本『発達障害はきみを彩る大切なものだと知った』 | 自閉症スペクトラム障害で本とか書いてる人 天咲心良

自閉症スペクトラム障害で本とか書いてる人 天咲心良

子供の時はLDといわれ、
大人になってから高機能自閉症者・
アスペルガー症候群と判明した作家、天咲心良のブログ。

2017年、自身の体験を綴った『COCORA~自閉症を生きた少女~』の1、2巻を講談社より刊行。

現在3巻目を執筆中です。

 

 

だいぶ前にあるお母さんからコメントをいただいた。

その方は自閉症の娘さんを持ちABAなどで療育をしながら

娘さんの可能性を伸ばす努力をしていて、

いつかは娘との日々を本として出したいと思っている、ということだった。

 

それが多分2年近く前の話。

 

そして少し前、娘との日々について書き始めたというコメントが残してあった。

 

たぶん1年ぐらい前。

 

そして今回、無事に本を出版することができました、という連絡が来た。

 

嬉しくてすぐ本買った。

 

 

 

つむぎさん、ご出版おめでとうございます。

 

 

つむぎさんの長女、アサミちゃんは1歳で『拒食症』を発症する。

それだけでも心配なのにだんだんと『普通とは違う』様子が目立つようになる。

発達が遅い…? 普通と違う気がする…?? そんなはずない。何かの間違いでは?でも……

親心の祈りもむなしく、

ある日アサミちゃんは発達障害の診断を受けてしまう。

 

だけどそれより気になるのは拒食症の方だった。

なんといっても、命にかかわる病気だから。

 

何度も繰り返し発症する拒食症。

この間まで食べていたのになんで食べてくれないの。

痩せていく娘を見るのはとにかくつらい。

色んな工夫をして食べさせてもそれすら食べてくれなくなり、

母、つむぎさんは苦しむ。

 

同時にお出かけ中は食べれない、とか、

こういう状況だと怖がって食べない、などの

自閉症的症状にも苦しめられるようになる。

 

そんな中、自閉特徴がどんどんと強くなっていく

アサミちゃんが理解できなくなっていき、

我が子なのに嫌悪感を抱くことに苦しむようになるつむぎさん。

 

 

自閉症児であり軽度知的障害でもあるアサミちゃんと、

葛藤を繰り返しながらも少しずつ成長していくつむぎさんの様子が

とても細かい筆致で描かれている。

 

本を読んだ私の目に映るつむぎさんは、誠実でまじめで律儀な人である。

 

それは療育園での様子の描写や、食事拒否を始めた時の細かい記述、

どんな場面で不安行動が出たかなど、細かい記憶の述懐を見てもよくわかる。

ものすごく記憶がいいか、ものすごく細かくメモを取っていたかの二択だ。

 

そして、私の目から見てつむぎさんは、

とても一般常識があり、理論的に物事を考えられる、

冷静な判断力も観察眼も備えた、社会性ある『大人』であり『母親』、

そして定型発達者である。

(こういうことが起きるとこういう行動をするんだ、

という子供の些細な行動の因果関係を

見るとはなしに全て観察しているところがすごい。

本にした時にもいい意味で理路整然としているし、

個人的に情緒的なお母さん、というより

スマートなキャリアウーマンタイプの女性かなという印象だ)

 

文章を読む限り、本来なら強く自制心が働く女性で、

感情的にならないように自分を適切にコントロールできる人だろう、という姿が浮かぶ。

 

そんなつむぎさんでさえ、いや、そんなつむぎさんだからこそ、

感情の暴走に翻弄され、衝動的で、不安から奇行を繰り返す

未知の娘、アサミちゃんに困惑しっぱなしになる。

 

自制心のある人には、制御が利かない人間の行動が理解できないのだ。

 

だって理論的じゃないし、社交的じゃないし、一般常識は通用しない。

不意を突いて現れる衝動的な行動や謎の発声には、知性や謙虚さや社会通念も通用しない。

防げるすべての手立てを講じても、それはふいに襲いかかってくる。

 

その予測不能っぷりは、

むしろ律儀に知的にまじめに、「こういう時はこうするもの」という

社会通念が当たり前のように体に染み込んでいる

つむぎさんにはなかなか厳しいものがあったと思う。

 

キャリアウーマンが突然現代社会から引き離され、山中に放り出され、

野生動物とともに原始の生活をしなければならなくなったようなものかもしれない。

 

「自分の子なのに理解できない。かわいいと思えない」

つむぎさんは膨らんでいくイヤな感情に、押しつぶされそうになり、

障害のある息子をかわいいという、

ほかのママさんの言葉にショックを受ける。

 

我が子をかわいいと思えないこと。

ほかの子との違いを受け入れられないこと。

将来アサミちゃんがどうなっていくのかわからないこと…

 

受け入れきれない自分が悪いのだろうか?

