122.


流太がようやく憂弥に話しかけられるようになったのは、実はごく最近のことだった。体育の授業で足をひねり、保健室に寄ったとき、葉山と屈託なくしゃべる憂弥を目にしたからだった。三人で自然に時間を過ごし、実はこれといって以前と変わっていないことに気づいたからだった。とは言え、父親を失い少なからず落ち込んでいることは確かだった。流太は無意識にその話題を避けることで、親友とのコミュニケーションを回復した。ほんの少しの後ろめたさと共に。
「最近とみに暗いね、お前」
「そうか?」
「ああ、なんか思い悩んでる感じだぞ。どした?」
憂弥は無言だった。流太はそれ以上の追求を避け、話題を変えた。
「ところで、深紅ちゃんとはうまくいってんのか?」
「何のことだ?」
言わんとするところはわかったが、憂弥は聞き返す。無表情を装ってはいるが、若干の動揺を自覚していた。
「またまたぁ、とぼけちゃって。付き合ってんだろ?」
「付き合ってねぇよ」
「うそつけ!」
「ついてねぇよ」
顔に出なかっただろうかと、憂弥は少し不安になる。
「お前ねぇ、そんな素っ気無い態度じゃ話が続かないよ」
「でも、うそはついてねぇ。だからこの話はこれ以上続けようがない」
「そんなはずないだろ?いっつも一緒にいるじゃんか」
「あいつは教室。俺、保健室」
何とか話題を変えたいが、流太は食い下がる。実際、憂弥の脳裏にはあの夜のことが思い出され、目線が落ち着かない。
「じゃ、進展ねぇの?ホントに?」
「ねぇよ」
憂弥の同様に流太は気づかなかった。自ら話題を変え、憂弥は少なからずほっとしていた。
「それにしても、お前なんで成績いいの?授業は出ないは出てても寝てるはなのに」
「才能だよ、才能」
憂弥は人差し指でこめかみ辺りを指す。
「お前にそんなのあったか?何の才能だよ?」
「夜更かしだよ」
「あん?」
「夜、勉強してんの」
「へ?お前家で勉強してんの?」
「成績悪いと授業中寝てられないだろ?」
「ものすごい本末転倒だな」
流太はこの変わり者の親友との会話を、心から楽しんでいた。