泣く袖を通した2人であった。
異様な風体の3人に、親子連れの子供が驚きや、不思議そうな顔で見つめて立ち止まると、「ダメっ!!見るんじゃありません!!」と母親が慌てて子供を引っ張って連れて行く。
「何だか・・・犯罪者になったような気分です・・・」
その子供達の視線の痛い事、痛い事・・・悪い事などしていないのに、何故か後ろめたさを感じる痛さである。
ブツブツと文句をぼやくホフマイスターに、ビッテンフェルトがすかさず渇を入れる!
「おい、暗いぞ!!ほら、これを飲んで気を紛らわせろっ!!」
そう言って、ビッテンフェルトはポットに入った、ホット・ウィスキーをカップに入れて手渡す。
「あ・・・スミマセン」
カップを受け取ると、その手に温かさが伝わって来て、少しだけ寒いのや恥ずかしさが緩和されるホフマイスター。
「ところで・・・前から聞こうと思っていたのですが、閣下はどうしてアースグリムの模型を買われたのですか?」
「アースグリム」は、故ファーレンハイト提督の乗艦だった。
ウィスキーを一口啜ったところで、ホフマイスターはビッテンフェルトに問うた。
今でこそ、黒色槍騎兵<シュワルツ・ランツェンレイター>艦隊に馴染んできたとは言え、回廊の戦い以前は、彼はファーレンハイト艦隊の一員だったのだ。
ファーレンハイト艦隊からの転向者という事で、黒色槍騎兵<シュワルツ・ランツェンレイター>艦隊に配属直後は、何となく肩身が狭く居心地の悪さを感じていた。
それに、配置換えになったファーレンハイト艦隊の将兵の多くは、ビッテンフェルトのせいでファーレンハイトが亡くなったという思いの方が強く、実は、自分の新しい上官に恨みを持った時期もあったのだ。
・・・勿論、今では、ビッテンフェルトの為人を知っている為、黒色槍騎兵<シュワルツ・ランツェンレイター>艦隊に馴染み、恨みなどはすっかり昇華されていたが。
「・・・あぁ、アースグリムの話か・・・。バルバロッサとトリスタンも、アースグリムと同時に発売だったんだが、あの2つは買わなかったのだ。俺だって人間だし・・・やっぱりなぁ、ファーレンハイトには生きていて欲しかったんだな。半分は俺のとばっちりで戦死したようなものだったしな・・・。それで、せめてもの償いの意味で、模型を買ってせっせと組み立てたんだ・・・」
「償い・・・」
「あぁ、どこにいても、4月の最後は胸を締め付けられる。7月26日と同じくらい、俺にとっては悔しい1日だな」
“つらい1日”というビッテンフェルトのそのひとことで、ホフマイスターは救われた気がした。
自分は良い上官に、2度も恵まれたのだと・・・。
発売当日・・・。
午前7時に、交代要員のハルバーシュタット、グレーブナー、ディルクセンがやって来たので、オイゲンとホフマイスターは一旦引き上げる事になった。
・・・と言っても、家に帰れるのではなくて、眠さを噛み殺しながら出勤するのであるが。
そして、ビッテンフェルトだけは、そのまま、交代要員の3人と残った。
「発売は10:00<ヒトマルマルマル>からだ。場合によっては早まるかもしれん。俺は何としてでもゲットするぞ~っ!!」
昼間担当の3人に、大声で吼えるビッテンフェルト。
ビッテンフェルトの後に軍服姿の3人が張り付く。
その後ろに並んでいたのは、如何にも模型好きそうな5人の男のグループ。
髪はボサボサで、少々小太りで、見るからに不健康な軟弱な印象だったが、何を考えているか分からない怪しげな笑みを浮かべていたりする。
・・・多分、買った後で、何処に飾ろうかとか、妄想・・・もとい、想像しているのだろう。
その後は、絹地の高級な服を着た・・・多分、貴族の子弟だと思われる少年達のグループだ。
・・・多分、金の出所は親だろう。
その後には軍人ではなさそうだが、屈強そうなビジネスマンが数人、新聞を読みながら並んでいる。
孫や子供に頼まれた風のオジサンやオバサン、老人達もいたし、女性達もちらほら。
まさに、模型を求めて、ありとあらゆるてところから、老若男女が集っている感じである。
かなり後方に、30人ほどの、うら若き乙女達のグループがいて、楽しそうに談笑していた。
何故こんなに沢山の女性の集団が・・・??
