高齢者施設に入所中の母親が、コロナに感染、 


1週間が経った頃から、容態が悪くなりました


1度下がった熱も上がり、酸素濃度の数値も下がり、食事も取れなくなり、症状は悪化していきました


しかし、コロナに感染しているので、家族は面会できません


気の毒に思ったのでしょうか、施設のスタッフさんが、保健所に、家族が面会できないか、どうか、聞いてくれました


すると、保健所の方から、防護服着用で、10分間のみ面会してよい、

といわれたそうで、急遽施設に駆けつけました


ベットに横たわっている母は、苦しそうに息をして、酸素吸入をして、目を閉じていました


「お母さん、お母さん、あたし」


話かけますが、防護服にマスクにフェイスシールド、娘だとわかるでしょうか?


「娘さんがいらっしゃいましたよー」


そばにいらした施設のスタッフさんが母に話かけました


「娘さんがもうすぐいらっしゃる、って、さつきお母さまに話してたんですよ」


今度は、私にそう話してくださいました


昨日、弟が面会に来た時は、話はできなかったものの、弟と気づき、起き上がろうとしたそうです

しかし、母は、起き上がる様子はありません

というか、起き上がれる状態には見えません


母の手を取ります、冷たい冷えきった手でした、黒いシミのような物があり、点滴の痕なのかな、と思いました


「あー、あー、うー」


苦しそうにそう言い、口に付けている酸素吸入のカバーを自分で外してしまいました


「あ、お母さん、これは付けといた方がええねんて」


母に話しかけ、カバーを口に付けます


「ずっと付けているんで、煩わしく思うんでしょうねえ」


スタッフさんが気遣いの言葉をかけてくださいます


私は母に話しかけながら、両手で母の手をさすりました


スタッフさんがもう片方の手で、酸素濃度を測っています


「78、

あら、さっきより上がりましたね、やっぱり娘さんがいらっしゃると違うんですね」


スタッフさんは、にっこりそうおっしゃいましたが、


酸素濃度、78?

それで、人間って生きていけるの?


私はびっくりしてそう思いましたが、さすがに口には出しませんでした


そんな中でも、母は、酸素吸入のカバーを何度も外してしまいます


「つけといた方がええよ」


と話しかけ口にカバーを持っていきますが、


母は、何か私に話したい事があるんだろうな、と思いました 

もう、話せる状態ではありません


父が肺がんで亡くなった時も、こんな風に苦しそうで、話しはできなくなって、

そんな事を思い出しました


スタッフさんが、母の事を色々話してくださいました

母に愛情を持って接してくださってる事が伝わってきました


「お母さん、良かったなぁ、ええとこで、お世話してもらって、ほんまに」


そう母に話しかけると、涙が出てきました


面会時間は、10 分間との事でしたが、ずいぶん時間が過ぎてしまっていました


「すいません、時間過ぎちゃって」


「いえいえ、

今日は、こちらにお泊まりですか?」


「?いえ、これから埼玉に帰ります」


「あら、そうなんですか」


スタッフさんは、意外そうな顔をしました


??

あれ?明日も面会させて、もらえたんだろうか?もしかして


10分はとうに過ぎていて、長居して施設に迷惑がかかる様な事はできません


「お母さん、また来るよ」


握っていた手は、最初はとても冷たかったのに、少し温かくなっているように感じました


スタッフさんも、

「手が温かくなりましたね、やっぱり御家族は違いますね」

とおっしゃいました


「じゃあ、またね、また」


私は、そう言って部屋を出ました


部屋を出たところで、二重に着ていた防護服の一枚を脱ぎました


その後、1階の玄関まで降りて、残りの防護服、フェイスシールド、マスクを取りました


スタッフさんは、それを1つのゴミ袋にまとめていれ、くちを閉じてゴミ箱にいれ、消毒薬を吹きかけていました


私は、玄関で、スタッフの方々にご挨拶をして、施設を出ました


施設に着いた時、そのまま玄関で上着を着たまま防護服を着用したので、汗びっしょりになっていました


冷たいみぞれ混じりの雨が降ったあと、冷たい風が吹いてきて、汗びっしょりの体を冷やします


気持ちがいいくらいなのですが、

これだと風邪ひくなぁ、

と思いました


これで、発熱したら、風邪ひいたのか、コロナがうつったのか、わからない、


さっき、玄関で防護服を脱ぐとき、鏡があって、その鏡をみると、防護服の襟ぐりが広くあいていて、服が丸見えになっていました


「コロナウィルス、胸元にいっぱいついてそう」


携帯していたアルコールスプレーをふりかけておきました


そのまま電車に乗り、新幹線へ、

お土産でも買っていこうかと思いましたが、コロナウィルスが付いているかもしれない体なんだし、やめておきました


新幹線の中で、母親の事を考えましたが、

もう私には、何もできることはないのだ、

と思いました


これからどうなるんだろう、

想像がつきませんでした


夜、家に着き、そのままお風呂に直行


着ていた物は、全て洗濯機にいれてすぐスイッチを押しました


「しばらく、家の中でも、マスクしとこうかな、ご飯も1人で食べようかなぁ」


と感染していた場合を考え、家での過ごし方を考えながらお風呂から出ました


スマホをみると、メールがきています


弟からです


母が息を引き取った、


そうメールに書いていました