120.


その日以来、コールとロックも憂弥の家に居座り始めた。例によって、諒子は喜びこそすれ、反対もしなければ詮索もしなかった。憂弥にとってはありがたくもあったが、そこまで母親がさびしい思いをしていたのかと、改めて知ってしまったことで少々滅入った。異次元のレヴィアたちはそんな紫堂家を不思議に思いつつも、当座の住まいが確保されたことを素直に喜んでいた。リックと同様、他の三人もまた、諒子の中に理想の母親像を見出し、かつて味わったことのない安息の日々に、戸惑いつつも幸福感を抱いていた。
それがただの幻想だと知ったのは、彼らがこの世界に来て10日目のことだった。
その日、後者の復旧もままならないまま、仮校舎で授業が再開され、憂弥は二クラス合同で英語の授業を受けていた。受け持ちはもちろんハゲ鉄こと原田鉄雄である。
「・・・よし、んじゃ次、紫堂読んでみろ」
教室は静まり返っている。
「紫堂!紫堂はどうした?朝霧!」
「何であたしに聞くんですか?」
「保護者だろ?お前は」
「違います!」
まぁいい、とハゲ鉄。
「とにかく紫堂を知らんか?朝霧」
深紅は無言で隣の席を指差す。
「おー、いるじゃないか、珍しい。そうか、保健室も滅茶苦茶になっちまったからなぁ・・・。紫堂も行き場がないわけだ」
ハゲ鉄は一人で納得すると「じゃ、朝霧、続きを読んでくれ」
「ちょっと憂弥は?完全に寝てるんですけど・・・起こさないんですか?」
「起こしたってどこを読むかもわからんだろ?」
「そりゃそうですけど・・・寝てることは構わないんですか?」
「授業の邪魔をするよりはいいだろ?それに・・・紫堂はかわいくないんだよ、実際」
試験の成績はいいからなぁ、とハゲ鉄はため息混じりにぼやいた。
「あたしも寝よ」
深紅も学年でトップクラスの成績だった。