76.
紫堂家の食卓は数年ぶりに賑やかになった。異次元からやって来たリック達は、まるで以前から家族の一員だったように、憂弥の母親とも打ち解け、ひとときの平和な生活を楽しんでいた。シャドウも何かにつけ気さくに振る舞い、異次元のレヴィア達と憂弥の間にも、少しずつ連帯感が芽生えていた。
「それにしても、お前んちは変わってるな」
「なにが?」
リックの何気ない一言に、憂弥は振り返る。
「いや、突然見ず知らずの人間が転がり込んで、お前の母さんは嫌がるどころか嬉しそうだ」
「ああ、母さんはいつもこんな感じだ。住むトコなくなった友達がいるって言ったら、じゃ、落ち着き先が決まるまでうちに居てもらったらってよ、こっちも驚くくらいあっさり言いやがった」
「そうか、なんか申し訳ないな。こんなに良くして貰って」
「気にすんなよ。実際喜んでるんだと思うよ。親父が死んでから、俺も母さんもどこかおかしかった。陽気に振舞っていてもなんか空々しくて・・・」
「親父さん、亡くなったのか?」
「ああ。ま、2年前の話だ。別に気にすんな」
「そうか。お前の母さんを見る限り、そんな辛い過去があるようには見えないな」
リックは諒子の横顔に目をやる。彼女はシャドウの冗談に涙ながらに笑っている。
「ああ。うちの母さんな、強いんだ、すごく。俺なんか足元にも及ばないほど・・・」
リックは憂弥の横顔に目を移す。憂弥もまた、母親の笑顔を見て微笑んでいた。
「俺たちは・・・」
リックが語りだす。
「こんな生活に憧れていた」
「憧れ?」
「ああ。なんてことのない普通の生活。朝起きて、母親の作った飯を食って、時に父親にしかられ兄弟とは喧嘩をし、食べるために働いて疲れたら眠る」
「・・・・・・」
「多分、お前たちからすれば、それは平凡という言葉で片付けられてしまうんだろう。けれど、それは間違いなく幸福と同義だ」
「リックたちの世界では、それはなかったと・・・?」
リックは寂しそうに目を伏せる。
「俺たちの平凡を話そう。それはお前にとっては全く別世界の話に感じると思う。ま、実際別世界だしな。だが、今はもうそれほど遠くない世界の話だ。聞いておいて欲しい。これからのお前には、聞く価値のある話だと思う」