大手音楽会社からのオファーを断るなんて…なんて、もったいない!!
これがウサギの、いや、コムの家族や友達、まわりの人たちの思いだ。
しかし、ウサギは何かしらコムに期待していた。
中流階級で育ち、中肉中背のさわやか少年、親のレールの上をマイペースに歩き、平均以上の結果を誰よりも早く出す。
行き当たりばったりで生きてきたウサギには無いものばかりだ。
「はい、ウサちゃん。お土産」
コムから小さな箱を受け取る。
「ありがとう…わ、ずっしりくるなぁ」
見た目より重たい箱の中身は老舗菓子屋の“ようかん”だった。
大都会のお土産といえば、バナナ菓子、今ならラスクが流行っている。
たくさんのお土産のなかから、あえて重厚なようかんを選ぶコムを想像すると、にやけてしまう。
「ビッグ就職説明会はどうだった?」
「うーん。大手の会社説明は良かったよー。でも、そういう所は、某一流大の学生しか相手にしてないっていうか…田舎出身は相手にもしてくれない」
と言い、コムはため息をついた。
「そっかー」
「それに…スタートが遅すぎるって実感したよ」
「え?まだ5月だよ?遅いの?」
「早い奴らは3年生のうちから企業説明会に足を運んでる」
と言いながら、コムはポケットから携帯を出した。
携帯を開き、操作をしながら「またか…」とつぶやくコム。
「いたずらメール?」
興味本位で聞いてみた。
「いや、さっき説明会でエントリーした回転寿司グループから」
「さっき!?」
ビッグ就職説明会は、飛行機を乗っていく大都会にある。
まさかの答えが返ってきた。
「ウサちゃんに言ってなかった?おととい大都会に行って、昨日、今日と説明会だったんだよ。夕方の便で帰ってきて、ナリちゃんの車で直接バイト来たんだ」
「ええぇぇ!今日も休むんじゃない!?普通はさぁ!」
飛行機で移動する日は、たくさん疲れるに決まっている。
しかし、コムはわかっているのだろう“自分の抜けた穴は大きい”と。