大学へ通っていたころ、研究演習と呼ばれるゼミを選択する際に、
人気のある先生のゼミでは、履修者を選抜するためのセレクションが行われた。


僕が高校1年生のころ、数学は非常に苦手な科目だった。
先生のせいにしてはいけないと思うが、僕が内容を理解するためには、
適していない教え方をなさる先生にあたったからだと思う。

高校1年生の夏、数学のテストであまりにひどい点をとってしまったので、
近所の予備校の夏期講習へ行かされることとなり、少しでも挽回しようとした。

結果、その予備校の小試験では、連日、全て100点という快挙を達成し、
すっかり、苦手を克服した・・・かに見えた。

夏休みが終わって、学校のテストを受けた時、衝撃が走った。
夏期講習でやった範囲なのに、全く分からない…

僕が通っていたのは、県内でもそれなりの進学校であり、
予備校で教わった基礎の基礎とは、レベルがグンと違うのだった。

そんな、ショックを受けながらも、高校での勉強にある程度慣れ、
3年生になるころに気付いたら、数学は得意科目になっていた。
まったく、数学が分かる、できるという気はしなかったのだけれど。


そして、大学2年の秋、統計学の授業を履修したら、とても面白かったため、
その先生のゼミを第一志望とし、同じく、統計学を専攻される先生のゼミを
第二志望以降にも希望することとした。

下調べも先輩からの情報も全くなしにゼミの志望届を出したら、
どうやら、第一志望の先生は人気が高かったらしく、選抜のため、
先生と直接お会いし、面接をしていただくこととなった。

先生の所へお邪魔したら、
「ああ、君か。いつも前の方で授業を受けているよね。」
と、知って下さっていたようで、図らずもまじめな学生だと認識されたのか。


大学時代の僕は、友達との付き合い及び、サークル選びを間違ってしまったようで、
本当に涙をこらえながら大学へ通うような寂しい日々を送っていた。

「今、僕が死んでも誰も悲しんでくれる人はいないだろう」
本気で、そう思っていたくらい、人との付き合いから断絶されていた。

大学1年のころに、必修科目である講義は全て受講済みだったため、
2年生になると、ある程度自分の好みで講義を選択出来ていた。
また、友達と一緒に受講なんてことも全く考えなくてよかったため、
実に自由な選択を楽しんでいた。

もともと、興味のない授業でもそうだったが、授業に出る時は
できるだけ前の方で話を聞くようにしていた。
疲れて眠ってしまうような授業でも、前の方にいたが。


第一志望とさせていただいた先生は、僕の趣味を問うた。
「読書です。」
「そうか、僕も結構読むんだけど、どういうのを読むの?」
「今は、小説を読んでいます。今、とても感動を求めていて、宮本輝の『優駿』を読んでいます。
解説文に、感動巨編と書いてあったので。」

そんな話をした。
結果として、この先生のゼミを受講させていただくこととなり、
細くも長いお付き合いをさせていただいているのだが、
後にこの面接の話題になった時に、先生はこう言ってくださった。

「きっと、それを聞いて、面白い子だと思って、選んだんだと思うよ。」

ちなみに、面接の続きの話。

「そうですか。感動しましたか?」
「いえ、全然…。」


時は経ち、僕も年齢を重ねて、ドラマなどを見たり、感謝の念で涙を流すことも増えた。
時には、泣くぞと決めて、半分嘘泣きかもしれなかったやさしい涙を後輩に披露することもあった。

のび太の結婚前夜。
僕は幼いころからドラえもんが大好きだ。
大人になっても長年、毎週欠かさずテレビ放送を見るほど大好きだ。
最近は、そういった執着を手放すことにしたので全く見ていないが、
それでも嫌いになったわけではない。

ドラえもんはきっと未来の世界に帰ってしまったあと、
大人になったのび太は、幼いころから大好きだったしずかちゃんと
ついに明日、結婚をする。

ひとりで、少しずつ自分のことができるようになって、
ついには、守るべき人と一緒になってく。

それを、川原で空を見上げながら一言、ドラえもんに報告する。


昨夜、僕はこの映画を久しぶりに見直して号泣した。
久しぶりに泣いた。目が腫れるほど泣いた。とても気持ち良く泣いた。
鼻水もびっくりするほど出て、その後、鼻がすっきり通ったくらい泣いた。

最近、最近じゃないけれど、どうも結婚という言葉に弱いらしい。
自分がいつまでたっても結婚しないので、結婚への決意をした人には
強い憧れを抱くらしい。

昨年、親友が長年付き合った彼女との結婚式に招待してくれた時、
参列者は誰も泣いていないなが、必死で涙を抑えたのを思い出した。

僕も近い内に素敵な人と結婚するんだ。

そう思いながら、きっと今なら、小説を読んでも感動できると思い、
大好きな姫野カオルコさんの「リアル・シンデレラ」を読み始めました。