129.
深紅は、最初何が起こったのかわからなかった。後輩たちに構えの指導をしつつ、格技館の中をゆっくり往復していた。頭の中では、さっき一瞬だったが目があった憂弥のことをぼんやりと考えていた。
相変わらず、窓の外からのぞいている男子生徒たち。深紅はそれを意識しないよう、稽古に集中しようとしていたが憂弥のことを考えてしまう。いけないと思いつつも、後輩たちの指導も上の空になりがちだった。
そんな時、いきなり後ろから突き飛ばされたような衝撃を受け、深紅は格技館の床に叩きつけられた。咄嗟に受身を取ったものの、床に頭をしたたかに打ちつけ、一瞬意識が飛んでしまった。
(何?!何が起こったの?!)
もんの数秒で頭がはっきりした深紅だったが、目の前に飛び込んできた映像は未だに自分の意識が朦朧としているのではないかと疑うほど突飛なものだった。
天井のほぼ半分と奥の壁。今まで当たり前にあったはずのものが全て姿を消している。くすぶったように、抉り取られた断面はゆらゆらと煙を吐き出し、薄ぼんやりと視界を遮っている。周りを見回すと、部員たちがところどころに倒れており、意識を回復したものは口々に疑問の声を発している。
(みんなは無事?)
深紅はすぐに部員の数を数え、近くに倒れている後輩を抱き起こした。
「そいつはダメだ・・・死んでるよ」
背後から不吉な声が聞こえた。