次の日の昼休み。
彼はいつもの中庭にはいなかった。
ニノによると、櫻井は週1.2くらいの割合で欠席または遅刻早退をするらしい。
担任も何かとは言わないため、理由は分からないんだとか。
「あ、いた」
3日後にベンチに座る櫻井を見つけ、声をかけた。
「…『いた』ってなんだよ?…ジュンくん」
名前を覚えてもらってて安堵した。
あの時の変なやりとりが功を奏したのかもしれない。
彼の横に座り、「潤君は、あの彼女とは別れました」
そう言っと、「へーっ」と気の無い返事が返ってきた。
きっと興味がないのだろう。
学校に慣れただの、担任はもうだのといったたわいもない話をする事にした。
だが、深い内容をしようとするとやはり上手く逸らされる。
櫻井はなかなか手強い相手だった。
このままではラチがあかないから思い切って誘ってみる。
「放課後、どっか店に寄ってかない?色々知りたいんだ」
俺の何知りたいんだよ?と笑う姿に一瞬期待をすれど、「ごめん。用があるから」とつれない返事。
めげずにそれからも何度も誘ったが、その度に断られた。
自分の気持ちなんて、彼女を振ったあの日にとっくにわかってる。
この気持ちは恋なんだ。
不思議と男相手なのに…なんて、悩んだりはしなかった。
それほどこの気持ちは自然なものなのだ。
だが進展は全く見えず。
友人にすら認定されてないこの状態。
どうにかしないとな。
でもどうすればいい?
誘っても、おんなじことの繰り返しだ。
いっそ、気持ちを打ち明けたほうがいいのだろうか。
いや、それよりもやっぱり最初は友達からの方がいいだろうか?
なんせ相手は男だ。
急いては事を仕損じるなんてくらいわかってる。
じゃあどうすればいい?
無限ループの悩みに頭が痛くなる。
こんな時はニノに相談するのが一番なんだけど、どうしても今回はできなかった。
ニノはかなり慎重に、でもどうにかして櫻井と接触しようとしてるように見えたからだ。
ニノが櫻井を意識しているのはわかるが、それが恋愛感情なのかどうかは不明。
でも、もしそうだったら?
仲間同士で取り合いなんて、絶対したくない。
だからなかなか行動できないでいるニノに少し安心していた。
だがこれは抜本的な解決にはなってない。
とにかくどうにか櫻井との仲を進展させたくて、頭を悩ませていた。
そんな俺の悩みを軽く飛び越えた奴がいた。
大野君だ。
その日の昼休みも櫻井は中庭のベンチにいた。
通路に続く先の花壇の花を大野君がスケッチしてる時、それを眺めていた翔くんから自ら話しかけたんだ。
「その絵、綺麗だね。すごい上手い」
スケッチブックから目を離さない大野君は「ありがとう」とぼそりと返事をした。
大野君!何やってんだ!
もっと会話を続けろよ。
自分は何もせず、渡り廊下の壁に隠れ2人を見てる俺は心で毒づいた。
当たり前だが俺の気持ちなど伝わらないまま、描き続ける大野君。
それを横で感心しながら眺めてる櫻井。
そしてそれを遠くから眺めてる俺。
なんだこのシチュエーション?
ふと、大野君の手元が止まり、「興味あるなら部室に見にくる?」と櫻井に聞いた。
大野君。
櫻井がそんな誘いに乗るくらいなら、こんなに苦労してねえよ。
きっと馬鹿丁重にお断りされるだけなんだ。
そんな俺の予想を裏切って「え?いいの?見て見たい!」と笑顔になる櫻井。
そこへ昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。
「明日も絵を描いてるから、ここにおいでよ」
「うん。ありがとう。また明日ね」
そう約束して、2人は別れたんだ。