うさぎの本棚 -13ページ目

『流星ワゴン』 重松 清

流星ワゴン

『ビタミンF』同様、30代後半の父親を中心にした
家族のお話。

主人公の永田一雄は「死んじゃってもいいかなあ」と思っていた。
妻からは離婚を迫られ、息子の広樹は家庭内暴力をふるう。
永田自身も会社からリストラされ、
小遣い欲しさに余命いくばくもない故郷の父を見舞っていた。

そんな一雄の前に一台のワゴン車が止まった。
ワゴンに乗っていたのは幽霊の橋本親子だった。
彼らは一雄の人生の分岐点となったであろう
過去の「たいせつな場所」へと連れて行ってくれるという。
一雄自身、なぜその場所達が分岐点となったのか
気付いてさえいなかった。
そしてその「たいせつな場所」で、自分と同じ年齢の父と出会う。
一雄は父との折り合いが悪く、家を飛び出していた。

ワゴン車で「たいせつな場所」を旅するうちに
妻の思い、子供の思い、そして父の思いに気付いていくのだった。

この作品は良かったとすすめられ、
図書館の返却棚で偶然見つけたので借りてきたもの。

偶然にも幽霊物(『エンジェル』石田衣良)を2作続けて読むことに…。

おすすめの言葉を裏切ることなく、とても良い作品だった。
最後の方では涙しそうになってしまった。

私は独身なので、配偶者との関わり、子供との関わりに関しては
実感がわかないところもあったし、幸いにも死にたいと思ったこともない。
ただ、何十年も生きていると、後悔することはたくさんある。
あの時に戻れたら…とか、あそこでああしてたら…とか…。

結局はやり直せないのだから、そんなこと考えるよりは
今を大切に、未来に向かってどうしていくか…が
大事だってことなんだろうな。

『エンジェル』 石田 衣良

エンジェル

タイトルのエンジェルはベンチャー企業の創業を支援する投資家のこと。
そして…神の使いの天使のこと。

主人公の掛井純一は投資会社のオーナー。
まず、冒頭でいきなり彼は幽霊として登場する。
幽霊はにはそれぞれに得意技があるらしい。
光をコントロールしたり、雨や水に作用したり、動物や虫と対話できたり。
しかし、物体に作用することができない。
つまり本のページをめくったり、物を持ち上げたり…ということは
できないのだ。
純一の場合は電気の流れを変えることができる。
ちょっと笑ってしまったのが、その適正の力を伸ばすために
日々練習を重ねるというところ。
幽霊になってもある力を伸ばそうとすると
鍛錬が必要なんだな。
ややもすればSFっぽくなりがちな幽霊話を
こういった細かい設定で現実っぽくみせている。
幽霊には足がない理由にも納得してしまった。


彼は死の直前の2年分の記憶を失っていたので
自分がなぜ、誰に殺されたのかが全くわからない。
電気を操る力を使って自宅のパソコンを立ち上げ、
最近2年のプロジェクトを調べる。
張り込みを続けながら事件の解明を計る。
そうしていくうちにある女性に出会う。
幽霊なのでもちろん向こうは気付いていない。
そして彼女に恋をするのだった。

私がもしこうして幽霊として自分を殺した人を発見したら
何が何でも復讐したいと思うだろうな。
この作品の中には真の悪人が出てこないのだ。
どんな人にも色々な事情があったり、人情があったり…。
だから結局主人公は誰も恨んでいない。
その辺りがこの作品のあったかさかな。

それにしても親友の「トオル」は幽霊からメールをもらったのに
よく事務所で寝てられるなぁ。
主人公の親友なんだからそのあたりもうちょっと絡みがほしかったような…。

『雨はコーラがのめない』 江國 香織

雨はコーラがのめない


タイトルは雨を擬人化して綴っているのかと思ったら、
「雨」は、オスのアメリカン・コッカスパニエルの名前だった。
そう、犬の名前だったのだ。

この本は彼女の愛犬「雨」と「音楽」にまつわるエッセイ。

音楽を聴くことは彼女と雨の共通の趣味(?)らしい。
彼女と雨の間には、いつも素敵な音楽が流れている。
紹介されている曲は私が好きな曲もあるし、
聴いたことのない曲もある。
そんな色々な曲をシチュエーションとともに
そして雨とともに紹介している。

例えば…雨(降る雨の方)続きで憂鬱な時は
スティング。
しっとりとしているけど
遠くに日がのぼる感じの希望がみえるからだそうだ。
他にもブロンディを聴くと反射的にお酒が飲みたくなったり、
世良公則の声にしびれてみたり…。
そして、側にはいつも「雨」がいる。

