59.

特に考えもなく、俺はある喫茶店に入った。ゆっくりするときはコーヒーに限る。そこに、アレスはいた。

彼女はどこかしら惚けたような目で、窓の外の景色を眺めていた。そんな彼女を、任務も忘れて俺は見つめていた。透き通るような肌をした、どこかしら頼りなげな彼女は、俺が遠い未来に夢見る家庭に、あまりにもふさわしく思えた。認めたくはないが、完全な一目惚れというヤツだったのだろう。

どれほどの時間見とれていたのだろうか、それはあまりにも長い時間だったのだろう。彼女が視線に気づき、俺たちは見つめ合ってしまった。その時の俺の中には、任務のことなどひとかけらもない。ただ、このきっかけを利用し、彼女のテーブルへと足を進めていた。

彼女は最初こそ、迷惑そうな、戸惑ったような態度を見せていたが、俺の仄かな夢を語ると、うれしそうに目を細めた。

「私も同じ夢を見ていたわ。旦那さんがいて、私がいて、いたずらばっかりの男の子がいて、平凡だけど慌ただしい毎日を過ごすの。もちろん戦争なんてないわ」

彼女もまた、自分の夢を熱心に語る。初めに感じた頼りなげな印象は影を潜め、しっかりとした考えを持つ彼女に、俺はさらに惹かれていった。

「私はこの街で生まれたの。戦争で両親を失い、親戚のうちに引き取られてしまって、長いことここには来れなかったわ。久しぶりなのよ、だから」

この時ほど胸を痛めたことがあっただろうか。彼女が惚けた表情をして通りを眺めていたのは、故郷に帰ってきた懐かしさからだったのだ。そして、その故郷を、俺がこれから破壊する。残酷な出会いに、俺の鼓動は激しくなる。実際、息をするのもままならないほどだった。

「街を出るんだ、今すぐに」

不思議そうな目で彼女は俺を見つめる。もう耐えられない。

これ以上彼女と一緒にはいられなかった。任務は遂行されなければならない。俺は彼女にもう一度街を出るように強く言うと、振り切るように店を出た。