こうなった原因は…どっちもだ。
しがみついてる慎に気づかれないよう、細く長く息を吐いた。




とりあえずの接近禁止令は出したが、もし慎から声がかかるとしたら、きっと体調の事だろうとは思ってた。
ここ最近の検査結果のデータを見る限り、彼の体調は多少の波はあるとはいえ、安定していた。
ただあいつは精神が不安定になるのと比例してそれが体調に現れる。
とは言え禁止令を出してまだ数週間。
そんなに早くはないだろと思ってた時にスマホが電話が鳴った。
潤じゃない。
仕事関係でも友人でもない、登録されてない番号に少し警戒して電話に出た。

「はい?…」

『すみません。沢田のマネージャーをしてます…ですが、櫻井医師ですか?…実は…』

予想的中。
慎は仕事中で倒れたとの連絡だった。
撮影場所は親父の病院から1時間程度で行ける場所。
だから病院へ行ったほうが、と説明しても『来て欲しい』との一点張り。
俺が撮影場所へ行くのも、彼らが親父の病院へ行くのも時間的には変わらないのだけど。
むしろ準備の為、一旦病院へ寄ってから撮影スタジオへ出向く方が時間がかかるのだけど。
そう説明すると、俺が出向き沢田の状態がそこで落ち着けば撮影を再開させたいとの考えだと言われ、向かう事にした。
少しパニクってるマネージャーから場所を詳しく聞き、車で向かう事にした。

「……」

…出ないな。
今、慎と接触するなら潤に連絡をした方がいい。
後でバレて要らぬ誤解をされたくないのもあるが、それよりこれ以上潤を苦しめたくないからだ。
何度か着信を入れたし、折り返しがあることを祈りつつエンジンをかけた。

少しだけ混んでる道路。
思いつく限りの抜け道を駆使して目的地に
「でけえスタジオだな…あれ?この作品名…」

もしかしたら。
いや、もしかしなくても潤の映画だ。
潤と慎。
スタジオは違えど、同じ場所で撮影してたのか…

入り口で眺めてると、走ってきた慎のマネージャーから「こっちです!」と急かされる。

慎の撮影スタジオに近いであろう楽屋近辺は異様な雰囲気だった。
主役である彼が倒れてしまい、ストップしてしまった撮影。
きっと撮りの順番を変えたりして調整してるんだろう。
共演者も撮影スタッフも理解がある人たちばかりじゃないから、慎の事務所スタッフも焦ってるんだろう。
俺の顔を確認した彼らは「これで何とかなる」と言わんばかりにあからさまにホッとした顔した。

楽屋へ入りソファへ横たわってる慎に「…どこが悪いんだ?」と声をかけようとして、途端にしがみつかれた。