確かに御両親に会わせてくれたし、海外の友人達にも紹介された。
これは、男同士の恋愛においてなかなか珍しいケースではあると思う。

親友や一番近い親に『同性が好き』だなんて、かなりの覚悟を持たないと告白はできない。
なのに翔君は俺が不安にならないようにと親御さんへ紹介してくれたんだ。

翔君はお兄さんが亡くなってしまった為、櫻井家の一人息子だ。
その唯一の息子に『孫の顔は見せてやれないよ』と告白させるのは、今思えばどんなに酷な事をさせたのだろうと思う。


俺はと言えば、メンバーと極一部の事務所のスタッフ、そして親友の二人だけ。
俺の親には紹介してはいない。
世間に公表したいといいつつも、覚悟を決めてられてないのは、もしかしたら俺の方なのかもしれない。


「親兄弟はもちろん、親戚、友人知人や元クラスメイト達、隈なく全員に知られる。芸能人…公人であるお前が、世間に公表するってことはそういうことなんだよ?その覚悟はあるのか?」

……
足元がぐらつく。
俺は今撮ってる映画もその他の仕事も翔君のと関係を発表する為に、それを目標に頑張ってたんだ。
それなのに現実問題を突きつけられると、こんなに足元が揺らぐなんて。

「潤はさ、公表ってファンとか世間とかの評判だけを想像してたんだろ?公にする事で去っていく人達もあるかもしれない。だけどそれでも残ってくれるファンってお前の絶対的な味方だ。だからその人達を大切にすれば大丈夫と思ったんだろうけど」

視界がぼやけ、翔君の顔が見れなくなった。
翔君の指が俺の瞼を撫で、「そんなに泣くなよ」と言った事で前が見えないのは自分の涙が原因なのだと分かった。

「俺は…でも親には紹介するつもりはあったし、それに…」

「分かってるよ。思いつきとかじゃなくて強い意志を持ってたって。公表するのだって嫉妬だけじゃなくて…まあ、嫉妬もあるんだろうけど、それだけじゃなくて、俺のためにもはっきりさせておきたいと考えてた事。だって俺はお前の恋人だ。わかんないはずないだろ?」

抱きしめてくる腕も胸板も俺よりひとまわりもふた回りも細いのに、彼の身体はこんなにも力強い。

「しかも、ただの恋人じゃない。最強で最後で恋人だ。だからそんなに不安に思わないでいいんだよ」


俺の方が本来抱きしめる側なのに、肝心なところは逆になってしまう。
守るつもりが守られて、いつまで経ってもこの人に敵わない。

「そんな事ない。俺だって潤の方が大人だなって思う事たくさんある。つまり二人ともまだまだなんだよ。だからさ、二人でその都度どうしたらいいか考えようよ」

声にならず、頷くことしかできない。
俺の意思を確かめた翔君は「じゃあ、手始めに。さっきも言ったけど、お前の不平不満に思ってる事、洗いざらい白状してもらおうかな」と言って笑った。

『にこっ』ではなく。
『にゃっ』と表現した方がいいほどちょっと意地悪な笑顔。

だけど、こんな翔君も好きなんだ。
どうやっても敵わない。
どうしても離れられない。
まあ、離れる気なんてさらさらないんだけど。