裕福VS貧乏 第一戦
隣のクラスには、菅原君という不幸な境遇の男の子がいるらしい。
お父さんが交通事故で亡くなって、それからほどなくしてお母さんが重病で倒れたんだそうだ。
彼は長男で、下には五つと八つも離れた妹さんがいるそうで。
そんな話を耳にした私は、可愛そうだなーと同情してはいたけど、その時はあくまで他人事でしかなかった。
ところが、そんな噂でしか知らない彼に廊下で呼び止められ、妙な相談を受ける事になったのである。
「君のクラスに黒鳥って大金持ちの娘がいるだろ?」
「いますけど」
「そいつと付き合うためには、どうすれば良い?」
「……はあ?」
突然何を言い出すのか、この人は。
不幸な境遇で、それでいて顔が良いため、陰のある感じが良いと一部の女の子から人気らしいけど、それで調子に乗って麗子ちゃん攻略に乗り出したんだろうか。
「私に聞かれても困るんだけど。好きなら、自分で告白しなよ」
どうも本気とも思えず、私は冷たい答えを返した。
ところが、彼は私の想像している所とは違う部分で本気だったのである。
「いや、好きじゃないけど、付き合いたいんだ」
「……何言ってるの?」
その言葉に、彼に抱いていた同情心も吹き飛んでいた。
「そいつと付き合えば、大金を貢いでもらえるんだろ?」
「あのねえ……!」
最低な奴。お金目的である事を、隠そうともしていない。
ところがそんな彼にも彼なりの事情があったらしく、切羽詰まった様子が表情に表れていた。
「母さんの手術代がどうしても必要なんだ。しかもそれがけっこうな大金で、中学生の俺がどうこうできる額じゃない。親戚は協力してくれないし、方法は何も思いつかなかったから。こうなれば、手段は選んでいられない」
「それは大変かもしれないけど、でも……」
他にもっとマシな方法があるでしょうに。お金のためだけに、麗子ちゃんを口説こうとするだなんて。その発想が、私はあまり面白くない。
「黒鳥のメイドである君なら、何か知ってるんだろ?」
「メイドじゃない!」
結局それが、私をややこしい話に巻き込まさせているのか……。