鈴が転がすような声
とは、まさにこの事だろう。

『はーい』
と、返事をした以外の声は、俺らまで聞こえなかった。
その子はさっきの女性と2人で引越し業者の人へ挨拶をして、すぐに建物の中へ引っ込んだ。




その数分間。
僅かな時間、俺はふわっとした気持ちになった。
この気持ち、なんだろ?

「…あれ女?男?どっちだ?」

大野君が親子か建物に入ったのを確認してから、聞いてきた。

「え?あ、顔ばっか見ててわかんなかった。声でもわかんないね…ニノ見た?」

「一応ズボンを履いてたけど。ジャージだったからわかんねーな。あのメーカー、ユニセックスだろ?」 

ギリそこまでしか見てなかった。
沈着冷静を売りにしてる俺が、なんとしたことだろうか!

3人で『そもそも何歳なんだろ?』『中学生じゃね?』なんて、あーでもこうでもないと話すが、なんせ想像ばっかでラチがあかない。


「情報通の母ちゃん達なら知ってるだろ?」
そう言って、今日は解散しようという流れになった。


「潤君?帰んねーの?」

そういえば潤君は、俺達があーでもこうでないとやり取りしてる間、全く喋ってはなかった。
ただ、『しょうちゃん』と呼ばれた子がいた場所をただずっと凝視していただ。

…悪い予感が頭をよぎる。

まさか。
まさかね。

そもそも潤君には彼女がいる。
あんまり会ってないみたいだけど、一応あの学校では一番人気でひとつ年上の先輩だ。

でも、それにしてもあまりの真剣な眼差で全く動かない潤君。

『もしかして好きになったんじゃねえの?』なんて。
そんなジョーク、口が裂けても言えそうにない雰囲気だ。
だって怖いじゃん。
『そうだ』って認められたらどうするよ?
だって潤君相手じゃ勝ち目がない。
そりゃ俺だってモテなくはない。
でもこのド派手で目立つ男と闘うなんて、到底無理。

ん?
闘うってなんだ?
どうして潤君?


自問自答を頭の中でしてる最中に、
「ニノ!松潤!もう行くよ」と相葉君が一際大きな声で呼びかけてきた。
顔を上げると、大野君と2人で肩を組み俺達が住んでるC棟へ向かっている。
相葉君の大声で正気になったのか、振り向いた潤君とやっと目が合った。
不思議そうに見つめ返す俺に、目を逸らし、「なんでもねーよ」とぶっきらぼうにつぶやき、ドンドンと前を歩いて行った。


ほんの10分前までは退屈で仕方なかった俺達。
何かが起こりそうな、そんな予感がした。