彼女の愛犬との生活は本当に楽しそうだし、
紹介されている曲も彼女の言葉にかかると
全てとても素敵な曲に思える。

犬好き、いえいえ動物好きにはたまらない本だろう。
うちのうさぎともこうやって過ごせたら素敵だろうな…。

『まひるの月を追いかけて』 恩田 陸

まひるの月を追いかけて

静は異母兄の研吾の恋人優佳利と奈良に旅立った。
フリーライターの研吾は奈良の取材中に姿を消したのだという。
研吾が歩いただろうコースを辿って彼を探す2人。

ストーリーはさておき、旅行ガイドブックとしても
十分なくらいに、奈良のお寺や古墳などの説明が詳しくされている。
この本を片手に奈良に旅行に出かけたくなった。
奈良という土地、そしてその遺跡巡りという旅が
夢と現実の境目をぼやかしていて効果的だった。

途中出てくる『月のうさぎ』というお話は
阿刀田高の『エロスに古文はよく似合う』でも紹介されていた
今昔物語集のなかの一話だ。
うさぎ好きとしてはこのお話はうさぎがかわいそう…。

『ZOO』 乙一

ZOO

表題作を含む短編10作品が収録されている。

この装丁は目立つので以前から書店で見かけて
気になっていた本。
おはずかしながら初乙一作品。

乙一に対して全く予備知識無しだったので
ミステリーなのかSFなのか…とジャンルの見当さえつかず
ひとまず読み始めた。

『カザリとヨーコ』

母子家庭の双子の姉妹、カザリとヨーコとその母親の話。
母は妹のカザリを溺愛していたが、
ヨーコには食事も与えない。
ヨーコはいずれ母親に殺されるだろうと感じている。
そこへ事件が起きるのだった。

一卵性の双子なのにどうしてこんなにも
扱いが違うのか、母親はなぜヨーコにこんな
ひどい仕打ちをするのかは全く書かれていない。
読んでいる途中でヨーコが可愛そうで
お母さんに叱られませんように…と
ハラハラしながら読んでいた。
それが…こんなブラックな結末になろうとは…。
それでもまだこのお話はヨーコに同情の余地があったので
救われたのだけれど…。


『血液を探せ!』

「ワシ」はある朝目覚めると全身が血まみれになっていた。
わき腹に包丁がささっていてこのままでは死んでしまう…。
と、一見かなりシリアスな場面なのだが、
これがコミカルに描かれているのだ。
夫が大変な時に妻は夫がようやく死ぬかと思うとうれしくって…と
笑いをこらえているのだ。
主治医のオモジ医師もかなりボケボケ。
なんともブラックなのだ。


『陽だまりの詩』

病原菌に犯されて死期のせまっている「彼」を
埋葬するために作られたロボットの「私」。
彼女は死というものを理解していなかった。
彼と生活をしていくうちに様々な感情を覚えていくのだった。
前2作と比べて、せつないお話。
2作がショックが大きすぎて、
このお話がものすごく当たり前に感じてしまった。
一応結末にはちょっとした秘密が隠されていたので
それなりには面白かった。


『SO-far そ・ふぁー』

幼稚園に通う「僕」は父と母の3人暮らし。
居間にあるソファーに3人で座って
テレビをみたり、本を読んだりと幸せな家族だった。
ところがある日突然、父は母が死んだといい、
母は父が死んだと言う。
僕には2人とも見えているのに…。
このラストも意外だった。
そんな仕打ちをするなんてひどい…。


『冷たい森の白い家』

伯母の家の馬小屋でひどい仕打ちをうけながら育った子供。
その馬小屋からも追い出されて森に入って生活をするようになる。
自分で小屋を造ろうと、材料に選んだのが…死体だった。

これは…情景を思い描くのが恐ろしくなるようなお話だった。
ラストもなんだか悲しいし…。


『Closet』

義理の弟リュウジはミキの隠していた過去を知っていた。
その話をした3分後…ミキの前にはリュウジの死体が…。
ミキはリュウジの死体を隠したのだが…
翌日郵便受けに、リュウジが部屋で殺されたという手紙が入っていた。

これは結構正統派。
ラストでちょっと頭の中を整理しなければいけなかったが
なるほど~という結末だった。


『神の言葉』

「僕」の声には生物を意のままに操ることができる力があった。
彼の声はほとんど万能だったが、一度「言葉」を行使したら、
2度と元にはもどらない。
ある日から机の上に覚えのない彫刻刀で削った傷が増えていくのだった。

