「翔君、それ取ってよ」

「あ、ハイ」

なんて。
ナチュラルにやり取りしているふたりが目の前にいる。


もう付き合ってんのかな?
やることやってんのかな?

なんて考えるのは、健全なる男子高校生だから仕方ないと思うんだ。
夏休みの終わり、相葉君と大野君の2人の計画通りに5人で海岸へ来ていた。
ここは結構穴場で、夜となるとその手の輩(つまり悪っぽい方々)は殆ど見かけない。
本当はバーベキューでもしようと思ったのだが、準備が大変だからやめにして、近くの店で弁当やお菓子そして花火などを買い込んだ。

夏休みは残すことろあと2日。
大野君も相葉君も宿題を終え(その大半は俺のノートを写しただけだが)スッキリとした表情で、打ち上げ花火をしている。
まだ陽も落ちてない夕方の花火に、よくあれだけ盛り上がれるなと感心する。


潤君や翔ちゃんもその様子を楽しそうに眺めてて、俺だけがモヤモヤした感じになってるようだった。
どうして1人でこんなに悩まなくっちゃいけないんだよ?

「浮かない顔だな。どうしたの?」
潤君が飲み物を持って俺の横に腰を下ろした。

「…別に。なんでもない、けど」

「けど?」

「なんもないよ」

潤君の目線の先には翔ちゃんで、その翔ちゃんは美味しそうに肉をパクついてる。
ハーフパンツにタンクトップという彼にしては極めてラフな服装だ。
あまり出かけないからか、焼けてもすぐに戻るのか、翔ちゃんの肌は夏の終わりでも白いまま。
日頃は露出しない白い部分に、付き合ってる証拠がないかつい探してしまうのはこれまた仕方ない事だと思う。

「…ニノ、翔君のことが気になるの?」

「気?気になるって何?」
いきなり直球を投げられて、反応ができなくて変な声になる。

「今日ずっと目で追いかけてるから。…いや今日だけじゃないよね?」

「……」

「違うなら別にいいけど」
そう言って、潤君は別の話題に切り替えた。

別にいいけど、って何だよ?
翔ちゃん見るのに潤君の許可がいるのかよ?

なんて、聞けないけど。

潤君はテレビやゲームに漫画などいつもと同じような内容に話を変えたけど、やはりどこか白けた空気が漂うってしまう。

「やめろ〜、服が濡れんだろ」

海に足だけ浸かり海水のかけっこをして、わーわーはしゃいでいる3人。
潤君はそんな様子を目を細めて眺めていた。
やっぱこんな思い抱えたまま、うだうだするのは嫌だ。

「潤君って翔ちゃんのことが好きなの?」
そっちが直球で来るならこっちもだ、って気持ちなったのはこれもまた仕方ないと思う。
でもやっぱり潤君の顔を見る勇気はなく、まっすぐ前を向いていて聞いたんだけど。

「ニノ、それ翔君に言うなよ。『俺が翔君を好き』って言葉を絶対に使わないで」
そう言って、立ち上がり俺を見下ろす潤君。
その顔は真剣で、圧倒され声が出ない。

唖然としてるうちに、3人の方は近づいてく潤君。
俺が残されてることに気づき、「ニノもこっちおいでよ」と翔ちゃんが叫んだ。
潤君もついさっきの言葉が嘘のように元どおりの表情に戻っている。
出来れば潤君との関係性を壊したくない。
仕方ない、今は楽しむことに徹するか。
そして、「お前ら声でけえんだよ」と4人元に走った。




『「好き」って言葉は翔ちゃんに使っちゃいけない』

またもや謎の言葉が出てきて、余計に頭の中が混乱する。
いつまで経っても解決しないのは、俺が行動しないから?
認めちゃった方が楽になる?


しばらくすると時刻を知らせるサイレンの音が鳴り響く。
その規則正しく流れる音は、水平線に傾く陽と一緒に落ちていくような気がした。