外来の診察は慌ただしくもなんとか終わった。
所要時間より1時間以上過ぎていたが、毎回の事なので慣れた。

午後からは入院患者の診察もあるし、夕方には手術もある。
比較的簡単な内容だが、患者の事を何度も確認するのは当たり前のことだ。
来週には難しい手術が控えている。
その患者に意識が行きそうになるが、今日はこの患者の手術に目を向けたい。

つまり、そうなると昼飯にそこまで時間はかけられない訳で…

「櫻井先生、またパンですか?」

こうなるだろうと、朝コンビニで調達したものだ。
ここ最近はすっかり習慣付いてて、周りを見慣れたものだと思うんだけど。

「これだとすぐ食べ終わるしね」

「栄養が偏りますよ」

カップ麺よりマシと思ったけど、看護師から見たらダメなのか。

「そうですよ。それでなくても激務なのに」

そう言ってきたのは栄養士だ。
あれこれ集まってきたスタッフ達に囲まれ、やいのやいの言われだす俺。
このやりとりに付き合いたいところだが、今は集中したいのでスルーする事にした。


集中すると周りが見えなくなるし、病院内ではスタッフ達もそんな俺のことを分かってる。
なのでこの時も彼女達はいつの間にかいなくなっていた。

あと少しで午後の時間が始まると、看護師から声をかけられた。
受け持ちの患者を診る為、立ち上がり身なりを整えた。

病室へ向かう途中の渡り廊下で足を止めた。
ハラハラと雪が舞ってたからだ。
この感じだと、おそらく積もる事はないだろう。

横にいた看護師も一緒に足を止め、ガラスの向こうを眺めていた。

「雪が降るなんて早いですね。この時期珍しいんじゃないですか?」

「本当だね…」


俺があの家を出て2ヶ月。

秋も終盤。
そろそろ初冬を迎えようとしていた。