その日も勿論別行動なのに、やはり松潤の気配を感じていた。
前回と同じく電車でも、普段使わない会社の書庫でもだ。
前は気のせいだったけど、今度こそ何かあるのかもしれないと、電話をかけてみた。

「もしもし~?翔君、どしたの?忘れ物?」

天気がいいから布団干してんだ~、とのんきな声に安堵する。

よかった、今日も気のせいだったみたいだ。 


…って、そんな事ってあるのか?
俺、疲れてるのかな?
なんだかしっくりこなくてモヤモヤが止まらないが、原因がわからないものは考えても仕方ないと頭を振った。







その日は珍しく定時に終わり、このまま帰るのは勿体無いと本屋へ寄った。
愛読してる作家の新刊を探していると、急に肩をガシッと掴まれ、びっくりして振り向くとそこにはニコニコ顔の相葉君がいた。

「しょーちゃん、昨日電話何度ももらったけど、なんだったの?」

昨日は温泉に行っていて、さすがにサウナ中は電話取れなかったんたよと続けた。

「なんか用事だった?」

そうだった。
相葉君には何にも説明してなかったんだ。
ちょっと聞きたい事あったんだけど解決したからいいよ、と適当にごまかす。

「そう?ならいいけどさ……あれ?翔ちゃん、松潤の匂いがする~」

え?

「松潤の香水つけてるの?」

つけてませんけど?

「だって、松潤とおんなじ匂いがするよ?ジャケットかな?」

犬みたいにふんふんと鼻を鳴らした彼は、俺の全身を匂っていく。
天真爛漫な行動の相葉君には慣れてるが、これはさすがに恥ずかしい。
やめてって言いかけた時、「これだ!」とインナーのTシャツを引っ張られた。 
お分かりだと思うが、俺はスーツのジャケットを剥ぎ取られカッターシャツをめくられたみるも無残な状態だ。
しかも本屋の真ん中で。
そんな俺の状態に幼馴染である相葉君は気にもとめず、翔ちゃん寝ぼけて松潤の間違えて着ちゃったの?と茶化すようにケラケラと笑う。

俺の状態はさて置いて、と。
今は下着問題のほうだ。
自分のと松本の下着を間違えるはずがない。
なぜなら俺は寝起きで慌てないように、翌朝着る予定のスーツや下着は準備しておくのが常だから。
俺が間違えたんじゃないとなると、松本が間違えたとか?
自分のだと思って、間違えて香水を?

んなわきゃない。
あいつは細かい。
そりゃもう細かいどころじゃないくらい、細かいのだ。
だから同じ洗濯機に入っていても形や色が似ていても、自分のと俺の下着を間違えることは絶対にない。

名前も書いていないのになぜ分かるのか、と以前聞いたときには
「肌触りじゃないかな。なんとなく…ほら、自分のってちがうでしょ?」
と似たような、俺と自分の下着を俺の両手に持たせた。

だから松本はこのシャツにうっかり瓶を倒したなどという不可抗力ではなく、故意に香水をつけたのだろう。
そしてそれは自分のと間違えて、ではないと推測される。


でもどうして?
理由が分からなかった。
俺の下着に自分の香水なんてつけるか?普通。
 
「マーキングじゃない?あー、松潤ってほんと翔ちゃんの事好きだよね」

「…どういうこと?」
いや、知ってますから、と何処までもにこにこと微笑を絶やさない相葉君。

「松潤は隠してるつもりだろうけど、最初から翔ちゃんを意識してるのが丸わかりだもん。気付いてないの翔ちゃんだけだよ。それともそれらしい事なんか言われた?」

そうなのか?
あいつの気持ちがわかり始めたのわかったのって、結構最近だぞ?
俺だけ気付いてないって、じゃあニノも智君も知ってたのか?

……
って、今はそっちじゃない。

「マーキングって何?」

「俺のもんだから誰も近寄んなよって、牽制してんのかな?ってね。…
心配性の松潤は誰も翔ちゃんに近寄って欲しくないんだよ」

え?俺、
束縛されてるって事?
でも気持ちを伝えあったのって昨夜だぞ。
複雑な表情をしてる俺に何か感じたのか、相葉君が言葉を続ける。

「もしくは、意識して欲しかったのかもね。翔ちゃんその辺は鈍感だからさ。だって今まで松潤の香水に気づかなかったんでしょう?まぁ、ほんの僅かな香りではあるけどさ」

ほのかな香りは、言われてみれば確かに松潤のものとわかる程度の量ではある。
松潤かいじらしくって可愛いじゃんと、笑う相葉君。
そんな彼とは真逆に理解できない俺の心の中は、朝とは違うもやもやが広がっていった。














その当時、なんとなく聴いた『愛のかたまり』
それでこのエピソードを思いついたんです

『あなたと同じ香水を町の中で感じるとね』
『あまりに愛が大きすぎると、失うことを思ってしまうの』
『日々が愛のかたまり  最後の人に出会えたよね』

とかね