幸いなことに、ちよりは仕事の内容について、深く追及することはなく、その後は趣味だとか特技だとか、当たり障りのない話題に終始した。
ちよりの家は比較的厳しいらしく、夜7時の門限に間に合うよう、僕たちはカフェを出た。
考えてみれば4時間以上いたことになる。
しかし、話し好きなちよりとの会話は途切れることはなかった。
僕たちはカフェを出ると駅に向かって歩き出した。
「いいでしょ?」
ちよりはそう言って僕の手を握った。
少し汗ばんでいて、彼女の緊張に初めて気づかされた。
僕はちよりの小さな手を包むように握り、自分の手も汗ばんでいるんだろうなと、ちょっと気になった。
「なんて呼べばいい?沢口さんはよそよそしいから、愛美さん?マナさん?まぁ君?」
どれもイマイチだったが、ちよりは僕の返事を聞かず「マナ君がいいね」
完全に彼女のペースだ。
「ところで、マナ君の仕事は?」
また僕は逡巡する。
ちよりと真剣に付き合う以上、隠し立てはしたくなかったが、果たして本当のことを答えるべきだろうか。
僕は怪しまれない程度の短い時間悩み、嘘はつかないと決めた。
「公務員だよ」
確かに、嘘はつかなかった。
ただ、彼女の反応を怖れて、情報の開示は最小限に留めた。