顔色は相変わらずよくないが、目に力が戻ってきている。
それでも早めの水分補給が必要だ。
一番早いのは点滴だし、もっと言うと病院で詳しく検査をした方がいい。

が、しかし。

ぎゅっと握ってくる指は俺の掌に弧を描きはじめた。
するすると触ってくる感触は優しく、まるで愛撫されてるよう。
慎から伝わってくる体温は熱を帯びはじめ、何故だかすぐには振り解けなかった。
その間にも動く指。
これはさっきと違い、完全に意思を持ってる動作だ。

「おまえ…」と、言いかけてやめた。
幸いにも、この位置なら潤からは見えない。
火種になることを、わざわざ教える必要はないんだから。
潤に気付かれないように慎の手をゆっくりと離し、楽屋の外にいるマネージャーへ話に向かう事にした。

潤がこのまま素直に俺についてきてくれればいいのだけど。
心の中でそう願ってたけど、やっぱりダメだった。

殴りかかりそうな勢いの潤の腕を掴み、無理矢理楽屋の外に引っ張り出す。
ここで俺が慌てちゃいけない。
あくまでも冷静にならないと、騒ぎは大きくなるだけだ。
ドラマや映画の宣伝を兼ねたスタジオではマスコミがウロウロとしている。
潤と慎との衝突が起きたとしたら、どこで知られるか、はたまた誰から情報を売られるかも分からないんだから。



「潤。悪いけど、ここでちょっと待ってて」

「翔君!沢田は…」

「分かってるって。でも今はちょっと待てって。後でいくらでも話を聞くから」

なるべく冷静、そして低音ボイスで。
そうなると潤は動けないはず。
これはガキの頃から彼に使ってる手で、不思議なことにほとんど外れたことはない。
今回もなんとか効いたのか、潤は楽屋の外のベンチにゆっくりと座った。


そんな彼を見ながら、ふと数週間前に相葉君から聞いた話を思い出した。
潤と慎が喧嘩一歩手前だったとかなんとか…
しかも場所はバラエティの収録スタジオ。
誰が出入りしてるかわからない場所で、よくそんなことができたもんだ。
俺が原因なので一概に潤を責めることはできないんだけど。





……


あっ。
なんかだんだんムカついて来た。



俺がいない場所でも。
俺がいたとしても。

あいつらは周りのことなどお構いなしに衝突をする。
そりゃこうなった原因は俺なんだけど。
それは申し訳ないと思ってるけど。

だけどその当事者の意思などお構いなしに、しかも自分たちの立場を理解せずに感情で動く二人に憤りを覚え始めた。