そして、待ちに待った当日。
3人で駅まで迎えに行った。
俺たちはそれほど2人に飢えていたんだ。

「おかえり!」

「ただいま」

最後に会ってから半年以上経っていた。
翔ちゃんは大きなリュックを背負っていて、潤君は小さな手荷物を片手に持ってて。
その落差に笑ってしまう。
背筋をピンと張って駅の階段から降りてきた2人は、なんとなく大人の雰囲気が漂っていてちょっとだけ緊張する。
そんな俺の様子を翔ちゃんはすぐに見破ったみたいで、「ニノ?なんだよ、その顔」と笑われた。

去年、翔ちゃんが越してきた日。
初めて話したとき。
2人だけで出かけた日。
翔ちゃんと過ごした日々が次々と頭に浮かんできた。
俺にとっての翔ちゃんはいつまで経っても憧れの人で、ちょっとだけ近寄りがたい存在なんだろうと思う。


荷物を団地に置いて、5人で河に向かった。
お盆後の海は危険と親から耳が痛いほど言われてるので、ならばと河川を選んだんだ。
キャーキャーと遊ぶみんなを見てたら、一年前に海で花火したことを思い出した。

あのとき潤君から『好き』って言葉を使ったらダメって言われたって聞いてて。
俺はそれをどう解釈していいか分かんなかったんだっけ。

今、2人はどんな関係性になってるんだろう?

「ニノ、疲れた?」
3人から離れた翔ちゃんが俺の隣に座った。

「ちょっとだけね。あいつらの体力にはついていけねえよ」

ははっと屈託なく笑う翔ちゃんは、その笑顔からは想像できないくらいの重い過去を過ごしてきた。
今はなんのかんので祖父母と暮らしてるが、俺はその人達の人となりを知らない。
チラッと見た限りは厳格そうにも優しいそうにも見えたけど…

「ねえ。翔ちゃんは今幸せ?」

「うん。もちろんだよ。どっちのじいちゃんばあちゃんも優しくしてくれるよ」

「潤君は?」

「潤は俺の家に入り浸りで、どっちが孫かわかんないくらいな状態になってる。ニノは?変わりない?」

「うん。全く。夏休みもずっとあいつらと遊んでた」


「ニノ、もともと肌が白い方なのに、焼けてるもんな」

そう言う翔ちゃんは俺とは反対で日焼けしてない…むしろ夏なのに白くなってる気がするんだけど。

「今の学校レベルが高く過ぎて、毎日勉強してんだよ」

翔ちゃんは賢い。
それなのにもっともっと上がいるってことだ。
あれ?でも時君は?
確か俺とあまり変わりない成績だった気がするけど。

「潤と俺とじゃクラスが違うからね」

なるほど。
レベルごとに分けられてるって訳だ。
翔ちゃんは特進科で、潤君は普通科なのだと教えてくれた。

「それよりニノ、相談があるんだけど」

「相談?」

あいつらとはここから20メートルくらい離れた河の中で遊んでて、絶対聞こえないはずなのに、翔ちゃんはなぜか小声で耳打ちしてきた。

それを目ざとく見つけ潤君が「おーい!!そこの2人!くっつき過ぎ!離れろ!」と叫んできて、2人で顔を合わせて笑ってしまった。