やや下心も秘めて偵察に行ったハルバーシュタットは、30分もしない内に、困惑の表情で戻って来た。
「どうだ、美人だったか?」とビッテンフェルトが尋ねると、「はぁ・・・。でも小官は、あぁいうのはお断りです!」と強い口調で吐き捨てた。
「・・・ん?どうしたのだ?」
怪訝そうに眉根を寄せたビッテンフェルト。
それに対して、今にも泣き出すのではないかと思うほど情けない情情のハルバーシュタット。
「・・・どうしたもこうしたもありませんよ・・・。来ていたのは、『ラインハルト様ファンクラブ』だそうです。彼女達は、暑苦しい軍人は嫌いなんだとか・・・。小官は所属を隠していて大正解でしたよ。彼女達が好きなのは白い戦艦で、ブリュンヒルト以外だと、パーツィバルが好きだそうです。思わず、『黒いのはだめですか?』と聞いてみたらば、『黒?全然ダメ。ほら、黒色槍騎兵<シュワルツ・ランツェンレイター>艦隊みたいな戦争馬鹿は全く魅力がないわね』などと言い出して・・・。黒いだけで、センスの欠片が無いと、もう、言いたい放題でした。挙句の果てに、『むさい男ばかりだから、“男色吹き溜まり艦隊”って感じよね』などと笑いながら言う始末でして・・・」
「・・・なにぃ!?」
聞き捨てならぬ事を聞いて、ビッテンフェルトの表情が急変した。
相手は女性達だが、怒りに震えながら、拳を握り締めて腰を浮かせた。
男から言われるのも嫌だが、女からそんな事を言われるとは何事か・・・!!
「・・・気にしてはいけませんよ、閣下。・・・我らは立派な大人なのですから」
連日の疲れが溜まっている副官のディルクセンは、事が済むまで体力を温存しておきたかった。
彼は、日の徹夜などものともしない、血の毛の多いビッテンフェルトに呆れたが、副官である手前、出来るだけ、やんわりと言ってみる。
ビッテンフェルトは、「ううう・・・」と呻いて、地面に腰を落とし、悔しそうに歯軋りをした。
上官が落ち着きを取り戻したので、ハルバーシュタットとグレーブナーはホッとし、胸を撫で下ろした。
その後も、数珠繋ぎに人が並び、列は何と数百メートル・・・ぐるりと店を取り囲む盛況振りだった。
あまりの人の多さに、模型店の前は大混乱だったが、アルバイト君達が人員整理を行い、発売は予定通りに10時だと明言した。
・・・融通の利かなさが、この辺りにも現れている。
集まっていた者達全員の視線の先は模型店の小さなガラス扉であり、誰もが1番をゲットせん!!と、血走ったギンギラギンの瞳で凝視していた。
発売開始・・・。
店員の「では、これより開店で~す!!」ののほほんとした掛声とともに、小さなガラス扉に向かって、どどどどど~っ!!と、血走った目をした異様な雰囲気を漂わせている人々が、津波の如く押し寄せた。
そして、お目当ての模型コーナーに人々が大突進!!
だが、ビッテンフェルトはそれよりも早く、まさに元来の猪突猛進さで、一番先にカウンターに突進した。
そして、バババンッ!!とお金を投げるように支払い、店員を脅して、もぎ取るように、シリアルナンバー1番のゲットに成功したのであった・・・。
彼が1番を買えたのは、人の波が押し寄せないように、左翼を担当したハルバーシュタットがまるで火でも吹きそうな形相で、人々を睨み倒していたからだ。
鐘馗様か、怖ろしい伝説の怪物メデューサでも見たかの如く、左側の人々は硬直状態になった。
右翼担当のグレーブナーも同様で、いつのまに用意していたのか、太いロープを張り巡らして、右側の人々の動きを完全に封じ込めていた。
後方には、広報ならぬディルクセンがいたが、彼もまた凄まじかった。
「我々は黒色槍騎兵<シュワルツ・ランツェンレイター>艦隊だ!貴様ら、我々の前に一歩でも出てみろ!!主砲という名の鉄拳をお見舞いしてやるからな!」
彼は開き直って、訳の分からない事をメガホンでがなり立てていたが、さすがにこの名前は絶大な効果があったと見えて、震えこそすれ、前に出る命知らずな者はいなかった。
この3人が絶妙な連携プレーでビッテンフェルトを守ったればこそ、ビッテンフェルトはある意味、楽にカウンターまで辿り着けたのだ・・・。
「泣く子も黙る」と言われる、帝国軍きっての猛将の団体(?)、黒色槍騎兵<シュワルツ・ランツェンレイター>艦隊の面々を相手に、真っ向から文句を言える者など何処にも存在しなかったが、これで更に人気が無くなりそうだ・・・という事に、悲しいかな、らは気付いてはいない。
そして、リアルナンバー1番をすんなりゲットしたビッテンフェルトは、その凄まじい私服と一緒に、翌日の新聞の社会面をカラーで飾る事になったのだった・・・。
翌朝・・・。
朝忙しくて新聞を見る暇がなかったミッターマイヤーは、オフィスに着いてから、何気なく見た電子新聞で、ビッテンフェルトの行状を知る事になった。
模型を両手に抱えて、凄まじくだらしない格好で微笑むビッテンフェルトの姿。
しかも写真だけではなかった。
『前から欲しかったので、まさに天にも昇る心地です!ジークカイザー・ラインハルト!!』
声高に言う彼の恍惚の表情と、酔いしれた音声まで収録されていた。
これを聞いて、ミッターマイヤーはオフィスの椅子から転げ落ちそうになった。
