皆さんこんにちは、荒川です。
今回は長距離走のパフォーマンスを決める要因について解説していきたいと思います。
- 走力を決定する要素
- 人間の4つの代謝系について
- 長距離走における理想的な走り方
走力を決定する要素
まずは走力を決定する要素についての解説となります。
こちらは短距離走と中長距離走で大きく異なります。
短距離走の場合、「最大筋力」と「走技術」でその選手のパフォーマンスが決まります。
スプリンターのほとんどがマッチョ体型なのは、最大筋力が重要な要素だからです。
ただし、物理的に自身の身体を移動させないといけないため、力士や投擲選手のような体型にはできないわけです。
走技術というのは、要するに力をどれだけ上手く地面に伝えて走るスピードに変えられるかという話です。
なので短距離選手の練習メニューは動き作りの比重が大きいわけです。
また、運動が得意な人が大抵足も速いのは、短距離走は走技術の要素が大きいのが理由です。
運動が得意な人は自分の思い通りに身体を動かす能力に長けているため、走技術も高いことが多いわけです。
一方中長距離走の場合は大きく様変わりし、「代謝の速さ」と「筋持久力」でその選手のパフォーマンスが決まります。
中距離の場合は短距離のスピードの比率も大きくなりますが、重要なのは上記の2つです。
余談ですが、早稲田大学競走部で以前「400mの選手に持久力を付ければ最強の長距離選手が誕生するのでは」との発想で400mの選手を駅伝ブロックに転向させた試みがあったそうですが、失敗に終わったという話があります。
他には、400m48秒の短距離選手が「1周55秒で2周すればいいんだから800m1分50秒ぐらい出せるんじゃね?」とやってみたところ、600mあたりで全く身体が動かなくなり800m走り切れずに途中で辞めたという話もあります。
「代謝の速さ」というのは、詳しくはこの後解説しますが、酸素を使ってミトコンドリアからエネルギーを生み出す速さのことを指します。
単純に言うと、5000mを走り切るために必要なエネルギーを15分で生み出せる人は5000mを15分で走れ、20分で生み出せる人は20分で走れるという理屈になります。
「筋持久力」というのは、読んで字のごとく長時間走り続けても耐えられる筋肉の力のことです。
長距離走は何千回~何万回とジャンプを繰り返す動きをするので、着地の衝撃により筋肉や骨や腱にダメージが蓄積していきます(当然ペースが上がる程ダメージも大きくなります)。
フルマラソンなどの距離になると、5000mなどとは異なり代謝の速さは追い付いているのに筋持久力が持たずに失速することがよくあります。
なのでマラソントレーニングとして距離走(そこそこのペースで長い距離を走り続ける練習)は避けて通れないメニューとなるわけです。
一度筋持久力を使い切るとペースダウンしようが止まろうがすぐには戻らない(例えるならタイヤがパンクしたようなものです)ため、フルマラソンの終盤で地獄を見る初心者が続出するのはこれが主な理由になります。
人間の4つの代謝系について
人間の代謝は4つの系統で賄われており、更に酸素を使用する有気的代謝系と、酸素を使用しない無気的代謝系の2種類が存在します。
そして、それらのどれか1つのみではなく、同時に複数の系統を使うことができます。
人間はATP(アデノシン三リン酸)をADP(アデノシン二リン酸)に分解することでエネルギーを生み出していますが、ATPの数が非常に限られていてあっという間に枯渇するため、体内では常にADPをATPに再合成するシステムが働いています。
この再合成を酸素を使用して実施するのが有気的代謝系、酸素を使用せず実施するのが無気的代謝系です。
それぞれの代謝系の概要を以下に示しますが、要約すると人間の代謝系は「エネルギーを生み出すスピードは速いが持続時間が短い」と「持続時間は長いがエネルギーを生み出すスピードは遅い」のどちらかとなります。
ちなみに、有気的代謝系の方が個人差が圧倒的に大きい(=トレーニングによって大きく向上可能)です。例えば、一般人10人と力士1人で綱引きをすれば一般人チームが勝つでしょうが、普段走らない人10人駅伝と速い市民ランナー1人で10km走をやって市民ランナーが勝つことがザラにあるのはこのためです。
クレアチンリン酸系
代謝速度:最速
持続可能時間:8秒程度
その他コメント:筋肉中に貯蔵されたATPを直接分解してエネルギーを生み出します。生物の進化の過程で海から陸に上がった時点で有気的代謝系メインに切り替わったと言われているため、非常用システムのイメージになると思います。中長距離でこの代謝系を使うのは最後の直線ぐらいだと思います。
無気的解糖系
代謝速度:速
持続可能時間:40秒程度
その他コメント:肝臓や筋肉中に貯蔵されたグリコーゲンを酸素を使わずに分解してエネルギーを生み出します。400m走などで主に使われる系統です。中長距離のトラックレースのラストスパートでもここが大きく寄与していると思います。なお、無気的代謝を使用するとその化学反応の副生成物として乳酸が生成され、これが血中のpHを低下させることで筋肉の運動が阻害されます。乳酸の再合成も体内で行われているものの乳酸の生成の方が圧倒的に多いため、速いスピードで走ると脚がパンパンになって動かなくなるわけです。
有気的解糖系
代謝速度:やや遅
持続可能時間:2時間程度
その他コメント:グリコーゲンをエネルギー源として酸素を使ってエネルギーを生み出します。中長距離走で主に使われるのがこれです。ただしフルマラソンを走り切れるほどのグリコーゲンを体内に貯蔵することは不可能なため、下記の有気的脂肪分解系とのハイブリッド運用が必須となります。体内に貯蔵できるグリコーゲンが最大で400g程度と言われているため、計算するとフルマラソンを走り切るために必要なエネルギーの65%程度が賄えることになります。よって、これが30kmの壁の主な原因ではないかと思われます。
有気的脂肪分解系
代謝速度:遅
持続可能時間:数日以上
その他コメント:脂肪をエネルギー源として酸素を使ってエネルギーを生み出します。エネルギー量で言えばフルマラソンを何回も走り切れるほどの蓄えがあり、日常生活のほとんどはこの系統でエネルギーを賄っていますが、エネルギーを生み出すスピードが遅いのが欠点です。フルマラソンではこの系統からエネルギーを生み出す能力をいかに高めるかが鍵となります。逆説的ですが、グリコーゲンの枯渇状態を意図的に生み出して強制的にこの系統からエネルギーを生み出す能力を強化させるのがポイントになります。要するに距離走を日常的に実施すれば良いわけですが、この状態になると脂肪を直接燃焼させてエネルギーを生み出しているのでダイエット効果抜群だと思います。
長距離走における理想的な走り方
冒頭で「短距離走は走技術が重要」という話をしましたが、長距離走ではどうでしょうか。
長距離走の場合、「無駄な力を入れない、無駄な動きをしない」ことが圧倒的に重要です。
この観点から考えると、結局は本人が無意識のうちにしている動きがベストということになります。
なので、個人的には動き作りに力を入れる必要はなく、まずはたくさん走ることが先決であるとの考えです。
人間面白いもので、たくさん走ってキツイと感じると無意識に楽をしようという作用が働き、徐々に自然と走りが洗練されていくものです。
トップ選手でも着地の仕方や腕の振り方や身体の傾きがまちまちなのは、自然とそのように各選手のベストな形に収まった結果だと思っています。
なので結局は無理に着地の仕方を変えたりフォームを改善するよりも(意識している時点で必然的に余計な力が入ってしまう)、地道にシンプルに走り込んでいくのが欲しい結果を得るための近道なのだと考える方が良いでしょう。