うさぎ塾 第19回 耳毛…風に吹かれて…
時々ビクンッと体全体を跳ねさせるようにしてもがいている彼の姿があった…。たかがヌイグルミ…。でも中身はたっちゃんである。何故、いきなりこんな事に…。
そんな事より彼を助けなければ死んでしまう。例えこれが夢だとしても、夢から覚めて普通の変わらない毎日がそこにあったとしても、こんな後味の悪い終わりだけは絶対に嫌!
「たっちゃん!大丈夫?しっかりしてよ!」
矢は背中に突き抜けてしまっている…。大丈夫なはずがない…。
「もう!どうしたらいいの?病院!薬局!…何かないのぉ!」
突然の出来事に気が動転してしまって、うまく考えがまとまらない洋子。
こんな時、頼りになるのは男性陣である…。
うつむきながら倒れた辰八を抱きかかえる洋子の肩を「ポン」と叩いたのは魔王「のっち」だった。
「洋ちゃん…。俺に任せな♪」
そして何やら呪文を唱えると、のっちは煙に包まれて自分の姿かたちを変えていく。
ドロンドロンドロン!!
まぶしいくらいの光に包まれた彼を、みんなは息をのんで固まった。
そして…、変身完了!
魔王「のっち」は昴くんになった。(彼のプロフの写真の犬…)
さくらんぼを見上げて、しっぽを振っている…。
より役に立たなくなった…(汗)。
「あかん…(汗)。何やっとんねん!」
呆れたあつしが、メンバー全員を見回すようにして、ほほ笑むと、洋子を見つめてコクリと一度だけうなづいた。
辰八を抱きかかえる洋子を守るように、園子とさくらんぼは付き添って歩く。
その先頭をあつしが引っ張る形で、再び旅を始めた。
とにかく旅を続けるしかなかった。
「プルト~ニウムの風に~♪」
景気づけにあつしがブルーハーツの「旅人」を歌ったその時だった。
「ブルハ好き~♪」
どこからともなく現れた痩せ型の青い兎が、フレンドリーにあつし達にすり寄ってきた。
「誰だぁ?てめぇ…」
あつしがすごんで見せると、青い兎は左耳から耳毛を風になびかせている。
「俺の名はハン吉♪職業は「カンダタ」。花ことばで言ったら「裏切り」かなぁ♪」
とたんにあつしが身構える。「カンダタ」と言うのは敵…。ドラクエ好きのあつしには、その記憶があった…。
「なんや?あっちゃん…。みんな仲良くせなあかんでぇ♪」
ドラクエを知らない洋子の無防備さを察し、園子に目配せをして傷ついた辰八と身動きの取れない洋子のガードを固めさせると、
「魔王!頼む!」
とのっちを先頭に出す。
しかし、「のっち」はさくらんぼの言うことしか聞かない…(汗)。
「あっちゃんだめでしょ!昴くんいじめちゃ!」
あつしはさくらんぼに睨まれてしまった…。
一方、ハン吉は相変わらずフレンドリーに接してくるのだが、あつしはパイ毛に妖気を感じていた。
そしてあつしの脳裏に失われていた記憶がよみがえる…。
桃…、軟体生物…、洋子…、ゆぅき…。(ハンニバルのブログ=モロ太郎伝説参照)
(俺はこいつを知っている…??)
あつしは心の中でそう呟いていた…。
いくつかの疑問を残したまま、ハン吉が仲間に加わった。
「ところでみんなぁ♪どこ行くのぉ?」
軽快に尋ねるハン吉の質問に、あつしはそっけなく答える。
「病院…」
「なんだよ♪あっちゃん♪早く言ってよ~♪」
いきなり馴れ馴れしくあつしを呼び止めると、ハン吉は前方を指さした。
すると、目の前におぼろげに浮かび上がる建物がある…。しかし完全に形にはならず、すぐにまた消えてしまった…。
洋子に笑顔はなかった…。
出逢ってから今日までの辰八の全てが、まるで映画のように映像で流れていく…。これが『走馬灯』というものだろうか…。随分と辰八の事では悩んできたつもりなのに、笑顔の彼しか浮かばない…。楽しい二人しか思い出せない…。ついさっきまで、あんなに楽しかったのに…。形なんていらないのに…。
(あれが私の安らぎ…。あれは…、私の幸せ…?)
その時だ。
「いっけね~♪用事思い出しちゃった~♪」
そんな一言を残して、ハン吉が仲間から外れてしまったのだ…。
「やっぱ、いけ好かんやっちゃなぁ…」
半信半疑のあつしが、そんな一言を漏らした…。
遠い昔の桃の中…、口でくわえ合った悪夢の過去が、デジャブとして悪意になり刻まれているからだ…。
その時である。今消えてしまったばかりの場所に小さな診療所が現われた。看板には『ハン吉医院』と書かれている…。
「なんじゃい…、この名前は…(汗)」
洋子は全長50センチの辰八を抱きかかえるようにして、『ハン吉医院』のドアを開けた。玄関を上がると正面に受付があり、診察室のドアは開いていた。受付には誰もいない。
「すいません!誰かいませんか?」
周りを見回すようにして声をかけてみると
「奥へどうぞ」
と声がする。洋子が診察室のほうへ進むとベットの先の白いカーテンの向こう側で、誰かが手を洗っている。ここの先生らしい…。
「とりあえず、患者さんベットに寝かせてくれますか?」
私は言われるがままに、兎王をベットに寝かせた。とはいっても、矢が貫通しているので、横向きにしか寝かせられない。彼の呼吸はさっきと比べると明らかに小さくなってきている。
「たっちゃん!お医者さん付いたよ!すぐ楽になるからね!頑張ってね!」
こんな時自分の無力さに打ちのめされるのだ…。だって何もしてあげられないんだもの…。
そこへ現われた医者は青い兎のヌイグルミだった…(汗)。
(耳毛?…ハン吉!お前何しとんねん…?)
続く
( ̄□ ̄;)!!