個々のオーディオ・システムが”きれいな”音を出せているか。これを手っ取り早く判別する方法について、諸兄はどのようなご意見をお持ちでしょうか。簡単に判別できるのは、オーケストラの場合なら全奏者による強奏、すなわちトゥッティの部分の鳴り方だろうと思います。ここの音が、いかにスカーっと気持ちよく聴こえるか。うまくいっていないと、楽器の強奏がノイズごと拡大され、まさに複合汚染状況となり、思わず耳をふさぎたくなります。

 これは、大人数による「合唱曲」も同様です。声が団子になって濁ることなく、どれだけ透明に美しく聴こえるかどうか。ただし、合唱曲の多くは、いかに高性能なオーディオ機器であっても、ホールで聴く生音の再現はなかなか難しいとされます。確かに、百人、二百人の声がワーッと来るあの迫力には到底かなわないと感じます。そこだけは無理としても、きれいに澄んだ音が再生できるかどうかの判断に、合唱曲は格好の材料であると思います。

 そこで、マーラー《交響曲第8番》の登場です。大編成のオーケストラと8人の独唱者、そして複数の合唱団による大規模な演奏から、『千人の交響曲』とも呼ばれる異色の作品です。まさに強奏と大合唱がてんこ盛り。マーラー自身は、「これまでの私の作品の中で最大のものであり、内容も形式も独特なので、言葉で表現できません。大宇宙が響き始める様子を想像してください。それは、もはや人間の声ではなく、運行する惑星であり、太陽です」と語っています。

 しかし、私は、長らく第8番を好きになれませんでした。なぜなら、私のシステムでは、この曲をなかなかきれいに再生できなかったからです。音が濁ってどうしようもなかった。この残念無念さをどう克服していくかが、私のこれまでのオーディオ生活における最大目標でした。一方では、録音状態の良いディスクに巡り合えなかったこともあります。あまりに規模の大きな演奏ですからね。録音する側にとっても技術的に難儀な曲だったのでしょう。

 そうしてようやく出会えたのが、マリス・ヤンソンス指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団による2013年の録音です。実に洗練された美しい演奏と高品位な録音が相俟って、当時、「初めてこの曲を美しいと思った」という評論家さんもいたほどです。私がそれまで感じていたのと似た思いの人がいたんだなーと感激した次第です。かてて加えて、我がシステムも、このような難曲?の美しさを何とか再現できるまでに成長できたことを嬉しく思います。手前味噌で恐縮ですが、自分の努力をちょっと褒めてあげたく思います。