1から10シリーズ ~アメリカ・ポスドク編~ | アメリカ研究者(慢性痛・リハビリ)のブログ

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US PhD/Scientist. US/JP Physical Therapist. 中枢性疼痛(Nociplastic/centralized pain)を中心とした慢性腰痛、膝痛に関する研究や知見・正しい研究知識や研究方法の提供・アメリカ生活・科学・理学療法・疫学・アメリカ留学(Master, PhD, Postdoc)

今回の1から10シリーズではアメリカにおけるポスドクの意義、重要性、そして具体的な探し方について紹介していく。筆者は臨床研究者で、実際に経験したことをなるべく具体的に書いていきたい。また、基礎研究者におけるポスドクの経験と多少異なる点があるかもしれないが、大まかな所では共通していることが多いので基礎研究者の人にもある程度意味のある情報が提供できると思う。

 

ポスドクの意義と重要性

しっかりとした”研究者”の道を進みたい場合、ポスドクの経験は必要不可欠である。研究分野によるが、PhDでの経験だけでは確実にいろいろと足りない。ポスドクの経験を通じて

  • しっかりとした研究知識・技術
  • ネットワーク(学内外、国内外)
  • 自分の研究の具体的な方向性と課題

が具体的に見えてくるし、これらのことを学ぶためにフルタイムで時間を過ごせるので、飛躍的に自分を高めることができる。PhD取得して、ポスドクを経験せずに、Facultyになった人と比べて雲泥の差ができる。

 

ポスドク年数と年収

分野によっても異なるが最低でも3年は過ごさないと有意義な経験はできない。1,2年では中途半端。平均してアメリカのポスドクの現在の収入は$50,000ぐらいである。物価が高くない地域ではやっていける年収。また、PhDと違って、ポスドクはしっかりとした保険に加入できるので医療面でとても助かる。しかし筆者が住んでいたボストンのような物価の高い場所ではかなり苦しい生活をすることになる。ちなみに筆者は家族4人で1ベッドルームの狭いアパートに月$1,750払いながら住んでいた。

 

ポスドクアプライ先の選定方法

自分のしたい研究が具体的であればある方がいい。PhD獲得するまでに自分が進みたい研究分野を絞り込む。そうすれば自ずとアプライ先が決まる。PhDの研究テーマが自分のやりたいこととマッチしていれば、その分野に関連する分野の論文をたくさん読んでいるはずなのでどこの研究機関あるいはどの研究者(PI)がその分野で抜きんでているのかわかる。このおかげで、筆者の場合は6人の研究者を容易に選定することができた。また、大切なことはそのPIが「現在」どれだけの研究資金(グラント)を持っているかが大切になる。グラントがなければ当然ポスドクを雇うことができないからだ。ちなみにポスドクを雇う為の年間費用は$75,000ぐらいする(給料のほかに保険料等をカバーしなければいけない)。筆者の場合、幸いなことに6人のPI全てが潤沢な資金を持っていた。

 

それでは以下に実際の時系列を紹介する。ちなみに筆者は2019年の7月にPhD取得ができると見込めていたので、2019年の秋からのポジション先を探した。

 

 

時系列

2018年12月

University of FloridaとDuke UniversityのPIにメールでコンタクトをとる。Duke Universityからは2019年には空きがないと3日ぐらいで連絡がきた。一方University of Floridaからは翌日に連絡が来てインタビューしたいと言われる。

 

2019年1月

University of Floridaと電話でインタビュー。好感触でほぼ決まった感じ。しかし後日、私がグリーンカードを持っていないことを確認して白紙状態になる。ポスドクを雇うためのグラントとしてT32という研究資金がある。このT32を使ってポスドクを雇うところが多いのだが、グリーンカード保持者あるいはアメリカ人でないとこのグラントを使うことができない。筆者はここで、グリーンカードがないために不本意な経験をまた一つした。

 

2019年2月

以下の4つの大学のPIにコンタクトをとった。

Harvard Medical School: 翌日に返信が来る。好感触で具体的なポスドク開始日時等を話し合うも、T32のグラントを使えないことで話が流れる(グリーカードがないことの不利さに憤りを感じた)。

University of Iowa: 数日後に連絡がくるもハーバードと全く同じ状況で流れる(どうしようもない所に対する憤りMAX)。

University of Utah: 返信なし、梨のつぶて。

Boston University School of Medicine: 2週間ほどして連絡が来る。予めグリーンカードを持っていないと伝える。それでもインタビューしたいと言ってくれる

 

2019年3月

Boston University School of MedicineのPI(MD)とその同僚のPTとそれぞれビデオ面接をする。予めCVを送っていたので、質問された内容としては、どのような研究メソッドを使って中枢性疼痛の程度を評価するのか、ライティングスキルはどうか、今後の中枢性疼痛の研究の方向性について、を主に聞かれた。また先方は3人の推薦人(PhDアドバイザー、共著者である2人の研究者)とコンタクトを取り、研究技術・知識、人間性、仕事への姿勢について質問した。

 

2019年4月、5月

4月にBoston University School of Medicineからオファーが来て、5月にサインをした。

 

2019年6月

University of Floridaから再度連絡があり、新たな研究資金が獲得できたのでうちに来ないかいと電話連絡が来る。また、University of Iowaからも同様にインタビューがしたいと連絡がくる。両校ともT32を使わずに私を雇う方法を探してくれていたとのこと(それ、初めから言ってくれとったらいいやん!)。グリーンカードの壁に泣いていたのでこの連絡は本当に嬉しかったが、タイミングが合わずにこの2つを断ることにした。

 

結果的に第一希望に決定することができた

慢性痛という研究分野であるので、PTのみではなく医師や他職種の人たちとの連携が必要だと思っていたのでBoston University School of Medicineでのポジション獲得は理想的なものとなった。他のアプライ先はPT学部であったのに対して、ここは医学部だったからだ。この原稿を書いている現時点ではすでにそのポスドクも終えているが、結果的に医師、PT、統計学者等の学際的なチームでの研究トレーニングは実に有意義なものとなった。

 

PhDアドバイザーから紹介されてポジションを獲得するケース

日本でPhDをとった場合、そのPhDのアドバイザーのコネで何らかの形でアメリカの研究室のPIと通じてポジションを獲得するケースが多々あるように見受けられる。筆者が出会った日本人ポスドクの多くはこれにあたる。日本からの場合はこのルートの方が現実的であるかもしれない。アメリカでもこのパターンはあるが、日本ほど多くないと思われる。自分のPhDのアドバイザーが資金を持っている場合、そのままポスドクとして残る場合はアメリカでも多々あるが、筆者の場合は外に出たかったのでこの選択肢はなかった。

 

最後に

冒頭でも述べたが、きちんとした研究者になるためにはポスドクでの訓練が必要不可欠である。ポスドク期間での経験やコネクションがその後の研究者としてのキャリアへ大きく影響してくる。自分にマッチしたPIを探し、有意義なポスドクの経験ができるように、この記事が少しでも役に立てれば幸いである。

 

※アメリカMaster、PhD留学の情報が欲しい方はこちらのブログも参照 → 日本人PTのアメリカ留学記

※中枢性疼痛研究の情報がよりほしい方は以下を参照

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