「それで?どうだったの?」

「…それでって……え?怒らないの?」

「怒らないわけねえだろ。でもその前に詳細を聞きたい。どうしてそうなったのか?どこまでやったのか?そしてどうだったのか?、だ」


俺の質問に驚き、一瞬顔を上げた潤はすぐに俯いた。

……

なかなか喋らない潤。
沈黙が続きそうな為、ダイニングチェアに座った。
ソファに座らなかったのは、潤がそこにいるから。
今は触られるほど、触られるほど、彼の近くにいない方がいいと判断したからだ。

潤が「えっと…前々から…」と口を開いたのは、それから5分後。
何故わかるかって?
それはちゃんと時計を確認してるから。
仕事柄か性分なのか、ピアノに夢中になるとか余程なことがないと家に居ても時計を確認し、時間を頭に入れる癖が俺にはある。


たった5分。
だが、沈黙だと長く感じる。


潤の話はこうだ。


前々から暗に誘ってきてるんじゃないかって思う女優が、今日の仕事の共演者だった。
そんな気は全くなかったし、これからも共演があるかもしれないと今まではその女性の好意を素知らぬふりをしていた。
だが。

撮影が終わり帰ろうとした時に、スタッフから撮影の後にちょっとだけ話したいと言われた。
支度をした後、楽屋ではなく打ち合わせ用の部屋へ行った。

「その時、その部屋に女性がいて。ってかそいつしか居なくて。おかしいなとは思ったけど、とりあえずそのまま喋ってて。で、案の定話してる合間にストレートに誘われて」

「ストレート?」

「『この後、部屋に遊びに来ないか』って」

「で、行った、と」

うん、と頷く潤に、それから?と話を促した。

「その後、スタッフが来て今後の事を打ち合わせして。駐車場に停めてた車で待ってた彼女の運転でマンションへ行った」


色々とおかしい。
が、それはとりあえず置いといて。

もしかして。
いや、もしかしなくても、だ。
潤のこの行動や発言は、俺への報復に近い行動なのだろうと思う。

だけど俺と潤とでは決定的な差がある。

「その女性って前からお前と親しかったの?大切な友達?って感じ」

「いや、違う。プライベートで会ったのは今日が初めてだし、そもそも連絡先も知らないし。今日も帰る時に向こうが教えようとしてたけど断った。俺ももちろん教えてない。ってか、そもそも好きなタイプじゃないし」

「……」

何ともお粗末な話だ。
その女性が潤にとって友人としても、女優としても。
恋以前のどの種類の好意が多少でもあった訳ではない。
それなのに誘われたとしてもだ。
潤は自分からその場に足を運んでいる。


俺と慎。
潤と女優。


この関係性を『浮気相手』と仮定するならば、だ。
どちらが始末が悪いと言えば、それは俺と慎だろう。

だけど、意識的にしようとした潤と、意識がない時に襲われた俺。
この場合、『浮気』としてどちらが罪が重いのか。
そんなの、誰が聞いても答えはほぼ同じだろう?