片付けるのはいいけど、誰が誘うんだよ?

なんて問題はすぐに解決した。
次の日、部室に行くとすでに天然コンビと『しょうちゃん』がいたんだ。

「わーっ!すごいね。これ前に下書きしてたやつ?」

キラキラした瞳で大野君の作品を眺めてるしょうちゃん。
部室の机の上には所狭しと絵やスケッチブックを置いていて、しょうちゃんの両隣に大野君と相葉君が座っていた。

「そう。あとは色をつけるだけ」

「人物画もあるんだ。このスケッチは目を閉じてるけど、もしかして相葉君?」

「うん俺。よくわかったね。寝てるとこ書かれたんだよ〜」

なんて3人できゃっきゃと話している。


「翔君、今度モデルになってくんない?」

どんなことに対しても物怖じしない大野君は、しょうちゃん』をもう下の名前で呼んでいる。
俺なんて頭の中でしか呼んだことないのに。

「えー?俺?俺を描いても仕方ないよ」両手を振って、謙遜するしょうちゃん。
彼の一人称が『俺』って事が意外だった。…なんか似合わねーな。

「それいいじゃん!そしたらまたここに遊びに来るってことだしさ」
しょうちゃんの肩に手をかける相葉君に、これ以上は見れらんなくて咳払いをした。

「あ、ニノ。遅かったね」
ドアの前に立ってた俺に話の腰を折られ、2人とも不機嫌になるかと思えば、そうでもなかった。
相葉君も大野君も『しょうちゃん』に純粋に興味があっても、俺のような複雑な気持ちではないのだろう。

「お邪魔してます。ねえ、二宮君って同じクラスだよね」

「う、うん」

「ちょっと聞きたいんだけど?いい?」

左の掌を首に当てるしょうちゃんから、何を言われるか予想が付かずドキドキした。

「俺、クラスで浮いてない?なんかいつも遠巻きに見られてる気がするんだけど」と、首を傾げるしょうちゃん。

……
もしかして、もしかしなくても。
彼は天然なのだろうか?

転校したばかりなのに、なんでもソツなく出来る櫻井君に皆んな声がかけらんなかったんだ。
もしかして1人が好きで誰とも話したくないと思われてたんだよ、とざっと説明した。

「そっか。最近目も合わせてくれなくなってきたからさ。聞けば教えてはくれるんだけど、もしかして避けられてるのかと思ったよ」
 
「んなわけないじゃん。櫻井君のことが気になるけど、話しかけるタイミングがなかったんだよ」

「二宮君も?」

「えっ?」

「二宮君もそんな感じだったと思うんだけど」
俺の予想が外れてなければ、と続けた。


……なんてこった。
とっくにバレてたんだ。
こうなったら隠す方が不自然だ。
同じく前々からタイミングを計ってたと、素直に認めた。

「俺なんてそんな大層なものじゃないのに」と、ころころ笑うしょうちゃんは小さくて可愛くてやはり男子高校生に見えない。

俺たちのクラスの話題になったところで、そっと椅子から離れてた相葉君と大野君も加わってして話が盛り上がる。
そうして30分も経った頃「そろそろ帰らなきゃ」と時計を見たしょうちゃんに、じゃあ一緒にとみんな続いて部室を後にする。

せっかく同じ敷地内の団地なんだから明日も一緒に登校しようと声をかけ、次の日の朝に待ち合わせる約束も忘れなかった。


そしてその翌朝。
びっくりしてたのは昨日部室に来てない潤君だった。

「…いつの間に…」と唖然とした表情に、してやったりの俺。
実際のきっかけを作ったのは、俺じゃなくてあの2人なんだけどね。

「おはよう。松本君だよね?櫻井翔です。よろしくお願いします」

「潤君、部室にも団地の屋上にも最近来ないから情報遅えんだよ」

「メールくらい入れてくれたらいいだろ?」と言う潤君を遮って、しょうちゃんは俺の方を向き何故か焦った表情で「え?屋上に入れるの?」と聞いてきた。

「俺らがいるB棟の屋上だけ入れんの。櫻井君が住んでるC棟は頑丈に施錠してるから入れないよ」

「そうなんだ。じゃあ大丈夫かな…」
やはり浮かない表情が気になり「なんで?」と聞いた。

「いや、別に何にもないよ。あ、ニノ」
ニヤッと笑うしょうちゃん。
「俺のことも下の名前で呼んでいいからね」
転校初日の人を寄せ付けないような雰囲気が嘘のようだ。

「わかった。じゃあ翔ちゃん」

俺にちゃん付けするのって身内位だよと、眉を下げた翔ちゃんに爆笑した。

翔ちゃんに対してぎこちなかった潤君も、登校時にチラホラと話しかけていた。
他の人にはそんなことないのに、翔ちゃんに対してはどうしてあんなに緊張するのかが不思議だった。

今日は梅雨の中休みなのか、うっすらと太陽が出てきた。
翔ちゃんが時間があるならば、今度はB棟の屋上に誘おうと決めていた。


そうして、梅雨も明ける頃。
退屈だった俺達の時間が、めちゃめちゃ変わる予感がしていた。