121.
「おい、憂弥。授業終わったぞ」
ハゲ鉄の授業を、完全に寝て過ごした憂弥を起こしたのは中学からの同級生、佐原流太だった。
「ん・・・なんだ、流太か」
「なんだはないだろ、久しぶりに同じ教室で授業受けてんのに。それにしても、噂どおりだな」
「何が?」
「いや、ホントに寝てるんだな、ずっと」
憂弥は無言だ。流太は憂弥の前の席に後ろ向きで腰掛け「A組の紫堂って奴は、年がら年中寝てるって」
「それは誤解だ。最低でも2限までは起きてるように心がけている」
流太は呆れ顔だ。
「お前、なんかあったか?」
「何だよ?別に何もないぞ」
「ならいいけど・・・」
中学生のとき、憂弥はいつもみんなの中心にいた。そんな憂弥の横にいると、流太は自分もまた無敵な気がして、その場所が心地よかった。憂弥の父親が殉職した後、憂弥を中心に動いていた流れは滞留し、いつしか広範囲に拡散していった。いつも一緒にいたはずの仲間は、それぞれが新しい居場所を見つけ、気がつくと流太だけが取り残されていた。もちろん、流太が孤独だったわけではないが、新しい居場所は憂弥の隣ほど居心地のいいものではなかった。自分が中心にいなければ成り立たない関係。気がつけばそれは負担でしかなく、憂弥に依存していた自分に少なからず驚きを覚えた。
当の憂弥は中心の座を降り、一人でいることが多くなっていった。自分ですら避けられているような気がして、流太は戻りたい気持ちを抑えつつ自ら距離を置いた時期もあった。
そんな流太の考えを変えたのは深紅だった。彼女は以前と変わりなく憂弥に接し、憂弥もまた深紅にだけは以前のままの顔を見せていた。嫉妬にも似たその感情に、流太はまたしても驚きを覚えたが、しばらくは遠くから眺めていることしかできなかった。父親を失った親友にかける言葉が、どうしても思いつかなかった。