 

だけど、何よりアサミちゃんと意思の疎通が図れないことが辛いのだ。

 

「おかあさん」と言いながら駆け寄ってくれる、

定型発達の子のお母さんがうらやましくて仕方がない。

 

おしゃべりがしたい。ままごとがしたい。

「お菓子は一個までだよ」と言いながらスーパーでお買い物をしたい。

そんなささやかな願いがかなわないことがつむぎさんにとってつらい。

 

 

 

それでも、

障害があってもなくても、

この世界でたった一人しかいない、我が娘、アサミちゃん。

 

ある日ふと、

『もし自閉症がなかったら、アサミは年相応に会話してもっといろんな遊びや食べ物を楽しんでいただろう。でも、温和な性格は同じだとしても、それはもうアサミではない別の女の子だと思う。私はアサミにそうなってほしいんだろうか? 私の内なる声は、NOと即座に答えた。その時私は初めて、アサミに健常に生まれてほしかったとは思っていない自分の心に気づいた。

 アサミは自閉症であることもひっくるめてアサミだから、私には、今のアサミが大切なのだ』

と気が付く。

 

今いるアサミちゃん意外にアサミちゃんはいない。

アサミちゃんが持って生まれたすべてをひっくるめて、

アサミちゃんじゃなきゃダメなんだと、つむぎさんは自分の本心に気づく。

 

紆余曲折を経て、つむぎさんは今

『発達障害はきみを彩る大切なもの』だと言う。

 

発達障害はアサミちゃんという女の子を飾り付け、

鮮やかに輝かせるものだったと、今、つむぎさんには思えるのだ。

 

 

アサミちゃんとの日々の中、つむぎさんも成長した。

ささやかな毎日の中、小さな喜びに気づけるようになった。

何気ない愛おしさに胸が震えるようになった。

 

それは全部、『なんでも当たり前にすることができないアサミちゃん』が

一生懸命に体当たりで努力する姿を見て気づいたことだ。

困難も多い中、ささやかな「これができるようになった!」は

つむぎさんに大きな喜びをもたらした。

 

アサミちゃんがシャボン玉を吹けるようになっただけで、

つむぎさんの心は愛でいっぱいになる。

 

もしアサミちゃんが生まれていなければ、

つむぎさんは、ささやかな日常の中の喜びに気づけない人だったかもしれない。

 

なんだかんだでアサミちゃんは、つむぎさんの人生までも彩っているのだ。

 


 

この本では大まかに前半が『小児摂食障害』の発生と経過、食事療法と、

後半では『自閉症スペクトラム障害』と『軽度知的障害』の

療育とABA的対応、そして成長に不可欠な進路での悩みや可能性の探求といった運びになる。

 

つむぎさんは静かに淡々と文章を進めていくので感情的すぎず読みやすい。

また先ほども書いたように、アサミちゃんの様子をとてもよく観察しているので、

自閉症的反応や行動が細かく描かれていて、自閉症を理解しやすくなるだろう。

 

加えて、自閉症児では実はありがちな摂食の問題(食覚過敏による)が、

『小児摂食障害』という形で現れ入院までしなければならなくなる描写は

なかなか衝撃的だ。

 

子どもはお腹がすけば自分から食べて当たり前。

ご飯を欲しがって当たり前。

その常識に真っ向からNOを突き付けてくるのが自閉症だ。

 

もちろん私も子供の時に

それぞれ違う触感の食べ物を同時に口に入れられることが辛かったり、

どのタイミングでもみ込めばいいかずっとわからず、延々噛んでいたりと、

普通に食事をすることが難しかった部分があった。

お腹がすいたという感覚も分からないから、自分から食べたいと思うこともなく、

それを理由に食事を無理強いされたことで、結果的に10代では

「食事に毒が入っている。これを食べたら死んでしまう」なんていう

謎の妄想に取りつかれたりもしている。

 

つむぎさんのえらいところはアサミちゃんの状態をよく観察して、

アサミちゃんが少しでも食べやすくなるよう、食べれなくなった時には、

少しでも食べれるものをアサミちゃんに合わせて探してあげるところだ。

食べれなくなった時に無理強いして食べさせたら、

真正の拒食症になってしまっていたんじゃないだろうか。

 

アサミちゃんの発達を、やきもきしながらもしっかりと見つめ、

つむぎさんが寄り添い続けたからこそ成長があったのだと思う。

 

つむぎさんは栄養療法や遅延型アレルギーなどの検査・対応についても書いている。

いまだに知られていない部分ではあるが、

近年では自閉症児の脳の状態と腸のバリア機能の関係、

そして、遅延型アレルギーや栄養不良の関係はだんだん知られ始めているので

興味がある人はぜひ読んでみてほしい。

 

ABAセラピー的対応も端々に見られるので、

特に幼児の自閉症スペクトラム児の育児をされている方には

ヒントになることも多いと思う。

 

 

現在、アサミちゃんは小学1年生だという。

 

これからさらに9歳の壁を迎える時、初潮を迎える時、

中学校に入るとき、思春期を迎える時、友達と喧嘩した時、

そして高校を卒業した時、就職したとき、

つむぎさんとアサミちゃんは、さまざまな困難にぶち当たるだろう。

 

だけど真摯な目で愛しい我が子を見つめるつむぎさんは、

苦悩や困難に絶望する日があっても、必ず乗り越えていくのだろうと思う。

 

そしてそんなつむぎさんに手を引かれて、

アサミちゃんも色んなことを乗り越えていけると、私は信じている。

 


 

 

 

 

 

著者、山本つむぎさんのブログはこちら。

 

 

 

 

本はこちら。

 

気になった方は是非。

 

 

改めてつむぎさん、ご出版おめでとうございます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Lievere doreリエドレウサギ     天咲心良蓮

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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講談社より2017年に出版させていただいた『COCORA~自閉症を生きた少女~』

現在1巻、2巻共に好評発売中です。

 

 

私も私で、頑張ります~。

 

 

 

 

 


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