これは…結末がよく理解できなかった。
ちょっとこの辺りになると飽きてきた感があった。


『ZOO』

100日以上毎朝郵便受けにかつての恋人の死体が
腐乱していく写真が入れられている。
かつて彼女とみた「ZOO」という映画。
そしてその帰りに偶然見つけた動物園。
そんな思い出はもうずいぶん遠い昔のことのようだった。
警察が捜索を打ち切ったとき、犯人を探そうと誓うのだったが…。

この作者、ループものが多い。
これもループしている。
このお話は最後にループが終わるのだが…。


『SEVEN ROOMS』

気が付くとコンクリートの部屋に閉じこめられていた
「ぼくと」姉。
部屋の中央部分にある幅50センチほどの溝に入ってみると
他にも同じ様な部屋が6つあり、それぞれに女性が閉じこめられていた。
そしてこの7つの部屋にある法則を見つけるのだった。

誰が何の為に閉じこめたのかは一切かかれていない。
姉弟愛も乙一が描くとこうなるのか…という作品。
悲しすぎる結末。


『落ちる飛行機の中で』

昔ひどい目にあわされた男性に復讐をするために
飛行機に飛び乗った「私」。
その飛行機がハイジャックされた。
犯人は世間への復讐のため、乗客を道連れに
T大校舎へ飛行機を墜落させるつもりだった。
「私」は臨席のセールスマンから安楽死をするための
注射を売り込まれる。

これもブラックだった。
結局「私」はどうなったのだろう。


どの作品も「死」が扱われているのだが、
『陽だまりの詩』以外はなんともさらりと
残虐な死が描かれている。
かなり好き嫌いの別れそうな作品ではないだろうか。
常識で考えて読んでいると
奇想天外というか不条理な結末だ。

なんとも不思議な世界。

『みどりの月』 角田 光代

みどりの月

表題作の「みどりの月」と「かかとのしたの空」の2編がおさめられている。

「みどりの月」
恋人のキタザワのマンションで同居することになった南。
しかし、そのマンションにはキタザワの遠い身内のマリコと
その恋人サトシも同居していた。
角田光代の作品ってルームシェアを扱ったものが多い。
しかもちょっと奇妙な同居。

今回のこの4人の同居も奇妙だった。
南を除く3人は実に自由気ままに暮らしている。
部屋のなかはゴミだらけ。
ごみは捨てたい人が捨てる。
ご飯もそのほかのことも全部やりたい人がやる。
こんな生活をしていくうちにキタザワの秘密が…。

「かかとのしたの空」
倦怠期の夫婦、私とキヨハルが、
家財道具一式を売り払い、
東南アジアの旅にでかける。
旅先で出会ったアジアの女につきまとわれることに…。

「みどりの月」の方はいい加減な同居人たちにひたすら腹が立った。
仕事は簡単に止めてしまうし、自堕落と言いましょうか、
よく言えば自由なんだろうけど…。
ま、でも読んでいてここまでイライラするというのは
作者の意図にはめられているのか…。

「かかとのしたの空」は正直さっぱりわかりませんでした。
なかなか読み進まなくて…最後の方は苦痛でした。

角田光代の作品っていいなぁと思えるものと
理解不能なものに別れる。
最初に読んだ「まどろむ夜のUFO」とこの作品は後者。
それでもまた彼女の作品を手にとってしまうのは
良いと思える作品の空気感がかなり好きだからだ。

『コンセント』 田口 ランディ

コンセント

この作品映画化されていたらしい。
きっと今さらという作品なんだろうが、
何しろここ何年もビジネス書と実用書しか
読んでいなかったので、
こういう分野は浦島太郎状態なのだ。

あとがきを読むと、どうやら実話に基づかれて
書かれた作品のようだ。
真夏のアパートの一室で衰弱死した兄。
その兄の部屋あったコンセントにつながれたままの
掃除機。
主人公のユキはこのコンセントが
兄のユキに残そうとしたメッセージを
解くカギだと直感する。

「死」、「心理学」、「シャーマニズム」…と
扱っているテーマは決して嫌いな分野ではないのだけど、
結末の「コンセント」の意味づけの部分が
共感できなかった。
安直というか…これ、女性が書いたから許されるの?
精神的な不思議な世界を描いているようで
世俗的な結末といいましょうか…。
これが作者のいうところの現代の巫女ですか…。

