いたい
いたい


痛い。

何が痛いって、視線が痛い。


楽屋のドアをやや乱暴に開ける音。
慎のマネージャーを跳ね除け、入ってきた人物はやはり潤だった。

振り向かなくてもあの強い瞳から凝視されてるのが分かる。
それこそ上から下まで舐めるように見てるのも。

まずい。
この前の件に続きこんな場面を見てしまったら、潤の心の傷が深くなってしまう。
せっかく快方に向かいそうだったのに…
今は慎を落ち着かせるしかないのだけど、どうにも無理そうだ。

無理に引き離すか。
それとも慎へ大声をあげるか。

俺の予想に反して潤は慎のマネージャーへ外に出るように言った。
なるほど人払いか。
彼は俺たち3人の細かい関係性も距離もほとんど知らない現場マネージャーだ。
これから起こりうることを考えると、第三者がこの楽屋にいるのはまずいと。
そう考えるくらいは冷静ってことか。

だが、慎のマネージャーはいくら先輩芸能人の潤から言われても大事なタレントの側から離れるわけにはいかないと首を横に振った。
なので医者である俺から「何かあればすぐに呼ぶので」と伝えた。


パタンと閉じられたドア。
3人しかいない楽屋。
途端にさっきと同じ…いやそれ以上に苛立ったような足音が近づいてきて、思わず手でストップを出した。
いきなりのヒートアップか。
そりゃそうだ。
俺だって逆の立場なら冷静でいられる自信はない。
素直に立ち止まってくれた潤に心の中で感謝した。


おそらく水分不足や栄養が取れてない為、体が弱ってるのだろう。
今できるのは点滴くらいだ。
そうなると撮影が止まることになる。
慎の関係者へ報告すらしかないかと立ち上がった。
と、その時少しだけ触れてた慎の指が俺の指をぎゅっと握った。
さっきまで弱ってた瞳の色が、ほんの少し変わってきた気がした。