悟空が行ってしまうと、三蔵達は
「お師匠様。悟空の兄貴は本当に俺達を助けてくれると思います?」
「沙悟浄よ、悟空を信じなさい。」
「あてになるもんか。どうせ兄貴は逃げちまうよ。」
「八戒、そんなことは私が許しません。もし3日以内に戻らなかったら、緊箍呪 (きんこじゅ)」を読み上げるだけです。」
と、話していた。
悟空の耳にはしっかりと届いているとも、気がつかず…。
さて。悟空が向かったのは蓬莱國仙境。
王母娘娘も遊びに来るほどの美しさを誇る場所である。
蓬莱國仙境に住むのは、三人の老星、福星、寿星、禄星。(福寿録)
悟空が尋ねた時、三人は碁をうっている最中であった。
彼らは悟空を見ると、礼を返しつつ聞いた。
「仏門に入られた斉天大聖が、今日は又なぜここへ?」
悟空が一部始終を話すと、三老人は呆れ返って、
「鎮元仙人…大仙は、地仙の祖です。人参果を持つ唯一の仙人で、我々では及びもつきません。
我々の持っている黍(キビ)の丹は、普通の動物なら生き返らせることができますが、人参果はとてもムリです。
余所をあたってください」
困り果てている悟空の様子を見かねて、福星が訳を尋ねた。
悟空は、三日しか時間を貰えず、期限内にできなかったら、緊箍呪を読まれる運命にあることを話した。
すると三星は笑って、
「緊箍呪が無かったら、大聖は今頃雲隠れしているでしょうね。
三星が五荘観に赴くと、八戒はおめでたい三星だと、三人合わせて「福禄寿」だと、ふざけている八戒を退ける三蔵に、三星は笑って言った。
「大聖は非常に困っておられました。真面目にあなたとの約束を守るために奔走しておいでです。
三蔵は勿論恐縮の限りで、「唱えませんとも」と応えるのだった。
さて次に悟空は、方丈仙山に赴いた。
ここも素晴らしい景観を誇るが、悟空には見ている余裕はない。
山道を行くと、向こうから、良い薫りとともに、ひとりの青年が姿を現した。武帝の覚えもめでたかった東華帝君だった。
彼は悟空に気づくと、大いに歓迎した。
そこへ、もうひとり少年がやって来た。悟空は少年に向かって
「東方朔よ、帝君のところには、おまえがコソ泥働く桃はないんじゃないのか?」(東方朔は武帝時代の人間。仙桃を盗んだ伝説がある)
と笑うと、東方朔は
「おまえの盗むような仙丹もないがな」
とムッとしてみせた。
帝君はそんな東方朔にお茶を出させ、一方悟空は一部始終を話た。しかし帝君も、三星同様呆れ返るばかりで、
「大聖も、もし天宮荒らしなんぞしていなかったら、わしら同様のんびりした日々が送れていたものをね」
ここからは、観音菩薩のいる南海の普陀落伽山は、もう、すぐそこ。
悟空が落伽山の側を通りかかると、守山大神が出迎えにきていた。
「菩薩さまが用だと?! なんだよ、急いでるんだよ、俺は!」
イライラしている悟空を守山大神が菩薩の御前へ連れていくと、菩薩は
「事情は全て知っている。このわたしとて、あの鎮元仙人には遠慮をしているくらいなのだよ。おまえはほんとうに見境なしの奴だね」
と叱りつけた。
観音菩薩が、かつて枯れ木を菩薩の甘露水につけておいたら、一晩で元に戻った、と話すと、悟空は早くくれと急かし、奪おうとした。
「慌てるでない。どれ、私もいって手伝ってあげよう」
と、腰をあげると、悟空は飛び上がって喜び、早速同行し、五荘観観へもどった。
菩薩の五荘観訪問に、鎮元仙人、三星、三蔵は慌てて出迎えた。
菩薩は悟空を呼ぶと、その手に起死回生の呪文を書いて、人参果の木の根本に押し当てるよう言った。
すると水がこんこんとわき出てきた。
八戒と悟浄に木を支え起こさせ、一方菩薩はその水を楊柳につけて、木の上から振りかける。
すると見る見るうちに木はしゃんとして、青々と生い茂り始めた。
見れば人参果もちゃんとなっており、しかも数は何故か一個増えて、二十三個になっていた。
「だから、一つは土に潜ったって言ったんだよ」
と、悟空は胸を張って自慢した。
鎮元仙人は、樹が元に戻ったことに大喜び。
悟空とも、義兄弟となった。
早速、人参果パーティと相成り、菩薩、鎮元仙人、三星、三蔵、みんなでひとつずつ食べたのだった。
ーーー・ーーー・ーーー
と、言うことで。
三蔵法師も、ようやく人参果を口にすることになります。
それにしても、悟空の顔の広さはすごいですね。
…というか、悪名高かったわけですけどね。
八戒が人参果を味わいもせず飲み込んでしまったことから出た、
「八戒は人参果の価値を知らない」という諺。
こんなお話からできた諺でした。
続く。