ヒントを与えてあげる。
今のおまえは本当の姿じゃない。
待ってるから、だから早く魔法を解いて俺のところへ戻っておいで。







スケジュールを調べ、ため息が出たのはまだ寒い頃だった。
なんと今年の8月30日、つまりあいつの誕生日はライブの日だったからだ。
ツアーの途中とは言え前のステージからはかなり日が経ってたため、彼は朝から…いいや、だいぶ前から忙しくなるなるだろう。


36歳の誕生日が近くなってるのに、なんの兆しも異変もないあいつに若干焦っていた。
…本当に羽は生えてくるのかな?
あの日から先輩として、デビューしてからはメンバーとして。
そしてなんのかんので恋人としても側にいるが、一向にその気配はない。


学生時代、見た目に反して人見知りだった潤はの交友関係は狭かった。
だが、今ではその反動のように芸能界に友人知人がごまんといる。
が故に、夜の週の半分は出歩いてなかなか部屋に戻らない。
そもそも同棲してるわけでないし、俺も仕事が忙しい。
スケジュールを合わせないと2人きりなるなんてかなり難しいのだ。




『あの夜の約束を叶える。あとはあの片割れ次第だ』

蒼い月が夢に現れ、そう告げた。
そして名残惜しそうに俺の羽を撫で、耳元一言二言告げて跡形もなく消えた。

 
本当なら俺はあの日から蒼い月に属するはずだったが、潤のおかげで免れた。
なのにきっちり約束を守ろうとするなんて、蒼い月はそこまで悪ではないのかもしれない。



不安なのは『片割れ次第』と言う言葉。
片割れとはもちろん番いでもあり、俺のハーフムーンでもある潤のこと。
言葉で伝えなければ約束違反にならないと知り、実際に俺の羽を見せたり、抱き抱えて空を飛んだりもした。
なのにあいつは一向に気付かない。


『一緒に空を飛びたい』

『俺も連れてってよ』

って言葉は何度も聞いたが、
『自分も1人で飛んでみたい』とは言われたことがないのだ。