まさに、血の気が引く思いをした。
それは、主席元帥で、現在国務尚書の重職にあるミッターマイヤーを激怒させるには十分であった。
「全く・・・何がシリアルナンバー1番をゲットだ!!あいつは何を考えているのだ?権威ある元帥のやる事ではないっぞ!!クーリヒ!!すぐにビッテンフェルトの大馬鹿猪を呼び出せっ!!」
ミッターマイヤーは、そばに控えていた副官のクーリヒに大声を張り上げて、彼を震え上がらせた。
一方のビッテンフェルトは、官舎でブリュンヒルトの1番を散々眺め回した。
何度見ても嬉しい。
散々眺めた回した後で出勤し、オフィスの壁に、模型を大写しにしたパネル写真を飾り、恍惚の表情を浮かべてじっと眺めていた。
「やっぱり・・・うん、この艦は偉大な艦だなぁ・・・」
ウットリしてそう呟いた後で、丁寧にも、写真に向かって敬礼までする始末。
高級副官のディルクセンは、(あぁ・・・また何処かトリップされているよ、この人は・・・)と思いながら、見て見ぬ振りをして、書類の整理に精を出す事に・・・。
そこへ、緊張を貼り付けたオイゲンが物凄い勢いで、ドアをノックもせずに駆け込んで来たのだった。
「か、閣下・・・!た・・・大変です!!た・・・たった今、ミッターマイヤー閣下からご連絡がぁっ・・・!どうやら・・・かなりご立腹のご様子ですっ!!」
Das Ende
ビッテンフェルトが模型が好きだとか、そういった事は、昔からある私の勝手な設定です。
あぁ見えて、彼は模型作りやジオラマなんての細かい作業なら、趣味として好きだそうだ・・・と、そういう設定をしていたんですね。
それで、ネタとしてストックしてあったのが、ブリュンヒルトの模型を小道具にした作品でした。
その昔、この小説をネットで公開した時、背景画像としてブリュンヒルトが欲しいと思いました・・・それも模型の。
けれど、悲しいかな・・・私は作れませんです。
それで、銀河英雄伝説のガレージキットで有名な、「アルバクリエイツ」さんのHPの画像を見て、使わせてもらえないかなぁ??とダメ元でお願いしてみたのです。
いやね、ここのガキージキットは美しくて・・・。
模型屋さんの店頭に飾られているのを見て、凄いなぁ・・・と、ボーっと眺めた事もありました。
それでメールを出してみたんです・・・
HPの画像を使いたいと。
そうしたら、いいですよ!!って返事が来ましてね。
「画像提供 ■▼▲◆」と入れて下さいって事でしたので、その通りにやったんですよ。
そんな風に許可されたら嬉しいですよね。
もう時効だから白状しますが、当時、アルバさんは、とある会社に頼んでHPを代行で運営してもらっていたのですね。
だから、その代行している会社から、アルバさんに「こういうメールが来ているよ」って連絡しなければいけなかったのですが、それをしないで、勝手に私に使用許可を出していたらしい・・・そんなの、私が知る由もない。
実は私以外にも、画像の使用許可を勝手に出していたそうなのです、その会社。
なので、アルバさんは、代行運営をやめ、自社でHPを管理する事になったと、代表のOさんに言われた時は、どうしようかと思いましたね・・・。
まぁ、私のせいで・・・ではないですが、引き金となったのは確かなのです。
その事実を知ったのは、ネットで公開後、暫くして行われた、ビッグサイトでのホビー関係の展示会でした。
模型の事は詳しくない私だけど、アルバさんも出品されるから、アルバの代表のOさんにお会いした方が良いかも・・・と思ったんですね、私。
だって、使用許可が出ているんだから。
アルバさんは岡山が本社だから、普段、会いたくても会えないでしょ?
それでお礼を言ってみたら、「あ~あれか~実はね~・・・」ってな訳で、上記の事が発覚しまして。
「差し上げた画像は使っていいですよ」って言われましたけど、さすがにマズイ!!と思い、今はうちのパソコンのファイルの中でひっそりと眠ってます・・・。
勝手に頂く事になってしまった問題の画像の中には、ヨーツンハイムや、ハイゲンハイム(エルラッハの旗艦!!)なんて、レアな画像もあるんだけど、これらは、戦艦の造形、つまり、監修した加藤さんやら、結局のところ、徳間さんやら、田中先生やらの著作権に絡んで来ますから。
一時期、このブリュンヒルト騒動(ブログに公開したモノからは推敲されてます、かなり・・・)をアルバさんのカタログに載せるなんて話まで出ましたが・・・さすがにそれは・・・ボツりました・・・諸事情で。
まぁ、ちょっとしたエッセイみたいなものは書かせて頂きました・・・代表のOさんの心遣いで。
今だから語れる、そんな曰くがあるのが、この「ブリュンヒルト騒動!!」です。(リアルでも騒動でしたからね、上記の件で)
ビッテンフェルトに巻き込まれた方々は不幸ですが、大好きな上官の為なら、彼等は何だってやるでしょう。
人の道に外れていなければ・・・ね。
さて、怒り心頭のミッターマイヤーは、ビッテンフェルトに何を言うのでしょうか・・・?
そこまで書いちゃうと何となくつまらなくなるから、あとは皆様のご想像にお任せして私は早々に消えますね~!!(^。^;A