85.
ある日、憂弥とリックは憂弥の母に頼まれ、夕飯の材料の買い出しにでかけることになった。
「全くやってらんねぇよな……何で俺達が買い物なんか……」
ぼやく憂弥に微笑みながら、「そんな風に言うもんじゃない。おばさんには世話になってるんだ。これぐらいお安いご用だ」
「世話になってるだなんて、ホントに気にすんなよ。お袋だって家が賑やかになって喜んでんだぜ」
「ああ、でもな、俺達はここ数年、ずっと戦いの中で生きてきた……今のこの暮らしは夢のようだ……朝起きて、そこには暖かい食卓と優しい母親の姿がある……」
「そんなもんかね……」
「そんなもんさ……そして、それが俺達にとっての夢の世界だった……憂弥、俺は今の暮らしに埋もれてしまいそうだよ……この暮らしが余りにもかけがえのない物に感じて……もう戦いの世界には戻りたくないんだ」
リックの金色の髪が、寂しそうに風にそよいでいる。憂弥はリックの心が見えず、ただじっと見つめる事しかできなかった。
「憂弥……それでもやっぱり、俺達はウォーリピアの人間なんだ。いつまでもこの世界にいる訳にはいかない……」
「なに言ってんだよ。しょうがないじゃないか。今何をしたところで帰れないんだ。リック達はこの世界でゆっくり骨休めをしていればいんだよ!」
「……」
二人の間に気まずい沈黙が流れる。リックは軽く髪をなで上げ、
「俺達がこうして平和に暮らしている間にも、ウォーリピアではエル・フィリオンの圧政で苦しんでいる人がいるんだ。俺達だけが、ここで幸せに暮らしていることはできない」
「でも、しょうがないんだ!次元の通路は……」
憂弥の反論をリックが制する。それは力強く、また絶望にも似た制止だった。
リックは突然上を見上げる。憂弥もまた、それにつられるように視線を向けた。
「次元の通路は復活しているよ」
上空で腕を組みながら、初めて見るタスクを纏ったレヴィアが浮かんでいた。