「俺…ずっとお前を傷つけてた?」

「翔君には、出会った時から幸せしかもらってないよ」



これは本当のこと。
悩んで怒って、ハラハラして。
色々なことがあったけど、全部ひっくるめて愛おしいんだ。

もちろんそれだけじゃない。
楽しいこと、嬉しいこと、気持ちいいこと、翔君にはそれこそ幸せな気持ちの方を感じる事が多かった。


だから、そんな辛そうな顔しないで。
俺は翔君が隣にいてくれるだけで満たされるんだよ。

「ありがとう」

とポツリと呟き、すくっと立ち上がって自分の顔をパンパンと叩いた。
こんな時ロマンチックになるはずなのに、その仕草に笑ってしまう。


「そんな笑うなよ。もう終わり!クヨクヨするのやめた。慎も頑張るって言ってたし、俺も負けねえようにしないとな」


立ち上がって、写真を見に行く。
近くでしばらく凝視してからふりかえり、「うん!俺は大丈夫。まだ先に行ける」と笑った。


この写真家の作品は見てる者の心を映す時があるらしいよ、と教えてくれたのは翔君だったはず。
平常もしくはそれ以上いい時ならばよく見え、悪い時なら逆なんだと。
自分はこの作品からそんなこと感じた事はないが、もしかして翔君は何か受け取ったのかもしれない。


「朝飯…って言ってももう昼飯だけど。用意してるから食べる?」

「食べる。俺、腹減った」

食欲を感じたのなら、もう大丈夫だろう。
昨夜あれだけ傷ついて、それでも立ち上がり前へ行こうとしてる姿。
もしかして、嵐を辞めると決心した日もこうだったのだろうか?
そう言えば、あの日の心情をじっくりと聞いたことはない。
いつか機会があったら話してくれるだろうか?




キッチンでコーヒーの用意をしていると、シャワーを済ませた翔君がソファに座った。
気になるの赤い目元。
昨夜冷やしたと言ってもやっぱり少しだけ腫れてる瞼が気になって、アイスノンを手渡した。


「あ、やっぱ腫れてる?ちょっと違和感があんだよなあ」


「すげぇ泣いたもんね。沢田であれほど泣くなんて、ちょっと妬ける」

「…あいつとチューした事よりも?」

「うん。チューよりも…あ、でもどうかなあ〜一緒くらいかな」


むーっと唇突き出し考えた翔君は、目の前のオムレツがを目の前にして「いただきます」と手を合わ、フォークを手に取った。


「俺さ、あの日も泣いたよ」

「あの日?」
 
「お前と別れて旅してた時。雨の中迎えに来てくれたじゃん。あの時の方が泣いてたと思う」


早口で一気に言ってから、もぐもぐとコーンとレタスのサラダを食べた出した。


「なになに?それ知らないんだけど。詳しく教えてよ」

「これ以上は教えられないな」とテレビをつけ、音声を大きくした翔君に「教えてよ」と何度聞いても答えない。

だが、ポーカーフェイスのようで、耳が少しだけ赤くなってるを見逃さなかった。



あの日、きっと泣いてくれたんだね。
口にはしないけど俺と同じくらい笑って泣いて感じてくれたんだ。

今は深く聞かないけど、いつか口を割らせようと考えた。




「それとって」と言われれば渡し、「あれ、いいよね」と言えば、「うん、そうだね」と答えが返ってくる。
詳しく説明しなくても分かり合える関係性は、きっといろんなことを経て築き上げたもの。
二人でこうやっていられることが幸せで、少しずつでも前へ進んでいけたらいいんだとしみじみ思った。