夕陽が窓から差し込み、白いカーテンがオレンジ色に染まてく。

ああ、綺麗だなあ。
なんて思うのは、目を逸らしたいから。
だけどそういうわけにもいかない。
現実逃避してる場合ではないのだ。




「…それで?どこまでいったの?」

そうなった『流れ』は、分かった。
どこまでやって、どう感じたかはまだ教えてもらってない。


「何処までって…」

「じゃあ、女性としたとして。潤はどう思ったの?」

「それは…」

「俺より女の方が良かった?」

「そんな事ない。それはない。そもそもその女にどうも思ってないから」

俺の視力はすこぶる良く、少し離れたこの場所かはでもバッチリ見える。

潤はずっと俯いたまま。
だから顔の表情は見えないけど。
だけど手つきや足の置き方、喋る時の肩の揺らし具合などは見えるんだよ。


『どうも思ってない』か。

好きでもなんでもない女優だから、どうも思ってない。
じゃあ、少しでも『好き』と思えば、もしかしたら俺もするよりも良かったのかもれない。
身体の相性もあるだろうけど。
気持ちはなくても、それが良ければその時は満足する。
それは俺にも過去にそんな経験があるから分かる。
ただ、やはり心がないと離れるのも早いが。


……

再び沈黙が流れだす。
俺が問えば、それに答える潤。
だけどそれだけで、特に言い訳をしてこない。

「んで?その子とはどこまでいったの?最後まで?」

「…それは…」

さっきもそうだったが、この質問になる途端に口籠る。
その理由は、なんとなく予想ができるけど。

「潤、今何時?」

いつもなら腕時計を付けてるが、風呂に入ってしまったが故に彼にはそれはない。
スマホもタブレット類もテーブルに置いたままの状態。
つまりソファに座ったままの状態で時間を確認するには、壁に欠けてる時計を見るしかない訳で。
だけど彼は顔を上げない。

「…翔君、腕時計してるでしょ?俺に聞かなくても分かるんじゃん」

まあ、いい。
無理に顔を上げさせたかった訳じゃないし。

「今はね18時半過ぎ。慎の電話を切ったのは17時前位だから1時間半以上経ってる。これってどう言うことか分かる?」

『慎』ってワードはやはり嫌だったのか、びくんと肩を揺らす潤。
だからこの質問では俺が何を言いたいのかを、すぐには気が付かなかったのかもしれない。


「今日はあの番組の収録だよね?あれは3本撮りでお前はラストに出演したって聞いてる。違う?」

「そうだけど、誰から聞いたの?」

「誰から聞いてるって?お前からだよ。昨日の夜に言ってた。司会もレギュラー陣も大御所が多いから収録時間はかなりきっちりしてるって。で、終わるのは16時ってこともね」

もちろんそこから急遽打ち合わせがあるかもしれない。
だけど、収録が終わる時間はほぼブレないと潤に聞いてたし、それは相葉君やニノからも聞いたことがある。
それほど有名な長寿番組なのだ、

「16時に収録が終わって帰り支度をして。彼女に誘われて彼女の運転でその子の家に行って。んで、そこでやる事やって、ここに17時前に帰る」

相変わらず顔は上げないし、肩の揺れ等は見られないが、足が貧乏ゆすりのように小刻みに動き出した。
昔からの付き合いだ。

お前が今何を考えるかなんて、なんとなく察しが付くよ。

「何が言いたいかと言うとさ。それって時間的に無理じゃない?」