あの日、帰って母ちゃんに聞いてもよくわからなかった。
それは相葉君達も同じ。

「越してきたけど、荷物だけ置いてる状態で、実際はまだ住んでないんだって」

「B棟のやつに聞いたけど、引越しの挨拶に来たのって両隣に住んでる耳が遠いじいさんばあさん連中だけみたいだよ。平日の昼間にきたんじゃないかな?」

「あの棟に入居してるのって平均年齢が高いもんな…」

「まあ、越してきたらわかるよ。学校だってあるんだし。中学校なら俺らの高校とそんな離れてねーしさ」

なんで話してるうちに、俺らの中ではあの子は中学校じゃないかって事になった。
髪は肩までの長さ。
ジャージだったから服装では性別は分からなかったが、声も高めだったしおそらく女だろう。

結局はB棟の一室にあの二人が入居してきたって程度しかわからなくて、どこから来たのか、あの二人の関係性なども全くわからないでいた。

そうして1週間過ぎた頃には、もう記憶も薄れ俺たちの話題にもあがらなくなっていた。
ただ、この話題になると全く口を開かないでいる潤君のことは気になってたけど。




4人でいつものようにくだらない話をしながら学校へ向かう。
靴箱の前でクラスが違う3人とは別れ教室へ向かい、席に着くといつもの退屈が始まるとため息が出そうになる。

ホームルーム前の10分間。
昨日何のテレビ見ただの、漫画の発売日はどうしただの、もうすぐテストで憂鬱だとか、部活の事とか話題はいつとも変わらない。
そんなクラスメートの話に適応に相槌をうちながら窓の外を見て、今日帰ったら何しようか?なんてそんなことばっかり考えていた。


「二宮君、今日まで提出のプリント持ってきた?」

3人組の女子から大きな声で話しかけられる。
朝から元気な彼女らは、ばっちりメイクをして髪を整えてて、だからかどの子もみんな同じ顔に見えてしまう。
あの子とは全く違うんだよなあ。
やっぱり素材大事だなんて、考えつつもぼんやりしてると「二宮君!聞いてる?」と大きな声になった。

「あー、修学旅行の希望先のやつ?もうとっくに出してるよ」

その手のプリントはさっさと出すことにしてる。どうせどこ行ったって同じだし、考えても無駄なのだから。

「えー?どこにしたの?」

「自由時間、一緒に回ろうよ」
ダラダラと話しかけてくる彼女らの相手が若干面倒になってきたとこに予鈴がなる。
助かった!と思ったと同時に担任が教室のドアを引いた。


「早く席に着きなさい!今日は突然だが転入生がきたから紹介します」
そう言って、一旦廊下の方に一旦引っ込む。


この時期に転校生?
なんの噂も流れてないよね?
なんて、途端に騒つく教室の中。

そういや、さっき委員長と副委員長が担任に呼ばれてたのを見かけた。
案の定、その二人が慌てて机と椅子をクラスに運び入れていた。

そうして、先生に後に歩いてきた転入生。


小さな身体に大きな瞳をくるくるさせている。
艶々な髪は綺麗に切り揃えられていた。

自己紹介してと促されたその子はちょこんと頭を下げ、「櫻井翔です。よろしくお願いします」と挨拶をした。

その声色は、あの日の声そのままだった。