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「ダンストン・リードルは、当時はレヴィアになりたてだった。エルモの時が全くの初陣だったらしい。もちろん、クロスボーン・レヴィアスの中でもずば抜けた実力を持つ新人だと、もっぱらの評判だったそうだが…」
リックはそこまで話すと、ふっと息を吐き「今ではクロスボーンのナンバー2だ。“不動の皇帝”カイザー・リードルって呼ばれてる。全く、俺たちは不運だったって訳さ」
遠くを見つめるリックに、憂弥は言葉を失った。父親を事件で亡くしたとは言え、ここまで凄惨な日常は憂弥の想像を超えていた。
「ま、その後、何とか俺も立ち直り、自分を磨きつつ任務をこなしてきた。戦いのたびに仲間の死を経験し、いつしか出撃の命令におびえる毎日だった。しかし、それもいつしか慣れていく…。気がついたら戦闘こそが日常に変わり、何にも心を動かされなくなっていた」
リックは自嘲するように話を続ける。
「今回の任務もそうだった。初めての異次元ということもあり、本来なら心境の変化くらいはありそうなものだ。ところが、全くいつもと変わらない。もちろん、レヴィ・ストーンの奪還という任務はこれまで以上に重要だ。身のしまる思いはあったがな…」
「…」
話の先が見えず、憂弥はただ無言のまま、リックの言葉を促す。
「暗い話ばかりで悪かったな。でも、初めてなんだ。自分の昔話をするなんて」
リックは続けて「今、夢の世界にいるみたいだ。お前の母さんは無防備でか弱い。気さくで慈愛に満ちている。お前たちの世界では当たり前のことかもしれないが、少なくとも俺にはなかった時間だ。それを妬む気持ちはないが、うらやましいとは思う。できれば、俺みたいな奴らみんなに、カイの奴にもこの時間を味あわせてやりたい。こんな時間が当たり前のこの世界を、俺は守りたい。できれば、ウォーリピアにもこんな生活を…と、まぁ、そんなことを考えてたらな、お前にも知って欲しくなったんだ。ちょっとした意地悪心だ。『お前の日常はすばらしい。お前はそれを認識していないだけだ。不運な話だが、お前はすでに巻き込まれてしまった。巻き込まれてしまった以上、お前はそれに背を向けることは許されない』そう伝えたくなった」
リックは、しかし憂弥を柔らかいまなざしで見つめた。そこに意地悪さなど微塵もなく、憂弥は素直に「ああ、あんたは同情してくれているのかもしれないが、俺はありがたいことだと思ってる。少なくとも、自分の知らないところで自分の大切な人を失うことはなさそうだからな」
「憂弥…」
「しんどいけど、知らないうちに失くすのはもうごめんなんだ。もう二度と…」
憂弥は諒子のはしゃぐさまを眺め、食卓においてある秋彦の写真に目を移し、そして深紅を想った。