『白夜行』 東野 圭吾

白夜行

1973年。建設途中のまま放置されたビルで刺殺死体が発見された。
被害者は質屋を経営する桐原洋介。

この事件当時小学生だった被害者の息子・桐原亮司と
容疑者の娘・西本雪穂。
熊本水俣病の判決が言い渡され、オイルショックで
トイレットペーパーの買い占め…と
昭和40年代の話かと思いきや…。

第2章では、新たな人物、秋吉雄一が登場する。
中学生の彼は清華女子学園中等部の生徒、
唐沢雪穂の写真をとってクラスメイトに売っていた。

桐原洋介の事件はどうなったのだろう?
秋吉は事件とどういう関係があるのだろう?
と読みすすめていくと、
秋吉の同級生菊池文彦の弟が死体の第一発見者だった。
そして菊池と桐原亮司はクラスメイト。
秋吉が写真をとっている唐沢雪穂は
あの西本雪穂だった。

そう、いつの間にか2人は中学生になっていた。

場面がどんどん変わり、2人を取り巻く人物が
次から次へと登場し、
高校時代、大学時代を経て社会人になっていく。

半分くらい読むまでは、
場面はどんどん変わるし、登場人物が多くて
正直ちょっといやになっていた。

2人は一度も会話を交わすことなく、
同じ場面にですら登場していない。

一体誰が犯人なんだ…いや、それ以前に
一体誰が主人公なんだろう…と
かなりもやもやした気分で読みすすめた。

そして、最後の数ページで
全てがあかされていく。

19年という年月を描いた、
長い長い旅だった…。

結局2人が何を考えていたかを語ることはなく、
事件の真相は明示されないままに
余韻を残した終わりだった。

『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』 エリヤフ ゴールドラット

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

全米で250万部を超えるベストセラーとなった作品。
日本で出版されると、世界経済が破滅してしまうと
これまで日本での出版が許可されなかった、いわくつきの1冊。

本書はTOC(Theory of Constraints=制約条件の理論)を
ラブストーリーも交えて小説仕立てで解説している。

主人公アレックスはある機会メーカーの工場長。
採算悪化のため、本社から工場を閉鎖を告げられる。
猶予期間は3カ月。
アレックスは恩師である大学教授のジョナのアドバイスに従って
工場の改善に着手する。
アレックスが試行錯誤しながら解決策にたどりつくまでの
思考過程が書かれている。

お恥ずかしながら、TOCという用語は今回初めて知ったものだ。
それが全く難しいと感じることなく、自然と頭に入ってきた。

小説としてはよくあるサクセスストーリーという感じだが、
主人公アレックスが問題を解決していく
思考過程が実に細かく書かれている。

この本は生産工程での例をあげているが、
この理論は他の場面でも使える。

まず、問題は何かを正確に把握する。
次に目標を設定する。
そして解決策を見つけていく。
見つけたら実行する。

当たり前のことのようだが、
何か問題が起こった時、
目先の解決しかしていないことが
多々あると思う。
目標がはっきりしていないと
解決しているつもりが、実は
全く逆の方向に進んでいるということも
起こりうる。

言葉にしてしまうと
特に目新しいことでもないようだが、
わかっているようでなかなか
実行できていないのが現状。

再認識の意味でも
一読の価値のある一冊だ。

『ビタミンF』 重松 清

ビタミンF

家族をテーマにした7作の短編集。
Family,Father,Friend,Fight,Fragle,Fortune…など
「F」で始まる言葉がキーワードとなっている。

どの作品も30代後半から40歳くらいの
世間でいう中年の父親が主人公。
ドラマの主人公になるようなかっこいい中年じゃない。
出世街道をまっしぐら…というわけでもない
普通のオジサンたちだ。
家族が起こす事件をきっかけに家族を見直し、
自分を見直し…している。

7作のなかでは『セッちゃん』が一番よかった。

一人娘の加奈子は中学2年生。
明るくて積極的で小学生のころからクラスのリーダー格だった。
会社の同僚からもうらやましがられるくらい
加奈子は学校でのできごとをなんでも親に話した。
そんな加奈子から聞かされる「セッちゃん」の話。
セッちゃんは最近転校してきて
クラスのみんなから嫌われ、いじめにあっているのだという。
加奈子に来なくていいと言われた運動会にこっそり出かけていった
両親はセッちゃんの秘密を知るのだった。

必死に明るく振る舞う娘と見守る親の苦悩、愛情が
切なくも暖かく描かれている。

さだまさしの『解夏』の読後感になんとなく
似ている。

派手さはないが、心にじんわりとしみてくる作品。