期末試験も終わり、すぐに夏休みとなった。
成績優秀な翔ちゃんはもちろん、要領のいい俺や潤君はもちろん追試はない。
教科によってばらつきがある大野君や相葉君は、翔ちゃんにヤマを張ってもらい、今までにないほどの高得点を取ったと聞いたので、5人とも夏休みの補習授業は免れたんだ。


憂鬱の原因だった進路指導は適当に答えておいた。
それは他の4人もそうだったようで、就職組にしようと言ってた大野君も親の説得で一応進学組にしたらしい。
翔ちゃんは進学しないと答えた為、担任達からかなり説得されたようで、『もう、どっちでもいいや』と笑っていた。


青い空。
降り注ぐ太陽。

夏休みとなり、5人で海に行ったり山に行ったり夏を満喫…は、実はそんなになってはいない。
翔ちゃんが度々何処かに行ってしまうからだ。
行き先を聞いても曖昧に促すので、4人ともそれ以上は聞けなかった。


そんなある夜。
ガンガンに効いたクーラーの空気に疲れ、空気を入れ替えた。
今夜は風が少し涼しい。
ちょっと外へ出てみるかと「コンビニ行ってくる」と親に声をかけ玄関へ行くと「じゃあ牛乳買ってきて」と母親から頼まれる。
本当の目的はコンビニじゃないんだけどな、とゆらゆらと夜道を歩く。

帰り道さらっと流れる風が本当に気持ちいい。
このまま戻るのはもったいないなあと、茂みに座りしゃがんで夜空を見上げた。
団地の敷地内でここに居たら道を歩く側から見つかることはほぼない場所。
実は幼馴染の3人にも教えてなかった。


しばらくすると左の奥の道から話し声が聞こえてきた。
目を凝らしてみると二人組で潤君とその彼女?…だと思う。
だと思うのは、前の彼女とは違って見えたからだ。

付き合ってるのかはわからないが、女子が潤君に纏わりついてるから、そんな感じの関係性なんだろう。
まだ誰かしらの女子と付き合ってたんな。
翔ちゃんが越してきてから話に出ないから忘れてた。

と、女の子から潤君に抱きついてきた。
潤君は最初は鬱陶しそうにかわしていたが、途中からふりほどきはせずにされるがままにされていた。

…ここが向こうから見えない場所でよかった。
下手したら覗き見扱いされてしまうじゃんか。
そんなに興味ないから早くどっかに行ってくれないかなと思いつつも、どうしても見てしまう。

そこに違う足音が聞こえてきた。
翔ちゃんだ!
俺や潤君と違い、シャツと綿パンを崩す事なくきちんと着ている。
翔ちゃんと道の真ん中で相変わらず抱き合ってる…抱きしめられてる潤君と彼女はかち合ってしまっていた。

翔ちゃんはすぐに気がついて「あ、ごめん。邪魔しちゃったね」と笑って、まっすぐ進む。
そうまっすぐ…まっすぐ来られると俺がいる方角なんだけど、と焦る。
潤君達はというと、すぐに離れたのかそこに姿はなかった。


「ニノ!隠れてるみたいだけど、少しだけ見えてるよ」
しばらくして翔ちゃんから茂みを覗き込まれた。
バレたか…
そういや、翔ちゃんにはこの場所教えたもんな…

「大丈夫だよ。松本君達には気づかれてないから」

「のぞいてたわけじゃないよ。あっちが後から来たんだから」
コンビニの袋を見せ、翔ちゃんはどこ行ってたの?と聞く。

「うん?うん。まあ、いろいろ、ね」

…また誤魔化された。

時計を見ると時刻は22時だ。
バイトでも図書館でもないようだけど、どこに行く用事があるんだろうか。

俺も一緒に帰るからと翔ちゃんの横に並ぶと、目線があまり変わらなくなっていた。
翔ちゃん、この夏で背が少し伸びたんだ。
そういえば顔つきも少し変わってきてるように思える。
前はどう見ても中学生だったけど、今はそうでもないように思えるって不思議だ。

「あの2人、どう思った?」

俺の勘が当たってるのなら、潤君は少なからず翔ちゃんの事を好きなはずだ。
だって2人で出かけようって誘ってるのを何度か見たことあるし。
ただ、翔ちゃんから色よい返事はもらえてなかったみたいだけど。

「松本君モテるねえ。青春って感じ」

うさぎの瞳のような目をして笑ってる翔ちゃんは、潤君にそんな気持ちは微塵もないのかな?


「翔ちゃん、来週一緒に出かけない?」

「どこ?3人もいっしょ?」

やっぱりだ。
翔ちゃんはこんな感じでたまたまならともかく、2人で出かける事を敢えてしないんじゃないかと前々から思っていた。

「いいや、2人で」

そう言い切った俺に、翔ちゃんがなんと答えるかドキドキした。