75.

ある日、突如として非現実の世界へと放り込まれた憂弥は、それでも平然としたものだった。もとより、高校生の割には落ち着いた性格だったし、父親がいないせいか、同年代の少年よりも明らかに大人びていた。だからこうした状況になっても、特にうろたえることもなく、ことここに至っては全てを素直に受け入れていた。

思えば信じ難いことの連続だった。自分達の住む世界の他に、もう一つの世界が存在することなど、これまでの彼は考えたことすらなかった。しかし、現実は思いのほか突飛で、その知らない世界からの逃亡者との出会いも、その後の死闘も、余りにも激しく彼の中に入り込んできた。

そんな現実に、特に戸惑う様子も見せない憂弥の部屋では、異次元間の行き来を可能とする空間の狭間が閉ざされ、事実上この世界に取り残されてしまったリックとシャドウが、半ば諦めたように今後のことを話し合っていた。

「とにかく、住む所を探さなきゃな……」

憂弥と同様、特に動じる気配もなく、シャドウ・ブラハムはあぐらをかいている。憂弥の部屋は七畳ほどの洋室で、窓際にベッド、その脇にタンスとステレオ、大きく空いたスペースにテーブルが置いてあるだけの、飾り気のない部屋だ。テーブルを囲み、異次元の勇者達は座り込んでいた。

「でも、俺達はこの世界の人間じゃないんだぜ。住む所なんてそう簡単にはないだろ?」

落ち着き払ったシャドウとは対照的に、リックは自分達の現状を憂慮している。

憂弥はお茶を出しながら、「だったらとりあえずここに住めば?俺んちあとは母親しか住んでないから、この部屋の他にもいくつか寝るところはあるぜ」

リック・ロシアンブルーは出されたお茶を飲み、少し考えると、「そう言ってくれるのはあり難いが、所詮俺達はウォーリピアの人間だ。いつまでもこの世界で生きていく訳にはいかない。何とか帰る手段を考えなければ……」

「しかし、あの入り口が塞がってしまった以上、帰るのは不可能じゃないか?次元間の通路は、神の力でなければ開けない。俺達がいくらがんばったところで、所詮は人間だ。神の力には遠く及ばない」

シャドウは言葉を選びながら反論した。確かに、いくら神の力の源である、レヴィ・ストーンが憂弥の手にあると言っても、その力を引き出すことなど到底かなわない。その場にいる全員が沈黙した。

「そうか!!」

沈黙を破ったのは憂弥だった。

「大丈夫だ。帰れるぞ!」

異次元のレヴィア達の視線が憂弥に集まる。シャドウは先を促すように、「どういう事だよ?」

「レヴィ・ストーンさ」

憂弥はもったいぶるように言った。

「レヴィ・ストーンがどうしたんだ?」

リックも興味深げに聞き返した。

「ちょっと考えればわかることじゃないか?レヴィ・ストーンだよ」

それでも二人は何も思い浮かばず、ただ首をかしげるばかりだった。

「いいか、エル・フィリオンはウォーリピアを支配し、おまけにこの世界も支配しようとしてるんだろ?」

「ああ、そうか!!」

憂弥の言葉にようやく合点がいったように、シャドウがあとを続ける。

「つまり、エル・フィリオンはこの世界に攻撃をし掛けるためにも、レヴィ・ストーンを手に入れるためにも、自分の持っているレヴィ・ストーンの力で、必ず次元の通路を作るはずなんだ」

「そういうこと。だから当面はうちで暮らせよ。そのうち、必ず向こうから仕掛けてくるさ」

リックも合点がいったらしく「あんまりありがたい話じゃないけどな。しかし、憂弥の言うとおりだ。なんか納得したら腹減ってきちゃったな……」

「図々しいぞお前」

三人の間に笑いがこぼれた。