「なんのかんのってなんだよ?」

「まあ、そこは良いじゃん。割愛ってことで。俺も色々あんのよ」

智君はゴニョゴニョと言いながらハイボールを飲み干した。

左手で頬杖をつき、視線は斜め上。
こんな態度の彼には、これ以上聞いてもおそらく無理。


そもそもだ。
智君の方から連絡先を聞いたとは思えない。
って事は、慎からだろう。
あいつ何がしたいんだろ?


「まあ、いいや。それで?島を満喫中の大野さんがわざわざ東京に戻り、俺をここに呼んだ理由は?」


「松潤とのことだよ」

「……」

まあ、十中八九そうだろうとは思ったけど。
智君にとって潤は大切なメンバーで、世間話を気にしない彼とは言え、さすがに気にはしてるだろう。

「沢田も翔君と松本さんのことを気にしててね。近況報告的な?…まあ、いいや。とにかく沢田から連絡があったんだ。松潤、ちょっと体調が良くないらしいよ」

別の作品だが、二人が同じ撮影所を使ってたのは知っている。
あれからかなり過ぎてるが、まだ撮ってるのだろうか?
それとも違う現場?
智君は仕事から遠ざかってるので聞いても無駄だろうし、ニノ達に連絡する気にはなれない。

「体調って言っても、あいつだっていい大人だし、自分で管理できるだろ」

「…まあ、そうなんだけど。あ、やっぱあの件の事で怒ってる?怒ってるよねえ」

どうしてだろ?
あれほど悩んで。
悩むのを放棄して。
もうどうでもいいって感じの投げやりな心境になってて。
でも心の奥底ではやっぱりいい気はしなくて。
なのに少し酔ってる智君から「怒ってるう?」なんて呂律が少し回らない感じで言われると、もういいかなんて思えてくる。


「怒ってる。…いや、怒ってたよ。でも今は俺もそんな権利ないし」

「けんり?」と言って首を横に傾げる智君の左手には、新たなハイボールが握り締められていた。
一体何杯飲んでるんだろ?

「俺も似たようなことしたから。その…浮気っていうかなんと言うか…」

少し暗めの照明。
店内に緩やかに流れるBGM。
その音量が一瞬に止まったように感じた。
実際は俺がそう思っただけで、違うんだけど。

「浮気か…」少し目を見開いた智君はふーっと息を吐き出した。