※再更新です
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目の前には青い空。
立ち上がれば澄み渡る海が見える屋上で寝転び、雲の流れをぼんやり眺めていた。
「…暇だなあ〜なんか面白い事ないかな〜」
さっきまで週刊漫画を読んでた放り投げ、相葉君が大声をあげた。
「おい!それまだ俺読んでねえよ!」
転がる漫画を慌てて拾う大野君。
彼は絵が得意で、漫画の模写をするんだからとノートを取り出し書き始めた。
「わー!おおちゃん、やっぱ上手だな」
「このキャラはね、書きやすいんだよ」
なんて二人でワイワイと騒いでる。
「ちょっと、あんまり大きな声出すなよ。一応ここ立ち入り禁止なんだから」
コンビニの袋を持って潤君が現れた。
『ここ』と指してる場所は、団地の屋上だ。
俺ら4人は、棟は違えどこの大型の団地に住んでいる、いわば幼馴染の間柄。
物心つく前から小・中・高校も一緒でずっとつるんでいた。
俺らが住んでるのは大都会とは言えず、でもそこまで都心からは離れてない、便利なようなそうでもないような中途半端な地域。
団地は昔からの知り合いも多く、高校だって同じ地域のやつらが進学して、特に目新しいこともなく特に刺激もない。
つまり俺らは退屈してるまっ最中だったんだ。
「なんか面白いことないかなー」
「見慣れたやつばっかだし、行き慣れたとこばっかでこんなとこ飽き飽きだよ。高校卒業したら絶対出てってやる」
高2年の夏はもう目前。
そろそろちゃんと進学や就職のことを決めないといけない時期ない時期にきている。
しかし!だ。
学校の成績は可もなく不可もなく、得意なことも特にはない。
加えて、なーんにも考えてない16.7歳の奴らに、なんの将来のビジョンがあるだろうか?
あ、でもそういえ俺らの中じゃ出世頭の潤君がいた。
「潤君、読者モデルって卒業しても続けんの?」
彼は昨年スカウトされ、ファッション雑誌の専属モデルとなっている。
バイト感覚で引き受けたものの、時間がとられるその仕事は本人的なはあまり乗り気ではないようだった。
やはりと言うか、そう質問すると顔を曇らせた潤君。
「モデルなんかずっと続けられないだろう?それにあの世界ドロドロしててめんどくせーよ」
外見は遊び人風で…
あ、実際に彼は凄くモテるし、外見まんまの遊び人なんだけど。
そんな潤君でもモデルの世界は嫌になるらしい。
「大野君は?やっぱ絵の仕事?」
「できればそれがいいんだけど、俺くらいのレベルいくらでもいるよ。相葉ちゃんは?親父さんの中華屋と、じいさんのパン屋どっち担ぐの?」
「俺はどっちでもいいんだけど。二人とも俺に継がせたいみたいでいっつも喧嘩して困ってんだよ」
思い通りなんねーなと、4人でフーッとため息を付く。
そこへ「トイレ行ってくる」と、すくっと立って去る相葉君を眺めながら潤君がこっちに顔を向けた。
「ニノは?どうすんの?」
「なーんも考えてないよ。俺ゲームくらいしか興味ねえもん」
このままだと多分、行ける大学になんとなく進学して、なんとなく会社勤めするんだろうなとは思う。
そう思うが、将来のことなんて考えたくなかった。
今、この時間、この退屈な日々をどうやったら楽しく過ごしていけるかだけしか考えられなかったんだ。
オレンジの陽が差し込んできた。
もう夕暮れ時。
そろそろ帰ろうかと立ち上がった時、相葉君が走って戻ってきた。
「遅かったなあ、何やってたんだよ?」
「ちょっと、大ニュース!!トイレに行ってたら、トラック見かけたんだ。B棟に引っ越してきた」
「今更、引っ越しとか珍しくないだろ?」
「それがさ、めちゃ綺麗なの!すげえ綺麗」
気乗りしない俺達を急かすように、駆り立てる相葉君。
「誰が綺麗なの?なん歳くらい?」
こんな話題に付き合う大野君は、本当に人が良いと思う。
「30歳くらいかな?」
「行かねえよ!30ってなんだよ?そんな年上には興味ねえよ」
なんだよ?30ってとブツブツ言う潤君に、相葉君が可哀想になり、「まあまあ、そこまで言うなら行ってみようよ」と潤君を引っ張った。
俺だって全く興味ないんだけど。
でも、それでも少しは退屈しのぎにはなるかもしれないと思ったからだ。
B棟に向かうと、そこには相葉君が言う通り一台トラックが停まっていた。
もうだいたいの荷下ろしは終わってるらしく、細身の女性が引越し業者に終わりの挨拶をしているところだった。
「後ろ姿だから見えねーな。…あ、見えた!ほんと美人だ」
だろ!となぜか胸を張る相葉君。
確かに綺麗だが、やっぱり年上すぎて範疇外だ。
と、そこへ女性が建物の中の方へ振り向いた。
「ほら、ショウちゃんも挨拶しなさい」
はーい、と言って出てきた子に驚いた。
何故なら自分の好みにドンピシャで、こんな可愛い子がいるなんてと、持ってたカバンを落としそうになったくらいだった。