51.

久し振りに保健室には顔を出さなかった憂弥だったが、一日の大半を教室で寝て過ごし、彼は軽い頭痛を感じていた。

深紅はいつも通り部活に行き、仕方なく憂弥は一人で下校した。

閑静な住宅街をぶらぶらと歩く。心なしか足元がふらついていた。

その時、背後から「よう!やっと見つけた」

「ん?何だ、リックか?」

振り向くと、そこにはリック・ロシアンブルーが立っていた。

「おいおい、つれないなぁ。俺は必死でお前を探してたんだぜ」

ぼやきながらリックが近づいてくる。

「何で?用があるならうちに来ればいいだろ?」

「お前、冷たいねぇ。それもひっくるめて探してたんだよ」

憂弥は怪訝そうな顔で「あれ、俺んち知らなかったんだ?俺はてっきり、そんなことは調べてるもんだと思ってた」

「この前会ったのだって偶然だったんだ。お前の居場所を聞いておかなくて、俺がどれだけ後悔したか・・・」

意外と抜けてるんだな、と憂弥は軽口を叩く。

「うるせぇ」

「張り込んでたのか?で、今日は何の用だよ?」

「ああ、ちょっと紹介したい奴がいて・・・」

リックが応えようとしたその時、突然辺りが暗闇に包まれてしまった。二人は眩暈の様な感覚に襲われ、それが治まる頃には知らない場所にたたずんでいた。

「しまった!敵に見つかったらしい」

「敵?!」

「お前を狙い、やって来たエル・フィリオンの手の者だろう、多分」

二人は互いに背中合わせに身構えた。

そこはもう薄暗くなった林の中のようだ。木々がそびえ、その隙間からわずかに見える空は群青だ。憂弥は辺りの様子を伺いながら「どこにいるんだ?エル・フィリオンの手先ってのは」

「わからん。それにしても奴らがお前を探すなら、タスクを通して呼びかけてくるだろうと思っていたが……」

すると、どこからともなく声が聞こえ

「私は貴様らライナー・フルの手下ども存在も想定していたのさ。だから地道に探す事にした。相手に居場所を知られずに紫堂憂弥を捜せるようにね……」

「その声は……アレスか?」

「久しぶりね、リック。その通りよ」

木々の間からアレスが現れた。片腕のないその女は、うっすらと微笑みながら「あなたが紫堂憂弥と出会ったのが偶然なら、私がそれを見かけたのも偶然ね」

「アレス……」

アレスはタスクを纏った。その姿はとても女性とは思えない程勇ましい。全身が白を基調としており、頭部は高く前に迫り出している。右腕は肩から先がないが、左手の方はそれを補うように強靭に見える。

「憂弥。タスクを纏え。サラマンダーの実力を見せてやれ!」

リックは自らもタスクを纏い、憂弥に向かって叫んだ。

しかし「冗談じゃない!女相手に戦えるか!」

憂弥の答えにリックは信じられないといった表情で、「お前、何を言ってるんだ?殺らなきゃ殺られるぞ!」

「あぁ。そんじゃあんたの実力に期待するよ。まだ聞きたい事は山ほどあるんだ。死なないでくれよ」

「お前、傍観を決め込むつもりか?」

「そう言うこと」

「お前・・・」